笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

インプットを怠らない明石家さんまとオードリー若林正恭

今から9年前、2008年の出来事になります。

当時、岡村隆史が明石家さんまのある行動に衝撃を受けてしまいます。それはどんな行動で、そしてなぜ衝撃を受けたのかを、自身のラジオで明かしていました。

若手と対等に渡り合うために『ドラゴンボール』を読み始めた明石家さんま

2008年6月12日放送「ナインティナインのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)

パーソナリティはナインティナイン(岡村隆史・矢部浩之)。

日テレで仕事をしていた岡村さんは、下の階で「恋のから騒ぎ」の収録があることを知り、さんまさんの楽屋へ遊びに行きます。あとから小島よしおさんも挨拶にやって来て、3人でおしゃべりをしていました。

すると小島よしおさんが岡村さんにこう言ってきたそうです。「さんまさん、今『ドラゴンボール』読んでるんですよ」。この漫画が『週刊少年ジャンプ』で連載されていた期間は、1984年~1995年になります。それなのになぜ今(2009年)になって読み始めたのでしょうか。
(さんまさんの発言は岡村さんが再現)

さんま「今、若手『ドラゴンボール』の話しよるやろ、で、俺あんまりよう知らんから、今まで、『かめはめ歯!』言うて、こう歯を、俺出てるから、『かめはめ歯!』言うて、それで全部笑いで逃げててん」
岡村「って」
矢部「ははははっ」
さんま「それで逃げてたらアカンなと思って、『ドラゴンボール』全部読もうと思って、今、『ドラゴンボール』読んでる」
岡村「って聞いたときには、やっぱすごいねんな~と思って」

「かめはめ歯!」の笑いは逃げだ。そう言い切るさんまさんのストイックさに驚くナイナイ。

さんま「これからは俺、逃げへんねん、若手とも対等に『ドラゴンボール』の話すんのや」
岡村「って言うて」
矢部「ふふっ、(そんなことしなくても)ええやん」
岡村「今『ドラゴンボール』読んではんねんて」
矢部「へぇ~、すごいなぁ」
岡村「そこまでしはんねんな~思って……だからそれがやっぱり、BIG3って言われるひとつの所以なんやろうな」

この9年前の放送を思い出すきっかけとなったのが、「ゴッドタン」などを手掛けているテレビ東京の佐久間宣行プロデューサーのインタビューでした。

若者に通用する例えが『ドラゴンボール』から『ワンピース』へ

おじさんが若者にウケ続けるには? テレ東「ゴッドタン」Pが続けていること

インタビュアーに「12年間ずっと若い人に支持されている」理由を聞かれた佐久間プロデューサーは、「発想が古くならないように、常に新しい文化を吸収するようにしています」と答えました。

そう答えたあとに具体的なエピソードを示すのですが、ここで『ドラゴンボール』が登場するのです。

これは若林くん(オードリー)が言ってたんですけど、昔ドラゴンボールで例えたら客席がまったくウケなくって。で、その後澤部(ハライチ)がワンピースで例えたらドカンとウケたことがあるそうなんです。インプットがいかに大事であるかを表していると思います。

9年が経過して、若者に通用する例えが『ドラゴンボール』から『ワンピース』に移行しつつあるのでしょう。ちなみに『週刊少年ジャンプ』で『ワンピース』の連載が始まったのは、1997年です。

あと、このインタビューで「昔の方がいいは違う。いまが一番面白い」と語る佐久間プロデューサーに、テレビマンとしてのプライドを感じました。

さんまさんはきっと『ワンピース』も読んでいるでしょう。『ドラゴンボール』のときと同じ理由で。そしてオードリー若林さんも読み込んでいるに違いありません。そう判断する根拠は、彼らのラジオにあります。

キングボンビーの例えが分からず急いで「桃太郎電鉄」を買ったオードリー若林

2017年8月5日放送「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)

パーソナリティはオードリー(若林正恭・春日俊彰)。

ついに発売された「ドラゴンクエスト11」。この話題のゲームを若林さんも購入しました。ところが、ドラクエシリーズに触れるのは、小学校のときにやったファミコン版「ドラゴンクエスト4」以来なのだそうです。

「ドラクエ11」にはPS4版と3DS版の2種類のソフトが存在します。若林さんが選んだのは、3DS版のほうでした。なぜならニンテンドー3DSをすでに所有しているからで、少し前は「桃太郎電鉄2017 たちあがれ日本!!」で遊んでいたと言います。するとここで若林さんが打ち明けます。実は桃鉄シリーズも今までやったことがなかったと。

「ドラクエ」にしろ、「桃鉄」にしろ、ここにきて急にテレビゲームの面白さに目覚めたのでしょうか。確かにそういう面もあるでしょう。しかし理由はそれだけではありませんでした。

若林「『しくじり先生』で、澤部がなんかツッコミで、『キングボンビーじゃないですか!』つって」
春日「あ~、はいはい」
若林「って言ったら、ドカーン! とウケたのよ」
春日「へぇ~」
若林「それで俺は、キングボンビーの意味が分かんなかったから、なんか『へっ、へっ、へへ……へっ』って知らないのに笑ってた」
(スタジオ笑)
春日「なるほどね」
若林「うん、くふふっ」
春日「合わせたのね」
若林「笑ってないと、なんか、『笑わないですよ、俺は』に見えちゃうから、『へっ、はは……ふっ、へへ』って笑ってたの」
春日「合わせた笑いね」
若林「そうそうそう、知らなかったんだけど、で、やべえと思って急いで『桃鉄』を買いに行ったのよ
春日「なるへそ」
若林「うん、そのぐらい、皆が笑うぐらいのものなんだと」
春日「まあメジャーだよね、『桃鉄』は」
若林「そうそう、まあ、ちょっとその……普段からアンテナ立ててますよって、ちょっと今、アピールしたんだけどもね」
春日「なるほど、さすが、天才」
若林「なんだお前? 殺っちまうぞ」
(スタジオ笑)

本人にとっては努力ではなく当たり前の行動だけど、もしかしたら努力だと思われかねない。だからあえて努力をアピールする痛いキャラを演じて笑いにすることで、その懸念を打ち消そうとしたのではないでしょうか。最後の照れ隠しに、そんな意図を感じました。

若林さんの知らないことをそのままにしない姿勢は、彼が最近出した本からも伺えます。

家庭教師を雇ってニュースの解説をしてもらっているオードリー若林

若林正恭『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』(KADOKAWA)

23ページ「家庭教師」の章から。

1年前から家庭教師を雇っている。
年齢もアラフォーだというのに、ニュース番組を見ても全く理解できないことが恥ずかしくなって家庭教師を知り合いに紹介してもらった。家庭教師といっても、授業をしてもらうのはほとんどカフェだから正しくはカフェ講師というのかもしれない。ニュースをわかりやすく解説してもらったり、ぼくの疑問に丁寧に答えてもらったりしている。
40の手習いだ。

家庭教師は東大の大学院生だそうです。

そしてこの授業を通じて世の中のシステムを学んだ若林さんは、東京のシステム以外で生きる人たちをこの目で見てみないと気が済まなくなり、キューバへと、ひとり旅立つのでした。