笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

千鳥の漫才が目指すもの

「声に出して笑っていなくても、頭の中は笑っているような、この雰囲気の感じ完璧でした」。

2017年10月29日放送の「にちようチャップリン」。審査員として客席に座っていたアンガールズ田中さんが、ジェラードンのコントについて感想を求められたときにこう答えました。この田中さんの秀逸なコメントを聞いた瞬間、ふと思ったのです。これってつまり「床暖が効いている」ってことではないかと。

「M-1グランプリ」で優勝したときのネタは好きじゃない

2017年1月19日放送「ニューヨークのオールナイトニッポンZERO」(ニッポン放送)

パーソナリティはニューヨーク(嶋佐和也・屋敷裕政)。
ゲストはNON STYLE石田明。

2008年の「M-1グランプリ」で優勝したNON STYLE。ナイツ、敗者復活から勝ち上がってきたオードリーとの最終決戦を制しての栄冠でした。ところが、ある番組で石田さんが「M-1獲ったときのネタは好きじゃない」と発言していたらしいのです。実際に番組を観ていたニューヨークが、この発言の真意を尋ねます。

屋敷「なんかの番組で石田さんがしゃべってるの見て、『M-1獲ったときのネタなんか全然、俺好きじゃないねん』みたいなことを石田さんが言ってはったの見て」
嶋佐「俺も見た」
屋敷「それってなんか、すごい感覚やなって思ったんですよ、僕らが漫才師としてちょっとやらせてもらってるときに」
石田「うん」
屋敷「好きじゃないネタ、これやったらでも獲れるって思ってみたいなことですか?」
石田「それしか戦い方がなかったんや、そんときは」
屋敷「いろいろ消去法で考えた結果、『これや!』ってなったんですか?」
石田「うん、根本好きなネタやで、元々言うとな、でも、結局好きじゃない形に落とし込めていってるわけやんか」
屋敷「なるほど」
石田「言うとさ、ダラダラやってる漫才が実は一番楽しいやん、俺ら」
屋敷「まあまあ、制限なく」
嶋佐「確かにそうですね、やってる分は」
石田「うん、体脂肪多めのほうがいいやん」
嶋佐「はい」
石田「あんなもうさ、細マッチョのさ、漫才なんか、何が楽しいねんっていう」
屋敷「あ~、そういうことか」
石田「そうそう、楽しいか楽しくないかでいくと、楽しくないやん、うん、やっぱ2人が楽しくないと漫才ってよくないと思うから」
屋敷「そうっすね」
石田「その観点からいくと、やっぱ全然好きじゃない」
嶋佐「なるほどな~」

では、実際どのような形に落とし込めていったのでしょうか。

NON STYLEの漫才は二重奏

屋敷「それって、ネタの細かいアレはいろいろ考えたと思うんですけど、なんかでっかく変えたことあります? その、ネタじゃない部分で、例えばペースめっちゃ上げたとか」
石田「あ~、やっぱりそれは、たまたま『(爆笑)レッドカーペット』ブームも来たから」
屋敷「はいはい、ありましたね」
石田「1分間で漫才をせなアカンという波が来てたから、そこで俺たちは結構やってたんやけど、これでもアカンと、これぐらいは誰でもできるってのがあったから」
屋敷「はい」
石田「それ以外でなんかちょっと、普通のボケの本線と違うところで笑いを取りたい、二重奏じゃないけど、ふたつ並行しながら笑い取っていけたら、ひとつのフリで2個ポイント取る」
屋敷「なるほど、システム的なことで」
石田「っていうのが、ふんわりあって、それをやろうと思ってて、だから試行錯誤があってあの形になった、ツッコまれたあとにまた自分でツッコむっていう」
嶋佐「なるほどな~、やっぱシステムから考えた……」
石田「そのときは、だからシステムから考えるときってやっぱ楽しくない」

「M-1グランプリ」で勝つという目的があるので仕方ない面もあるが、システムばかりに気を取られてしまうのはよくない傾向だと話す石田さん。

関係性で笑いを取る千鳥の漫才

石田「やっぱネタと、ネタ部分でウケて、それプラスアルファ、やっぱ2人の関係性でウケるのがベストなのよね」
嶋佐「はいはい」
石田「やっぱそこを出すと、めちゃくちゃ強いわけ」
屋敷「関係性か……」
石田「そうそう、だから、ボケとかそういうところじゃないところ」
嶋佐「はいはい」
石田「千鳥さんなんていうのは、それの最たるもんで」
屋敷「まあ、そうですね」
石田「関係性で笑いを取ってんねん、ネタ部分と関係性、それでもっと言うと、中川家さんとか、華大(博多華丸・大吉)さんとか、もうね、ずっと人柄が出てるやん」
屋敷「そうですね、それめっちゃ言われるんですよ! 『ニンとかを出せ』みたいな」
石田「そうそう、だから人柄が見えへんから、ただ2人で面白いことをしてる人たちになっちゃう」
屋敷「そうですね」
石田「じゃなくて、『あの人たち面白いよね』、『あのネタ面白いよね』じゃなくて『あのコンビ面白いよね』って言われるようになってかなアカンから
屋敷「確かにな~」
石田「それは俺も勉強中やけど」

このあと、千鳥を筆頭に2人の関係性が見える漫才師たちの強さを石田さんが分かりやすく説明してくれました。

床暖が効いている漫才

屋敷「それ(関係性で笑いを取ること)って最初から絶対に意識してないですよね、とりあえず闇雲に作るやないですか、ネタなんて」
石田「そうそう」
屋敷「どっかのタイミングで『それや!』って思ったってことですか? もう本当のことやろう、言おうみたいな」
石田「なんかもうホンマ……自分のネタ見ててもそうやし、他の人のを見てても、ある日、さっきのボケはウケたのに次のやつ、なんかもう冷めて、次のボケも面白かったのに、さっきの冷めがあったせいで、あんまハネてへんな~とか」
屋敷「はい」
石田「どんどんウケにくくなっていく、『これ、なんやろうな?』みたいな、でも! この人らってそんなにバガバガ面白いボケ出してないのに、『なんかずっとウケてんねんな……』っていう人も」
屋敷「いや、分かりますわ」
石田「で、俺はこれをもう最近は、床暖が効いてるタイプか、効いてないタイプか
屋敷「なるほど」
石田「このホクホク、人間同士のやつがあって、床暖効いてるから結構長いことウケてなくても見てられるのよ、なんかずっとニヤニヤしちゃうというか」
屋敷「はいはい、なるほど」
石田「でもホンマにシステムだけでやってるとか、ただ面白いことをやりたいだけの人ら、だからそこに熱、人間としての温度がないヤツって、やっぱもう……ゴリゴリのコンクリート打ちっぱなしみたいなもんで、すぐ冷えんねん」
屋敷「なるほどな~!」
石田「だからバーン! いいボケしても、次でなんかスーン……ってなる」
屋敷「はいはいはい」
石田「結構おるやろ?」
屋敷「はい、おるし、経験ありますわ」
石田「そうそう、アレってだからただの大喜利でしかない」
嶋佐「はい」
石田「大喜利と同じ現象やねん」
屋敷「面白いことを言うか言わんかのジャッジでしかないってことですか? そのお客さんが」
石田「そうそう、だから中川家さんがさ、出番10分やねんけど、たまにスイッチ入ってもうて10分のところ15分ぐらいやって、で、その延びた5分、もうスイッチ入りすぎてお客さんついてこれずに、チンチンにスベってるときあんねん」
(スタジオ笑)
石田「その5分間、好きなことやりまくって」
嶋佐「一瞬ありますね、合間合間に」
石田「あるやんか、でもそれって皆見てられる、めちゃくちゃ楽しいやん、笑いぞせえへんけどめっちゃ楽しい、ああいうことやねん」
屋敷「なるほどな~、深いなぁ……」

千鳥の漫才に関しては、ナイツの塙さんも同じような分析をしていました。

千鳥の漫才を真似するのは難しい

2018年3月3日放送「ナイツのちゃきちゃき大放送」(TBSラジオ)

パーソナリティはナイツ(塙宣之・土屋伸之)。
アシスタントは出水麻衣。
ゲストは千鳥(大悟・ノブ)。

志村けんさんとプライベートでよく飲む大悟さん。そのときお笑いについて真面目に語ったりもするのだそうです。

大悟「今のワシらの漫才とかも、『よく被せ(かぶせ)やるよね、アレは実は、腕がないとできないんだよね』とか」
塙「見てるんだ」
ノブ「そう」
大悟「志村さんも結構しつこいのやるやん」
土屋「うんうん、しつこいのね、ふふっ」
ノブ「あとあとドリフ見返すとそうやねんな」
塙「アドリブっぽくやったりとか、舞台を楽しそうにやるのとかね、ちゃんとした技術がないとできないから」

千鳥の漫才が高い技術によって支えられていることを見抜いていた志村さん。このエピソードを聞いて、塙さんも黙っていられません。

塙「やっぱ千鳥の漫才とかを、僕らが本当に正月とかに見て、もうめちゃめちゃ無双状態になるときあるじゃん、ウケてて」
ノブ「いやいや、ないよ」
塙「僕らってね、ちょっと機械っぽいから、その、割と淡々とやるじゃない」
土屋「うん」
塙「やっぱ年的に40(歳)だし、ちょっとこの人間の感情じゃないけど、そういうの入れたいなって思ってて、すごい参考になるのね
ノブ「へぇ~」
塙「だけど、さっき志村さんが言ってたけどさ、難しいじゃん、そういうのって」
ノブ「はいはい」
塙「簡単そうで、それをなんか若手とかがさ、やっぱ1年目とか2年目がやろうとするじゃん、アレ腹立つんだよな」
(スタジオ笑)
土屋「結局若手批判かよ」
大悟「なんでも真似から始まるやん」
ノブ「俺らを褒めてくれるんかなと思ったら、若手批判や」
(スタジオ笑)

ここで『週刊少年ジャンプ』の話を持ち出してくる塙さん。

塙「今の『ジャンプ』と一緒で、今『ジャンプ』がさ」
土屋「ジャンプ?」
塙「新連載がすぐ終わるのよ」
ノブ「はいはい」
塙「結局ね、『ドラゴンボール』も、『キン肉マン』も、『HUNTER×HUNTER』も、元々ちょっと違う話から始まって、で、なんとかトーナメントみたいになっていくのよ」
大悟「うん」
ノブ「天下一武道会みたいに」
塙「天下一武道会とか始まって人気になっていくのに、そのパターンを知ってるから、今の漫画家が、初めから天下一武道会やろうとするんだけど」
ノブ「なるほど!」
塙「まだそいつらのキャラクター知らねえよ、みたいな」
ノブ「はいはい!」
塙「千鳥はやっぱりいろんなことやってきて、スベったこともあったし、M-1で、それをやってきたから今面白いわけじゃん?」
ノブ「なるほど」
塙「だから『1年目からそういうことすんな!』って言いたいの」
(スタジオ笑)
大悟「それをワシらに言われても」
土屋「はははっ、いや、そうだね」
ノブ「昼からアチ~、アチ~な~、昼から」

塙さんの例え話にノブさんは大きくうなずいていました。その理由はきっとノブさん自身が意識してやってきたことだからでしょう。

漫才のネタを変えるのではなく自分たちがポップな存在になればいい

2018年4月21日放送「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)

パーソナリティはオードリー(若林正恭・春日俊彰)。
ゲストは千鳥ノブ。

若手時代はとにかくトガっていた千鳥。それを象徴するエピソードを聞けば聞くほど今の千鳥とはギャップがあるので、若林さんが率直に尋ねます。何か変化するきっかけみたいなターニングポイントはあったのかを。

若林「別にどこかで、なんかこう自分を変えようとか思ったとかないんですよね? 今日まで、その、ちょっと変えたほうがいいのかな……とか」
ノブ「え~っと……でもあるある、全然ある」
若林「やっぱあるんすか、(芸暦)2年とか3年でM-1決勝出て、なんかキツかった時代とかあるんですか? ここの3年キツかったな~みたいな」
ノブ「あ~、でもな、あるある」
若林「何年ぐらいですか?」
ノブ「M-1の、2003年にM-1出て……続けて出たんかな? 2004年ぐらいに出たときに」
若林「すごいことっすよね、(芸暦)3・4年で」
ノブ「そう、連続で出たけど、まあどっちも最下位やって、全然やったけど」

それでも周りの芸人やスタッフからは「攻めててよかったよ」と声を掛けてくれたそうです。だからそこでもっと調子に乗ってしまい、気が付いたら腫れ物扱いされていた。そう当時の状況を振り返るノブさん。

ノブ「そんぐらいのときに、大イキリ仕事ナイM-1最下位ぐらいの、腫れ物みたいなときに、情報番組の仕事が来たのよ」
若林「はいはい」
ノブ「大阪で」

夕方放送で、年配のアナウンサーが司会という、いわゆる「ヒルナンデス」よりももっとお笑いの要素がない情報番組だったとのこと。当然ながら、千鳥の笑いを理解している周囲の芸人やスタッフからは「なんで千鳥があんなの出るの?」という疑問の声が上がりました。しかし、ノブさんは耳を貸しませんでした。

ノブ「俺は、なんかその、しようもない漫才してたのよ、なんのこともない、なんの時事ネタも入れない……なんかキャッチーな話題でもないネタ」
若林「はい」
ノブ「アイドルのことを言うわけでもないようなネタ、もうどうでもいい、おにぎりなら、おにぎりだけの話の漫才をしてて」
春日「はいはい」
ノブ「ウケなかったんやけど、どうにか、このネタを変えるんじゃなくて、俺らがポピュラーになれば、ポップな存在になれば、こんななんかしようもないトガったネタも、ウケるようになるんじゃないかと思って
(唸る若林)
ノブ「これはちょっと……迎合作戦に入ろうということで、まあ、やり出したのが」
若林「あ~」
ノブ「だから情報番組、そっからしこたま出たな~」
若林「お馴染みの顔になれば」
ノブ「そうそう!」
若林「入り口は開いてますもんね」
春日「なるほど、見やすくなりますもんね」
ノブ「そうそう、だから見る感じが変わる」

そのような考えに至るきっかけは、師匠たちの漫才でした。

ノブ「なんか昔、ダイマル・ラケット師匠とか……だからカウス・ボタン師匠の、なんか師匠」
若林「はい」
ノブ「あと、いとし・こいし(夢路いとし・喜味こいし)師匠とか、『えっ! こんな漫才?』みたいな」
若林「はいはい」
ノブ「ハンバーガーの順番、おじいちゃんが2人出てきて」
(スタジオ笑)
ノブ「『いやいや、どうもこんにちは』って出てきて、『君、ハンバーガー食べたことある?』みたいな」
春日「ははははっ」
ノブ「『ワシかてあるわい』みたいな、『一番下はなんや?』『レタスや』『パンや』」
若林「あはははっ」
ノブ「みたいなことを10分ぐらい、もうこれだけ! この順番のことだけ、これがしたい……と思って」
若林「あ~」
ノブ「で、『なんでこれでウケてるんだ?』っていうのはもう、認知されて、すげ~ポピュラーな存在になってるから」
春日「なるほど」
ノブ「こんなくだらないこともウケるようになるんだと思ったから」

千鳥が目指したい漫才とは、まさに「床暖が効いている」漫才そのものな気がしてなりません。

ナナメの夕暮れ

ナナメの夕暮れ

大橋巨泉「ビートたけしにとってテレビはワンオブゼム」

「決勝当日は有給をとる」。

こう語ったのは「R-1ぐらんぷり2018」で決勝に進出したカニササレアヤコさん。彼女はロボットエンジニアとして働きながら、フリーで芸人もやっています。だから大会への意気込みを聞かれた際、このような兼業芸人ならではのコメントとなったわけです。

最近、賞レースの決勝進出者にカニササレアヤコさんみたいな兼業芸人が増えてきた気がします。女芸人ナンバーワン決定戦「THE W」には鳥取市職員の押しだしましょう子さんがいましたし、「キングオブコント」で旋風を巻き起こしたにゃんこスターに密着する番組では、アンゴラ村長がスーツを着て会社に出勤する姿がありました。

たとえ賞レースで最後まで残る実力があったとしても「芸人の仕事」だけで食べていくのは難しい。そんな悲しい現実を読み取ることもできるでしょう。しかし副業を持つことは、芸人を続けるための保険になるだけではありません。武器にもなります。その武器が使える場面は、交渉のテーブルについたときです。

兼業作家でないと編集者と対等に話せない?

2017年7月2日放送「ボクらの時代」(フジテレビ)

出演者は万城目学(作家)、森見登美彦(作家)、上田誠(劇作家)。

作家はどれぐらい本が売れたかで収入が決まるので、人生設計ができません。よって会社に勤めながら作家デビューを果たした新人に対して、編集者はこう助言するそうです。「仕事は絶対辞めてはいけませんよ」。

すると森見さんが自身の経験から付け加えます。別の意味でも辞めてはいけないと。

森見「編集者の人に対して、対等に話せないと思ってたんですよ、やっぱりその、生活の糧が別にないと
上田「力関係も含め」
森見「そうそう、原稿の仕事もらわなきゃって立場になってしまうと」
上田「うん」
森見「もっと辛いやろうと思って、やっぱ僕怖かったですね」

つまり副業を持っていれば交渉するときに妥協しないで済む。これと似た話を、キングコング西野さんもしていました。

テレビで好きなことをやるためにはテレビに出なくても大丈夫な状況を作っておく

2016年12月15日放送「ニューヨークのオールナイトニッポンZERO」(ニッポン放送)

パーソナリティはニューヨーク(嶋佐和也・屋敷裕政)。
ゲストはキングコング西野亮廣。

ニューヨークはネタ番組にちょくちょく呼ばれたりしてそれなりに露出があるので、全く売れてないわけではありません。ただし同期のおかずクラブや横澤夏子さんと比べてしまうと、大きく水をあけられている状態です。

西野「ニューヨークってどうなってるの? 売れてるの、売れてないの? ムズいねん、ニューヨークの扱い」
屋敷「売れてないです! 売れてないです!」
西野「でも、『オールナイトニッポン』やってるってことは売れてるんじゃないの?」
屋敷「う~ん……そういう、お金にならんことはやらせてもらってますけど」
(スタジオ笑)
西野「ふふっ、『オールナイトニッポン』、金にならんのかいな」
屋敷「その、西野さんの真逆やってます、俺らは」
西野「そう言うとお前らのこと応援したくなるやろがい!」
(スタジオ笑)
屋敷「金にならんけど、オモロいことやってます、俺ら」
(スタジオ笑)
西野「いやいや、そういう風でありたいねん! 俺も!」

両者は同じ吉本所属なだけでなく、「西野亮廣と西野を嫌いな4人の男たち」というライブでも共演しているので、信頼関係ができているのでしょう。序盤から後輩のニューヨークが深く踏み込んで、西野さんとの間に分かりやすい対立構造を作ります。

ネタ番組に呼ばれる以外では、「M-1グランプリ」や「キングオブコント」といった賞レースに挑戦したり、単独ライブをやったりと、芸人としては「ストロングスタイル」で戦っているニューヨーク。そんな彼らの目標は、テレビで好きなことをやりたい、そしてお金を稼ぎたい。

この目標に向けて何が必要なのか。西野さんの知恵を借ります。

西野「好きなことやるってなったら、当然だけど、交渉できないといけないから
屋敷「会社と」
西野「会社もそうだし、テレビ局もそうだし、まあラジオもそうなのかな? ラジオを僕やってないから分からないけど」
屋敷「はい」
西野「交渉できないと、『その条件だったらやらないですよ』っていう、交渉できないといけないから」
嶋佐「はい」
西野「まず、当たり前だけど、テレビでそういう交渉をしようと思ったら、テレビ出なくても大丈夫ですよっていう状況作っておかないと、テレビでの交渉はムズいんじゃない
屋敷「なるほど、こっちから今出させてもらってますっていうスタンス……」
西野「って言うとやっぱり、当たり前だけど、用意されたものをやるのかやらないのかで、『やらない』って言ったら、『じゃあ、お前らいらん』となって」
屋敷「その状況ですね、まさに」
西野「『いらん』って言われても、『いいっすよ、俺こっちでやりますんで』っていうのを作っとかないと……まあ、ニューヨークに限らずやで」

西野さんの場合は絵本などの創作活動がそれに当たるのでしょう。

ここまで話を素直に聞いていたニューヨークは、あえて異論を唱えてかき乱します。

BIG3はお笑いだけをやっているわけじゃない

屋敷「でも、お笑い以外のことやるのとかダサないですか?」
(スタジオ笑)
西野「真っ直ぐな目でなんちゅうこと言うねん、やってんねん、こっち、絵本書いたり」
屋敷「くふっ、芸人やのに」
西野「真っ直ぐお前、何を殺しに来てんねん、工夫して殺せや」
(スタジオ笑)

笑いのためだけのツッコミで済ますのではなく、冷静に考えてみたいテーマです。本当にお笑いだけで食べていくことは不可能なのでしょうか。

嶋佐「お笑いだけで行くためのアドバイスとか、なんかあります?」
西野「いやだから、それはもう……このご時勢に?」
嶋佐「はい」
屋敷「例えば」
西野「でも、そんなこと言い出したら、例えば、さんまさんだってトレンディドラマ出てたで」
嶋佐「そうっすね」
西野「そうやで、ほんで、タモリさんだって別にお笑いだけでっていう、たけしさんも別にお笑いだけで、じゃ実はないで」

BIG3のみならず、お笑い第3世代と呼ばれる芸人たちもそうです。とんねるずもダウンタウンもウンナンも、3組とも曲を出して「NHK紅白歌合戦」に出ていました。

とはいえ、そういった先輩たちやキングコングは、まずはお笑いで成功を収めてから別のジャンルに挑戦しています。

ブロードキャスト!!房野は歴史の人としてテレビに呼ばれてお笑いをやっている

屋敷「でも、キングコングさんも最初に頭ギュっと飛び抜けたのはお笑いやないですか」
西野「うんうん」
屋敷「僕ら今、お笑いでもまだギュっと行けてない状態から、その太柱(副業)を作っても大丈夫なんですか?」
西野「いや、俺やったらやるけどね」
嶋佐「へぇ~!」
屋敷「マジっすか!? 僕らみたいな状況で、7年目で、いまいちテレビに出れてないっていう状況でも行きます?」

西野さんは先ほど理解しやすい例としてBIG3を挙げましたが、次はニューヨークにとってよりイメージしやすい身近な芸人を挙げてその根拠を説明します。

西野「あの、ブロードキャスト!!の房野が多分、良い例だと思うんだけど、あいつ元々超腕あったやん」
屋敷「はい、めちゃくちゃツッコミ上手いです」
西野「でも、出れてなかったやんか」
屋敷「はい」
西野「でも、こないだ歴史の本(『笑って泣いてドラマチックに学ぶ 超現代語訳 戦国時代』)を書いて、それがパッとこう、ちょっと売れて、っていうことで番組に歴史の人として呼ばれて、テレビにね」
屋敷「なるほど」
西野「で、そこにさえ呼ばれさえすれば、そこの絡みではお笑いができるから、それで結局あいつはテレビでお笑いをやってたんだけど」
屋敷「うん」
西野「って言うと、結局テレビでお笑いをできてるから」
屋敷「なるほど、そのきっかけを、ってことですか?」
西野「そうそう、外から行く」

副業を持つことが実はテレビでお笑いをやる近道になっている。そうニューヨークにアドバイスする西野さん。

ところが、ビートたけしさんが若手のときに「いいっすよ、俺こっちでやりますんで」と言ったら、それは「舞台」を指していました。場所が変わっただけで、やってることは同じお笑いです。ある意味、ニューヨークが羨む時代だったのかもしれません。

ビートたけしにとって漫才師であることは素晴らしい隠れ蓑

2016年12月25日放送「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日)

司会はビートたけし。
進行は阿川佐和子。
レギュラーは大竹まこと。
ゲストは爆笑問題(太田光・田中裕二)、テリー伊藤、おのののか、他。

「2016年をザワつかせた30人」という年末特番らしい企画で、この年に亡くなった大橋巨泉さんを追悼する映像が流れました。

その映像とは、25年前(1991年)、同番組にやってきた巨泉さんがテレビについて語る姿でした。ちなみにこのとき巨泉さんは57歳で、たけしさんは44歳。

巨泉「僕はテレビの人なんですよ、テレビ屋なんですよ、テレビしかないんですよ、ビートたけしにとってテレビはワンオブゼムなんですよ
阿川「ええ」
巨泉「彼は、もともと出が舞台の人でしょ、映画監督もやれば、映画にも出れば、ドラマにも出るわ、彼にとってテレビはね、あの~、ひとつはお金を稼ぐ場所であり、ひとつはカタルシスであり、ひとつはね、やっぱり数打ちゃ当たってね、どんどん変わっていくこと、で、(いざと言う時でも)深刻にもなんにもならないんだもん」
たけし「何のためにお笑いタレントやってるかってのを考えてくれないと、お笑いタレントってずっとね、社会的にいえばね、差別されてた人たちだから」
巨泉「うんうん」
たけし「芸能界では特に、一番低ランクなんだから、漫才とかそういうのは、そういうものからスタートすると、一番楽なんですよ、いつでも逃げ帰るところがある
巨泉「そう、あるんだから、彼にとっては(漫才師であることは)素晴らしい隠れ蓑なの

映像が終わってスタジオに戻ると、今度はたけしさんがテレビについて語り始めます。

ビートたけし「時代がタレントを作る」

たけし「やっぱ、なんでも時代背景があって、巨泉さんの時代ってのはテレビ創成期で、テレビがウワァ~っていく時代にいた人なの」
阿川「勢いがあった」
たけし「運がいい」
阿川「はい」
たけし「で、石原裕次郎さんも日本映画の最盛期なんだよ、そうすると美空(ひばり)さんもそうなの、長嶋・王さんもメジャーリーグがまだ全然浸透してなくて、ジャイアンツだ阪神だ、天覧ホーマーだ、結局時代がタレントを作るんであって、その……どう考えても長嶋さんよりもイチローのほうがバッティング上手いに決まってるんだよ」
太田「うん」
たけし「ね、王さんよりも上手い人がいっぱいいる、だけど、その人間の運不運ってのは、その時代背景があって、そこで上手く生きられた人が当たるってことであって、漫才ブームのときは6組しかいねえんだから、これがグルグル回してたわけでしょ」
田中「そうですね」
たけし「それは運なんだよ、それで漫才比べりゃ、オイラの漫才と今の漫才を比べればダントツで今の漫才のほうが上手いんだよ」
阿川「へぇ~」
たけし「面白いし、だけどオイラのときの時代は、オイラがウケる時代なんだよ、だから、その人の運命って言うわけでもないけども、どの時代に生きて、どの時代のエンターテインメントに所属しているかが非常に大切なんだよね

たけしさんの若手時代と比べたら、今は芸人の地位がだいぶ上がってしまいました。だから下手なことはできません。ライバルもたくさんいます。経済の状況も変わりました。「舞台で食べていけるから別にテレビ出なくても大丈夫です」という交渉ができる芸人は、ほとんどいないでしょう。

でも、もしそう言える時代が再び訪れたらテレビはもっと面白くなる気がします。

ゲバゲバ人生 わが黄金の瞬間 (講談社+α文庫)

ゲバゲバ人生 わが黄金の瞬間 (講談社+α文庫)

「型」をズラしていく人のほうが生き残れる

前回は『今田耕司「皆売れるとタレ目になってくる」』という記事を書きました。

これを書くきっかけとなったのが、文芸誌の『群像』に掲載されている連続対談「今夜、笑いの数を数えましょう」。いとうせいこうさんとバカリズムが笑いについて考察するトークイベントなのですが、そこで語られた「笑顔の重要性」に注目して、今田さんの持論へと繋げました。

実はもうひとつ、この対談を読んで考えさせられたテーマがあります。それは「狂気の線をどこに移動させるか」という問題です。程度の差はあれど、表現者なら誰もが抱く悩みなのかもしれません。

バカリズム「笑いが少なくても寒くなければいい」

2018年1月6日発売『群像 2018年2月号』(講談社)

聞き手は、いとうせいこう。
ゲストはバカリズム(升野英知)。

バカリズムがネタ作りで意識しているのは、「寒くないことをやるにはどうしたらいいか」。つまりスベりたくない。その姿勢は徹底していて、「笑いが少なくても寒くなければいい」とまで言うのです。

続きを読む