笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

今田耕司「皆売れるとタレ目になってくる」

2018年2月号の『群像』を買いました。

お目当ては、『いとうせいこう連続対談「今夜、笑いの数を数えましょう」』。下北沢の本屋「B&B」で開催されたトークイベントです。このイベントの模様が『群像』に掲載されているという情報を得て、確認してみると対談相手がバカリズムではありませんか。買わない理由がありません。

それで今回の対談を読んでみて特に印象に残ったのが、「笑顔の重要性」についての話でした。

ちなみにバカリズムはイベント3回目のゲストで、第1回は放送作家の倉本美津留さん、第2回はケラリーノ・サンドロヴィッチさん、そして先日開催された第4回は、歌人の枡野浩一さんがゲストでした。今後も定期的にイベントが続き、そのうち対談をまとめたものが一冊の本になったら嬉しいです。(追記:2019年2月に『書籍化』されました!)

バカリズム「僕たぶんいい笑顔してるっぽいんですよ」

2018年1月6日発売『群像 2018年2月号』(講談社)

聞き手は、いとうせいこう。
ゲストはバカリズム。

いとうせいこうさんが主宰するトークライブ「今夜、笑いの数を数えましょう」。3回目はバカリズム(升野英知)をゲストに迎えて、「笑い」について様々な視点から考察していきます。

「意外性の笑い」について深く掘り下げたあと、次はその対極である「安心感の笑い」にテーマが移ります。

升野 意外性ですよね。あと安心感の笑いもあります。何回も見たことある昔から好きなネタとか安心感があります。
いとう クスクスっていうかニコニコっていうか、僕は愛嬌と一応呼んでるけど。ネタも何回見ても笑えるっていうのを含めて愛嬌なんだよね。

テレビに出るときは、この「安心感の笑い」すなわち「愛嬌」が重要になってくる。いとうさんがそう述べると、升野さんも同意します。なぜならまさにそれをテレビで実践中だから。

升野 視聴者を安心させることは大事ですね。
いとう 升野はそれがある時期から出たね。
升野 三十代半ばぐらいから、やっぱり愛嬌は必要だなって思って。それからは意識的に出してきましたね。若手の時はどっかで拒否してる部分があったんです。十代、二十代は背も小っちゃいしかわいいって言われることがあったんです。でも、そこはものすごく拒絶してたんですけど、最近はこれも一個の武器としてものすごくあざとく笑うようになりました(笑)。
いとう そうだよ! よく笑うようになったんだよ!
升野 それをやるようになってめきめきとお仕事が増えましたね。
いとう (爆笑)大事なことなんだよ!
升野 やってる中でわかったんですけど、僕たぶんいい笑顔してるっぽいんですよ
いとう (爆笑)お前も言うね。
升野 愛嬌のある笑顔をしてるっぽいんです(笑)。だからね、取材やCMとかでも笑顔を求められるからもう存分に笑ってますね。減るもんじゃないし。
いとう そうだな。

ホンジャマカの石塚さんもラジオ番組で話していました。升野さんが言う「愛嬌のある笑顔」がいかに大切かを。

石塚英彦「基本笑ってればそこそこ芸能界やっていける」

2018年1月5日放送「よんぱち 48hours」(TOKYO FM)

代理パーソナリティはホンジャマカ石塚英彦。
アシスタントは柴田幸子。
ゲストはブリリアン(ダイキ・コージ)。

昨年、ブルゾンちえみと組んだユニット「ブルゾンちえみ with B」で大ブレイクを果たしたブリリアン。

彼らに対して石塚さんは「しゃべらないのに存在感があるのがすごい」と称賛を惜しみません。とはいえ、2017年の快進撃はブルゾンちえみのおかげと言っても差し支えないでしょう。それは彼らも冷静に受け止めていて、その上で2018年はブリリアン単体でも活躍できるよう頑張っていきたいと真摯に語っていました。

そう語る彼らの目の前には、同じナベプロの先輩である石塚さんがいます。ブリリアンにとって願ってもないチャンスです。しかし、直属の先輩だからこそ気軽に相談できないのかもしれません。そんな空気を察したのか、柴田さんが代わって切り出します。

柴田「なんかお2人から石塚さんに、ご相談とか、ありますか?」
ダイキ「そうですね、やっぱりその、僕らも芸人としてロケ行って、食レポとかをよくやるんですけど、全然上手くできなくて、コツとかって……あるんですか?」
石塚「それは全部ね、彦摩呂に聞いて欲しいんだけども」
柴田「うふふっ」
石塚「俺の場合、基本『まいうー』しか言わないから」
(スタジオ笑)

まずは謙遜を入れておいてから、石塚さんなりの食レポのやり方を明かします。

例えばハンバーグみたいな誰もが知るグルメだったら味には言及せず、「東京ドームにしか見えない」という風に見た目を例えたり、もしくは「学習塾の帰りに食べたい」みたいにどういうシチュエーションで味わいたいかをコメントしたりして、差別化を図るのだそうです。

だからといって他人と違うことばかりを追い求めるのもよくない。奇をてらったり、技術に走ったりしても、視聴者はそれが本心でないことを見破ると言って釘を刺します。

石塚「レポーターの数だけ表現がありますからね、ああいう彦摩呂節みたいな例えを持ってくるのもあれば、もうあの、亡くなってしまいましたけど、阿藤快さんみたいに、どこまでも正直なコメント」
柴田「はい」
石塚「だって田舎のね、優しいおばあちゃんが『コレどうぞ』つって食べて、『しょっぱい!』って言っちゃうんだから」
(スタジオ笑)
石塚「ただ、観ているほうは、それが本当なんだなっていう」
柴田「そっかぁ、確かに」

素直であれ。これは食レポに限らず芸能界で生き残っていくために必要な姿勢である。そうブリリアンに語りかける石塚さん。

石塚「あとね、基本笑ってればそこそこ芸能界やっていけるんで
(スタジオ笑)
柴田「本当ですか? 笑ってれば、でもそれがやっぱり一番ですかね」
石塚「結構でも、芸能界で残ってる人とか見ると、相手のしゃべりに対しても本当に素直に笑ってる人とか、見てて気持ちいいし
コージ「はい」
石塚「例えば自分がもしMCやったら、そばに置いときたいと思うんだけども」
コージ「あ~、そっかぁ」
柴田「確かに」
石塚「えっ、これ何? こういう時間でいいの、今」
(スタジオ笑)
柴田「こういう時間でいいんですよ」
石塚「これ別に、事務所で言えばいい話」
(スタジオ笑)

石塚さんの理論を聞いて、過去に同番組で紹介された今田耕司さんの言葉が脳裏に浮かびました。

今田耕司「皆売れるとタレ目になってくる」

2014年8月15日放送「よんぱち 48hours」(TOKYO FM)

パーソナリティは鈴木おさむ。
アシスタントは三浦茉莉。
ゲストはKis-My-Ft2北山宏光。

先日放送された「FNS27時間テレビ」(2014年7月26日放送)は、SMAPが総合司会(MC)を担当しました。

この番組内の「スマップBUSAIKU!?」というコーナーで、SMAP5人を仕切るという大役を果たした北山さんは、改めてMCとして確固たる地位を築いている中居さんの凄さを確認したそうです。

鈴木「やっぱりこないださ、『キスマイBUSAIKU!?』でもさ、北山君がやんなきゃいけないってときに、中居君がリーダーで仕切ってくるじゃない」
北山「はい」
鈴木「やっぱなんか空気が変わって面白いよね、ああいう瞬間にね」
北山「だからなんか、自分もそういう空気を作れる、MCになんなきゃなっていうのはすごいありますよね、声のトーンもそうですし」
鈴木「声のトーンね、確かに」

中居さんとの共演を通じて、もっとMCとして成長したいと話す北山さん。するとここで鈴木さんが、舞台を一緒にやっている今田さんが何気なく放った言葉を紹介します。

鈴木「こないだ今田(耕司)さんが言ってて面白かったのが、『皆売れるとタレ目になってくる』っていう」
三浦「えっ?」
鈴木「っていうのは、なんでかって言うと、例えば坂上(忍)さんとかも正直テレビ出たての頃は怖かったし、大丈夫かなって思ったけど、やっぱこうやって司会とか段々やり出すと……皆こう目が大体つってると」
北山「うんうん」
鈴木「怖かったりする人は、有吉とかもそうだけど」
北山「はいはい」
鈴木「でも大体皆売れてくると、すごい顔が変わってくるって言うんだよね」
北山「へぇ~」
鈴木「それに対応してくる感じの顔つきになってきて、だから皆タレ目になってくるというか、目が下がってくるって、面白い表現するなと思って」

老化による自然現象に過ぎない。そういうツッコミが成立する話でもあります。でもそんな単純なことではなくて、外見以外の内面的な要素も全てひっくるめて、その例えとして「タレ目」という表現を今田さんは使ったのではないでしょうか。

今夜、笑いの数を数えましょう

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