笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

千原ジュニアの内からにじみ出るかわいさ

芸人は売れるにつれ、かわいさも身に付けていく。

「アメトーーク」や「ロンドンハーツ」のプロデューサーである加地さんが、自身の著書『たくらむ技術』の中でこのように分析されていました。そして、その例として挙げていたのが、千原兄弟の千原ジュニアさんです。

現在のジュニアさんは周りの芸人からよくイジられます。ザキヤマさんのアゴをなめたり、赤のパンツ一丁でコミカルに踊ったり。確かにその姿には「かわいさ」を感じます。しかし、大阪で活躍していた若手時代のジュニアさんは、とにかく尖っていました。その尖り具合が尋常じゃなかったために周りの芸人から「ジャックナイフ」と呼ばれ、とても恐れられていたのです。

なので、千原兄弟が東京進出するとなったとき、東京の芸人たちは震え上がりました。ジュニアさんに関する噂がひとり歩きして伝わっていたこともあって。

面白くないヤツがいたらジャックナイフで刺す芸人が大阪からやって来る

2009年10月2日放送「お笑いエピソードGP THE芸人大図鑑2」(テレビ朝日)

司会は今田耕司。
アシスタントは高樹千佳子。

人気芸人の知られざる素顔を、仲間の芸人たちが語るエピソードで浮き彫りにしようとするトーク番組。千原ジュニアの素顔を出川哲朗が語る場面で。

出川「ジュニアが、千原兄弟が東京進出してくるっていうときに、大阪ですんごい尖がってる恐い芸人が来るっていう噂になって、で、つまんない芸人をとにかく殴って」
ジュニア「あはははっ!」
出川「あと、使えないスタッフ、それぞれ並ばせて説教するとか、そういうすごい……」
品川「噂がね」
出川「噂が本当にあったの!笑いごとじゃないの!今のこんな、まろやかなジュニアじゃなかったの」

まろやかなジュニア。^^;

出川「俺、だから今田君に聞いたぐらいだもんね」
今田「当時、出川さんに僕は相談されたんです、(出川の真似しながら)『あの、ジュニアってポケットにジャックナイフ入れてるんでしょ~』」
(スタジオ笑)
今田「そんなヤツいないですよ!吉本に、(出川の真似しながら)『ほんで、面白くないヤツがいたらそれで刺すんでしょ~』」
(スタジオ笑)

でも、その噂が信じられてしまうぐらいジュニアさんは尖っていた、とも言えましょう。

爆笑問題の太田さんも、千原兄弟が東京進出してきたときの話をよくします。

東京に来たばかりの千原ジュニアを探してしゃべりかけた爆笑問題の太田光

2014年1月23日放送「侃侃諤諤(かんかんがくがく)」(テレビ朝日)

司会は爆笑問題の太田光。
ゲストは千原ジュニア。

この日は「未公開トークSP」ってことで、太田さんがジュニアさんと出会ったときの話が放送されました。

太田「一番危ないヤツが大阪にいるっていう噂はもう、東京の若手のあいだでは広がってたんです」
ジュニア「らしいですね」
太田「千原兄弟のジュニアっていうのは、常にジャックナイフをここ(胸元)に忍ばせて、で、あの~漫才やるんだけど、ウケないと客を刺す」
(ジュニア苦笑い)
太田「という噂がもう、広がっていて」
ジュニア「ふふっ、どんな噂や、もう」
太田「ははははっ、それが東京に殴り込みに来るっていう感じで、俺は楽屋に(ジュニアを)見に行ったんです」
ジュニア「はい」
太田「そしたら、ジュニアが一番隅っこで、こうやってた(しかめっ面で腕組みしていた)のをね~、覚えてます、僕は」
ジュニア「へぇ~」
太田「で、そんときにジュニアに俺は話しかけたんです、覚えてますか?覚えてない?」
ジュニア「覚えてないです」
太田「当時、天素(天然素材)がものすごい人気で、それこそナイナイが、宮迫やなんか皆、踊ったりなんかして若い女の子にキャーキャー言われたりして、俺はそれをテレビでボロクソ言ってた時期なの」
ジュニア「はい」
太田「『なんだアイツら!アイドルか?』と、で、ジュニアに、『お前ナイフ持ってるんなら、それでナイナイ刺してくれよ』つって、ふふっ、言ったの」
ジュニア「はいはい」
太田「(キョトン顔で)『はぁ?』みたいに言われて」
ジュニア「あははははっ」
太田「言われたのを覚えてるんです、それが多分、僕は最初の」
ジュニア「初めて?へぇ~」
太田「心閉ざしてましたね」
ジュニア「そんなことないです、知らない人ばっかりに囲まれて、ただただ怯えてるだけなんです」

当時のジュニアさんに関する話で、芸人の間で伝説として語り継がれている事件があります。それは「千原ジュニアと古坂大魔王の一触即発事件」。

でも、この事件も噂がひとり歩きしているだけで、伝説でもなんでもないと古坂さんは否定します。

千原ジュニアとの一触即発事件の真相について語る古坂大魔王

2013年8月6日放送「白黒アンジャッシュ」(チバテレ)

司会はアンジャッシュ(児嶋一哉・渡部建)。
ゲストは古坂大魔王、TKO、東京03(飯塚・豊本)、ドランクドラゴン鈴木拓。

この日の企画は「アンジャッシュ結成20周年を祝うための酒宴 ノープランな夜」。場所はとある居酒屋。アンジャッシュ渡部さんが木本さんに尋ねます。

渡部「あの噂知ってますか?あの、例の一触即発事件」
木本「ジュニアの?」
渡部「そうです」
木本「ああ、聞いた、知ってる、あの伝説の」
渡部「ええ」
木本「どんなん?詳細を教えて」
古坂「何もないよ!あっちも覚えてないし、ふふっ、テレビで言うことじゃないんだよ、こんなことは」
木本「いや、あれはもう、かなりヤリあったっていう噂が」
古坂「全然!」

ほろ酔いの芸人たちにせがまれて、仕方なく真相を語り始めます。

古坂「ある番組で千原兄弟が来た、俺ら前説やってたから、あっちは出演者なの」
渡部「あ~、そうだったんだ」
古坂「そうそう、で、来たと思って、一応ちゃんと挨拶しなきゃ、先輩だし」
渡部「うんうん」
古坂「で、(頭を下げて)『おはようございます』ってやったら、兄ちゃん(千原せいじ)がしてくれて……だからあの当時はさ、みんなそうだった(尖っていた)からさ」
渡部「うん、ジュニアさんもわざと」
古坂「ジュニアさんもきっと、なんとなく俺の顔をこう見たまま無視して行ったから、すごい疑問に思ったの」
渡部「うん」
古坂「だから、『今、挨拶したのを(返事)しなかったのは、聞こえなかったのかポーズか、どっちなんですか?』って、一応聞いたの」
(芸人たち笑)
渡部「くふふっ、真面目だからちゃんと聞いたんですね」
木下「すぐ?」
古坂「そう」
渡部「その場で、その場で」
古坂「『どうなんですか?』って言ったら、なんか別にコイツなに言うとんねん……みたいな感じになって、兄ちゃんが『まあまあ』つって、終わったぐらいよ」

ジュニアさんに負けないぐらい当時尖っていた古坂さんも、出川さん風に表現すれば「まろやか」になりました。

先日放送された「ストライクTV」では、ジュニアさんと古坂さんが回答席に並んで座って談笑している光景がありました。ですから、この一触即発事件も今では笑い話になっているんでしょうね。

この酒宴は翌週も放送され、そこで渡部さんは芸人生活20年を振り返って、次のように語っていました。

アンジャッシュ渡部「転職したぐらいの意識の違いがある」

2013年8月13日放送「白黒アンジャッシュ」(チバテレ)

「アンジャッシュ結成20周年を祝うための酒宴 ノープランな夜」の続き。

渡部「なんか、すげ~最近思うのは、同じ仕事って感じしなくないですか?昔と、同じ延長線にいる感じしない」
児嶋「あ~」
渡部「なんか転職したぐらいの意識の違いっていうか」
木下「なるほど、なるほど」
渡部「俺、なんか、同じこと20年やってた感じが全然しないんですよ」
木本「ホンマやな、あの頃やってたのと全然違うよね」
渡部「何も分かってないし」
古坂「でもそうじゃないの、だから、誰か忘れたけど名言で、生き残る生物は強い者でもない、賢い者でもない、適応できる者だと」
児嶋「おお~」

渡部さんの転職したぐらいの意識という発言は、ジュニアさんのジャックナイフからかわいさへの変化と、妙に重なって私には聞こえました。

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最近、てれびのスキマさんが書いた『タモリ学』を読みました。この本の中で、とても印象に残っているタモリさんの言葉があるので、ちょっと紹介させて下さい。

タモリ「テレビじっと見ていると、大体人間分かりますよ」

タモリさんは弟子を絶対に取らないと言います。なぜなら、テレビで一番大事なのは人間性であって、それを教えるのは不可能だと考えているから。

戸部田誠(てれびのスキマ)『タモリ学』(イースト・プレス)

P148から。

つまりこの世界では、人間性こそがもっとも大事だというのだ。その人間性を、その人の本質の部分を、テレビというメディアは如実に伝えてしまう。タモリは別のインタビューで、このように語っている。


「テレビっていうのはある面でおそろしいのは、その人の本当のところがよく映るんですよ」「テレビじっと見ていると、大体人間分かりますよ。表づらだけじゃなく。怖いですよ」

私は、タモリさんの言葉から次のように考えました。ジュニアさんのかわいさは、キャラとして演じている「表づら」ではなく内側からにじみ出る「本質の部分」であり、だからこそ現在テレビで大活躍しているんだ、と。