笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

ビートたけしから「リアクション芸はコント」だと教わったダチョウ倶楽部

お笑い界が抱える大きな問題に「リアクション芸人の後継者がいない」というものがあります。

先駆者のダチョウ倶楽部と出川哲朗が偉大すぎるのか、あるいは若手芸人にとってあえて進むべき道ではないのか分かりませんが、後継者が見つからない状態が続いています。しかも今は「リアクション芸」をテレビでやるのが難しい時代です。

今年2月に誕生日をむかえた出川さん。気が付けば、ダチョウ倶楽部を含めた4人全員が50歳を超えてしまいました。「もはやリアクション芸人というジャンルは消えゆく運命なのか」。そんな気分になりつつあったところに先日、ついに後継者が現れたのです。

出川哲朗「リアクションは逃げない」

2014年5月11日放送「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ)

司会は内村光良。

森三中の大島さんが妊活に入るため、この放送を最後に芸能活動をしばらく休むことになりました。そこで、ご意見番・出川哲朗にコメントを求めます。

出川「やっぱね、ダチョウ倶楽部の竜さん(上島竜兵)とね、飲んでてやっぱ話すわけですよ」
内村「はい」
出川「『次のリアクション芸人は誰だ?』という話になって、やっぱ結局、俺も竜さんも『次は大島だ』っていう話に」
大島「嬉しい~、超嬉しい」

目標とする芸人から認められたのが嬉しくて、涙があふれ出す大島さん。

出川「これ、今まで大島には直接言ったこと一度もなかったんだけども」
大島「嬉しいです」
出川「芸能生活の1年・2年なんて短いですからね、全然、1年ぐらい休むかもしんないけど、まあリアクションは逃げないので」
(スタジオ笑)
出川「いつでも、いつでも戻ってきてください」

ちょっと前にラジオで、「イッテQ!」で活躍している女芸人をダチョウ倶楽部が褒めていました。その流れでリアクション芸に対する熱い思いもぶつけていて興味深い放送だったので、こちらも紹介させて下さい。

上島竜兵「リアクション芸は好きじゃないとできない」

2014年4月28日放送「ダチョウ倶楽部のラジカントロプス2.0」(ラジオ日本)

パーソナリティはダチョウ倶楽部(上島竜兵・肥後克広)。
聞き手は植竹公和(歌う放送作家)。

植竹さんが、現在リアクション芸を支えているのは森三中とイモトアヤコではないかと言います。

植竹「お二人から見ても、よくやってると思うでしょ?」
肥後「はいはい、偉いです」
上島「アレはでも、先生ね」
植竹「はい」
上島「好きじゃないとやっぱできないんですよ」
植竹「なるほど」
上島「ああいうリアクション芸って」
植竹「おいしいと思わないと」
上島「おいしいと思わないと、アレってね、恥ずかしいとかそんなこと思ってんじゃなくて、これで俺一番おいしいんだって、輝いてると思わないと本当できないんですよ、痛いし、恥ずかしいし、寒い、熱い、もう全てですからね」
植竹「あ~」
上島「それを笑いに変えるから、だって、いたぶられてるところを人に笑ってもらうって一番、難しいと思うんですよ
植竹「うんうん」

上島さんのプライドが見えた瞬間でした。そして、ここから深い話へ。

植竹「やっぱり、ヨゴレ芸のなんですか?この~大事なことって、肥後さん」
肥後「そうですね、ヨゴレ芸で大切なのは……」
植竹「真面目に語るっていうのもおかしいんだけどね」
肥後「よくまあ、いろんなことやりますけど、あの、やっぱりオンエアに乗ってなんぼだから」
上島「そう」
肥後「放送できるヨゴレっていうことをですね、このギリギリのラインを我々は常に考えております、ふふっ」
植竹「あ~、そっか~、それ分かってない人もいるんだ」
上島「います、ヨゴレだから何でもいい、何でも笑ってくれると思ったら大間違い、だから俺は」
植竹「うん」
上島「ヨゴレ芸の人は、本当のヨゴレ芸の名人は心が汚れてない」
肥後「ひひひひっ」
植竹「いいこと言うね~、なんだかよく分かんないけど」
肥後「ははははっ」
上島「ね、つまりそういうことだよね」
肥後「(笑いながら)そうですね」

トークはさらに熱を増していき、リアクション芸の本質に迫っていきます。

上島竜兵「芸は汚れてても心が汚れてるヤツは何もできない!」

肥後「ヨゴレ芸っては、みんなの協力があって成り立つものですから」
上島「いや、これが本当なんですよ、僕ら『お笑いウルトラクイズ』でたけしさんにそれを教わりましたから
植竹「は~」
上島「ただ飛ばされたり、熱いところに入ったりしているわけじゃないぞ、と」
植竹「うん」
上島「この人が熱いお湯に入って『熱い!』ってすぐ出てくる、この人は入れなかった、で、この人はウマいこと入る、でもこの人は入るときにこういう工夫で入る、最後お前が入って、みんなで押さえて出られないようにして、出てピュッピュッと口からお湯を吐く、で、何か一言!……ここでオチるんだよって」
植竹「はは~」
上島「お前のためにみんなはフリだよ、と」
植竹「はいはい」
上島「ひとつのリアクション芸って、コントを作り上げてるんですよね
植竹「なるほど~、いいこと言うね~」
肥後「いや、いいですよ~」
植竹「おいおいおい」
上島「だからすなわち、芸は汚れてても心が汚れてるヤツは何もできない!」
肥後「あはははっ!」
植竹「ははははっ!」
上島「あ~スッキリした、ふふっ」
肥後「スッキリした?」

この上島さんの言葉を補うかのような番組が最近ありました。上島竜兵を尊敬してやまない直属の後輩が司会を務める「マツコ&有吉の怒り新党」です。

リアクションの殿堂 ~遺作~ [DVD]

リアクションの殿堂 ~遺作~ [DVD]

リアクション芸は笑いの原点

2014年5月28日放送「マツコ&有吉の怒り新党」(テレビ朝日)

司会は有吉弘行、マツコ・デラックス。
アシスタントは夏目三久。

視聴者が送ってくる怒りのメールが納得できるかどうかを判定していくトーク番組です。この日、おバカ発言で笑われている芸能人に違和感を覚えるといった内容のメールが届きます。つまり「笑わせる」と「笑われる」は大きく違うというが投稿者の主張です。この怒りに対して、

有吉「上島さんが言ってたよ、『笑われても、笑わしてでも何でもいいんだよ、人の笑顔が見られればいいんだよ』つって、『何でもいいんだよ』つって」
マツコ「その通り」
有吉「上島さん、おっしゃってましたよ」
マツコ「笑われることってそんなにダメなこと?」

マツコさんは続けます。

マツコ「テレビでね、笑われてる人って、偶然のごとく笑われてるのかっていったら、笑わせようとして笑われてるんだよね」
有吉「そうそうそう、したたかですよ、もっと」
マツコ「うん、ちゃんとそこに計算があった上での、笑われるだから

「リアクション芸はコント」にも繋がる発言ではないでしょうか。

マツコ「私が見させていただいてる中では、いわゆる『笑われてる』って彼女(投稿者)が言うような部類に入る、別にそれは彼女たち女性だけでなく男性も含めて、そっちのほうがなんて言うんだろう、敗北感みたいなのがデカいわけよ、私みたいな人間からすると、上等な気がするのね」
有吉「うん」
マツコ「笑いとしてさ、なんか格好いいこと言って笑わせるのよりも、醜態をさらしたり、こう恥ずかしいことなんだけど、それを恥ずかしいと思わずにやって笑われるっていうのって、むしろ笑いの原点というかさ」
有吉「うんうん」
マツコ「ちょっと敵わないなというか」

ダチョウ倶楽部と出川さんは仲間でありライバルでもありました。そういった関係で切磋琢磨してきたからこそ、リアクション芸がここまで認められるようになったのでしょう。

そこで、リアクション芸人の後継者に指名された大島さんのライバルを考えてみたとき、普通だったらイモトさんなんでしょうけど、私の頭にパッと浮かんだのはオードリー春日さんでした。「ネプ&イモトの世界番付」の部族滞在記というコーナーで体を張った海外ロケに挑戦していて、「イッテQ!」と比べても遜色ない素晴らしいパフォーマンスを毎回見せています。

春日さんはあくまで私の妄想ですが、大島さんに対抗できるライバルが現れたとき、「リアクション芸人の未来は明るい」と自信を持って言えるでしょう。