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笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

内村Aと内村B

ウッチャンナンチャン 千秋

内村光良の魅力とは何でしょうか?

私なら「二面性」と答えます。誰からも慕われる柔和なウッチャンと、職人気質で近寄りがたい頑固な内村光良。このふたつのかけ離れた人格が同居しているから、多くの人の心を掴んで離さないのだと考えます。

内村光良の二面性を指摘する千秋

2015年2月23日放送の「痛快TVスカッとジャパン」。

司会はウッチャンナンチャンの内村光良。
ゲストパネラーは高田延彦、三田寛子、千秋、おのののか、陣内智則。
視聴者が投稿してきた体験談をドラマ化し、その話が「スカッと」するかどうか判定していきます。この日放送されたドラマの主人公が、「血液型で判断する女」でした。最後まで判定を迷った三田さんがウッチャンに尋ねます。

三田「ウッチャンさんは何型ですか?」
内村「僕はAB型です」
三田「あっ、じゃあ両方の要素があるんだ~」
内村「もうね、俺もね、それでどんな目にあってきたか、AB型イコール二重人格っていう」
(うなずく観覧客)
内村「なっ! これってさ、そう言われると『俺って二重人格なのかな?』って思っちゃうんだよね」
千秋「(嬉しそうに)二重人格じゃん!」
(スタジオ笑)
内村「おい! そこの、おい!」
千秋「いつも朗らかだけど、何か気に食わないことがあったときに、パッてね、誰も寄せ付けない空気を出すの」
(ざわつく観覧客)
内村「あはははっ」
千秋「それは、ホント年に何回しか……」
内村「(千秋の言葉を遮るように)ごめんなさい! ABです、私二重人格です!」
(スタジオ笑)

「ウリナリ」で長く一緒だった千秋さんならではのコメントでした。
「痛快TVスカッとジャパン」はフジテレビの番組ですが、なぜか「ウリナリ」に出ていたメンバーが頻繁に登場するのです。スタジオでの掛け合いは短いながらも当時のエピソードが聞けたりするので、ウンナンファンは見逃すことができません。2015年6月1日の放送では、ポケットビスケッツの3人が久しぶりに揃いました。フジテレビのコントキャラ「マモー・ミモー」がNHKで復活して、日本テレビで誕生したユニット「ポケットビスケッツ」がフジテレビで再会を果たす。なんとも不思議な状況です。

今から11年前のことです。千秋さんが指摘した「内村光良の二面性」を見抜いていた人物がいました。それは精神科医・名越康文さんです。「有吉反省会」に見届け人として座っている先生と言えばイメージが浮かぶでしょうか。

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内村光良の高笑いは芸能人になるためのスイッチ

2004年4月3日放送の「自分探しバラエティ グータン」。

司会は優香、篠原涼子、オセロの松嶋尚美。
ゲストは内村光良。
精神科医の名越康文さんが、ゲストの内面を引き出していくバラエティ番組です。
ウッチャンに与えられた条件は次のとおり。「5時間のロケを行う」「スケジュールは内村が考える」「必ず司会のうち誰か1人が付き添う」。ロケ中に出た何気ない言動や仕草を、別室にいる名越先生がチェック。さらにそのあとスタジオで面談を実施。このような流れで、「真実の内村光良」を解明していきます。
ロケのVTR開始。午後2時、待ち合わせ場所である都内某所の駐車場にやって来たのは篠原涼子さんでした。

内村「どうも」
篠原「芸能人の内村さんですよね? なんか普通の人っぽく」
内村「はい、すみません、なんか普通で」
篠原「1日デートよろしくお願いします」
内村「今日デートね」
篠原「(照れながら)デート、デートしましょうよ!」
内村「あはははっ」

さっそく名越先生のチェックが入ります。

名越「え~、この『アハハ』って笑いは全然おかしくて笑ってるんじゃないですよね」
(スタジオ笑)
名越「本当の素の内村さんは芸能界にいない、芸能界にいるほうの内村さんは絶えず何かに憑依されていて、何かを演じ続けてる、イタコさんみたいな、そういう状態になるっていうときの、スイッチを入れようという行為やと思います」

芸能人スイッチを入れたウッチャンは、篠原さんを助手席に乗せて車を走らせます。

体を動かしてないと自分の感情さえ分からない

レインボーブリッジを抜けて、前方にパレットタウン大観覧車が見えてきました。体を動かしたい。本当は泳ぎたかったけど、自分の泳ぐ姿を見守っていても相手は楽しくない。だったら一緒に遊べるゲームコーナーが適当だろう。といった感じで、お台場を選んだ理由を篠原さんに伝えるウッチャン。

名越「本来は自分は水泳が好きなんだけど、それでは相手が手持無沙汰だろうということで、一緒にやれるスポーツっていう風に選んでる、全部相手に対するサービスですよね、気遣い」
松嶋「へぇ~」
名越「例えばデートをしてホテルに行くっていうときに、もう疲れ切ってると、本当に恋愛の駆け引きというよりもサービスっていう感じですよね」

さらに車中の会話から、次のように分析します。

名越「行動してるときは、内村さんはきっと頭がすごく回って、え~、利発で自分の意見を言える、ところが素に戻って行動が止まると、自分の感情さえよく分からないと、こういうタイプの人の特徴は例えばね、携帯電話なんかで話をしているときに大概、部屋のなかをウロウロ歩きながら話をします、体を動かしてないと頭も動かないんです」
優香「そうなんですか?」
内村「うん、当たってるな」
名越「体を動かすことによって初めて新しい発想が生まれたりする」

目的地である東京レジャーランドに到着。ボウリングや卓球を楽しむ2人。名越先生はその様子を観察しながら「最重要チェック」を入れていきます。これは最後の面談で使う材料となるのですが、ふたつの場面をピックアップしたところでロケのVTRが終了しました。ウッチャンは不安げな表情で立ち上がり、名越先生が待つ部屋へ向かいます。

芸能界に存在する「内村A」と自分の感情に気付かない「内村B」

夕日が差し込む薄暗いカウンセリングルーム。名越先生の目の前に座るウッチャン。最後の面談が始まります。ロケのVTR中「最重要チェック」が入ったのは、アトラクションに興じる前の両替シーンでした。

名越「僕がそこで、ふと注目したのは、ちょっとしたつぶやきなんですよ、『俺ばっか』とか言ってるんですよ」
松嶋「言った! 両替に行く前かな」
篠原「言ってましたね」
内村「(後ろを向いて)お前たちは黙っとけ!」
(スタジオ笑)

篠原さんが、両替までやってもらって申し訳ない気持ちからお礼を言いました。そこで独り言のようにつぶやいたのです。

名越「あそこだけフッとね、サービスをする内村さんから、『俺ばっか』っていう裏の内村さんが出たのかなって気がします、行動タイプ以外に内村さんがもう1人いる」
内村「あ~」
名越「それは、おそらく芸能界の外側にいる、それが本当は本質なんじゃないかなって」
内村「ははははっ、あ~、『俺ばっか』……ふふっ、言わなきゃよかったなぁ」
(スタジオ笑)

「本当の内村光良は芸能界に存在しない」と分析した名越先生が、もうひとつ「最重要チェック」として選んだのが卓球のフォームでした。ウッチャンは、右肘をたたんで顔の右下近くまでラケットを引きつけて、押し出すように打ち返していました。

名越「相手からボールを打たれるっていうのは、やっぱ相手からのひとつのメッセージでしょ」
内村「はい」
名越「例えば柔らかく打たれたら僕に気を使ってくれてるんだ、それを近くで受けるっていうのは、僕らパーソナルスペースって言うんですけど」
内村「はい」
名越「人間を内側までけっこう引きつけて、入れれるんですよね」
内村「ほぉ」
名越「いいよ、近くまでいいよ」
内村「来なさいと」
名越「ところが、実は実体がなかなか分からない」
内村「くふふふっ」
名越「芸能界の内村さんを『内村A』とすると、『内村B』というのがそこに出てくるわけですよ、個人的に付き合う女性は主に『内村B』を見ますよね」
内村「ええ」
名越「そうすると、なんか引きこもってしまってるように見えたり、なんでこの人、私といても独りっきりでポツンといるように見えるんだろう」
内村「はははっ、先生言い過ぎじゃないですか?」
(スタジオ笑)
内村「いわゆる『内村B』がよくないってことですよね、言ってみりゃ、『内村B』の存在を消せと」

しかし、名越先生は「内村B」の存在を否定しません。

名越「『内村B』のほうは、実は自分の感情もなかなか気付けないんじゃないかと」
(無言でうなずく内村)
名越「『内村B』が持ってる感情というのはね、例えて言うなら雰囲気とか、その漠然としたなだらかな気分に引っ張られてるっていうのが、『内村B』だと思う」
内村「(深くうなずきながら)はい、でも今のは分かります」
名越「そういうのがあるから、『内村A』がある」
内村「あ~」
名越「AとBは相互的で、影と実体との関係みたいなもんだから」
内村「ちゃんともう認めると、AもBも」
名越「そうですね、バランスよく認める」
内村「なるほど」

そして面談を締めくくるべく、最終分析結果を言い渡します。

最終分析結果「内村光良はイタイ人」

名越「結論、内村光良さんは……イタイ人です」
(スタジオ笑)
篠原「えっ?」
(言葉が出てこず固まる内村)
名越「1人の人間のあいだに、ものすごくかけ離れた2人を持ってるのは、Aを演じていても、Bがやっぱり背景に出るんですよ」
内村「はい」
名越「すっごい面白いことをやってる背景に、イタイ内村さんがいて、それがなんかこう、人の心をガッと掴んでるような感じがするんですよね、それがないと全部がサービスだから」
内村「あ~」

まだ全てを受け止めきれてない様子で、今後どう生きていけばいいのか率直に聞くウッチャン。

名越「(内村Bが)実は自分の深い味わいを出してるっていうかね」
内村「はい」
名越「自分の人生の奥行きを出してるっていうことを、もっとこう認めてあげる、そういうことをちょっと頭の隅に置いといていただいたら、バランスが取れてくるんじゃないかなって気が、(5時間のロケの)ビデオを見て僕が思ったことです」
内村「分かりました、はい」

最近、ウッチャンの活躍が目覚ましいです。そのことを好意的に扱ったニュース記事をいくつか読みました。ところが素直に喜べませんでした。ウンナンファンとして虐げられてきた個人的な歴史が、そうさせるのかもしれません。ファンだと表明したときに向けられた冷ややかな視線が今でも浮かんできます。「どこが面白いの?」。認める気が毛頭ない人からの問いかけに、なんて答えたらよかったのでしょうか。そんな環境にいたのは私だけかもしれませんが……でも、だからこそ「自分が応援しないでどうする!」という燃料になっていたのも事実。この鬱屈した気持ちは、ブログを始めるきっかけにもなりました。

例えるなら、美女に言い寄られてもドッキリを疑って隠しカメラを探してしまう芸人の心理に近いでしょうか。急に褒められても裏を読んで怯えてしまうのです。本当に面倒くさいファンだと思います。とはいえ、その歪みを解消したとしても素直に喜べないのは、千秋さんや名越先生が指摘した「内村B」に対する視点が欠けているからです。

どうせ死ぬのになぜ生きるのか (PHP新書)

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「内村B」に光を当てた、てれびのスキマ著『コントに捧げた内村光良の怒り』

先日「てれびのスキマ」こと戸部田誠さんが新書を出しました。「水道橋博士のメルマ旬報」で連載している「芸人ミステリーズ」をまとめた本です。新書用に書き下ろしたテーマが内村光良ということで、タイトルは『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』。
タイトルを見た段階で予感めいたものがありました。そしてそれは、書き出しを読んで確信に変わります。

2015年6月3日発売の『コントに捧げた内村光良の怒り』(コア新書)。

「序章 内村光良『怒り。』(前編)」の書き出しから。

「生放送なら、僕はやりません!」
内村光良は顔色を変えて激昂した。そのまま内村は蹴るようにして席を立ち、その場から去ってしまった。
残された相方の南原清隆は内村のうしろ姿を呆然と眺めていた。

この本は、きちんと「内村B」に光を当てています。30年間にわたって活躍している理由をそこに求めて、内村光良論が展開していくのです。グッときました。褒められれば褒められるほど不安に陥っていく歪んだファン心理を解放してくれました。
今後は怯えずにファンであることを表明できるかもしれません。「内村光良の魅力って何?」と聞かれても、この本を紹介すれば済むのですから。

コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方 (コア新書)

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