笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

南原プロデュース

ウッチャンナンチャンの内村光良は、数多くの若手芸人をブレイクさせてきました。

代表的な例を挙げると、「気分は上々」で改名した海砂利水魚(くりぃむしちゅー)とバカルディ(さまぁ~ず)、「内村プロデュース」に出ていた有吉弘行、さらには「世界の果てまでイッテQ!」のイモトアヤコ。厳密には芸人ではありませんが、「ウリナリ」でブレイクした千秋の存在も忘れてはなりません。

司会だからといって横柄に振る舞ったりせず、若手たちがやりやすい空気を作ってチャンスを与える。つまり内村光良の「優しさ」に支えられて、彼らはブレイクしてきたわけです。しかしながら南原清隆にも若手たちを育ててきた実績があります。どうしても相方の影に隠れてしまいがちですが。

ウッチャンが「優しさ」ならば、ナンチャンは「厳しさ」と言えるかもしれません。視点を変えれば、「優しさ」は「無関心」に映ることもあるし、「厳しさ」は「愛情」と捉えることもできます。

ウンナンと同じ事務所(マセキ芸能社)に所属しているドロンズ石本さんは、そんなナンチャンについて「ピリッとする先輩がいるのはありがたい」と好意的に語っています。

ドロンズ石本「40才過ぎてもピリッとする先輩がいるのはありがたい」

ドロンズ石本を支える南原清隆の言葉「求められたことをやる」│NEWSポストセブン

ナンチャンが座長をしている舞台『現代狂言X』。その舞台の宣伝も兼ねたドロンズ石本さんのインタビュー記事になります。

お笑いを目指してこの世界に飛び込んだのに、それとは程遠いレポーターの仕事ばかり来る。理想と現実のギャップに悩んでいることを、石本さんはナンチャンに相談しました。すると「求められていることをちゃんとやらないとダメだよ。その仕事に対して失礼だ」とナンチャンは答えたそうです。

南原「テレビでも、5分10分の番組にはスタッフがいて、そのコーナーを最高にしようと思ってやってる。朝の番組だから手を抜いて、ゴールデンだから気合いを入れる、という仕事の臨み方はダメだよ。ライブをやりたいなら、やる場所がなければ悩めばいいけど、あるうちはレポーター業もしっかりやって、寝る前とか、空いた時間できちんとライブの準備したらいいんじゃないの」

このアドバイスが印象に残っていて、「今でも支えになっている」と話す石本さん。

ところで、千秋さんと有吉さんは「ウッチャンと絡んだことでブレイクした」とされています。しかしそこに至るまでの土台を作り上げたのは、ナンチャンなのかもしれません。

確かにブレイクしたのはウッチャンがきっかけです。でも、そのあとも芸能界で長く活躍できているのは、ナンチャンから薫陶を受けたことがとても大きいように思えてなりません。実際に千秋さんは、今の自分があるのは「ナンチャンのおかげ」と公言しています。

千秋「あのときいっぱい泣かされたから強くなった」

2012年9月14日放送「ヒルナンデス!」(日本テレビ)

司会は南原清隆。
アシスタントは水卜麻美。
金曜レギュラーは有吉弘行、久本雅美、ライセンス、矢口真里、他。

金曜日は、南海キャンディーズの山里さんが進行を務める「3色ショッピング」というレギュラーコーナーがあります。そのコーナーに千秋さんが初参戦したときの話です。

山里さんはショッピング挑戦中の千秋さんを呼び止めて、「私だけが知っているナンチャンの秘密」を聞き出そうとします。すると千秋さんは開口一番、「ナンチャン、まだヒルナンデス緊張してると思う」。スタジオは笑いに包まれ、有吉さんは「ウソだろ! 千秋さん!」と嬉しそうに叫んでいました。

千秋「(ナンチャンは)超天然だと思う、でも自分ではしっかりしてて長男タイプだと思っているから、まわりが大変」

そう言ってカメラ目線で微笑むと、「ウリナリ」で共演していた頃の懐かしい写真が割り込んできます。そして回想シーンにぴったりなBGMが流れ出し、当時のナンチャンについて語り始める千秋さん。

千秋「超怒られてました、泣いたら怒るし、ふてくされたら怒るし、面白くないとか、かわいくないとか、『お前なんかダメだ』っていっつも言われてたけど、見捨てなかったよ、見捨てないでくれたよ」
南原「これ何だよ、なんのVTR作ってんだよ」
(スタジオ笑)
千秋「『女の子のバラエティはもって2年だ、だから2年以内に結果出さないと消えるだけだ、お前はあと1年しかないけど消えていいのか?』って言われた」
(照れる南原と聞き入る有吉)
千秋「でもそのおかげで頑張ったから、今まだ芸能界にいれているので、ナンチャンのおかげだと、これ本当に思ってます、(カメラ目線になって)あのときいっぱい泣かされたから強くなったんだよ」
南原「なんの話してんだよ!」
(スタジオ笑)

千秋さんの言葉を一番噛みしめていたのは、おそらく有吉さんだったのではないでしょうか。というのも、「内村プロデュース」で活躍する前は「リングの魂」でナンチャンと共演していたからです。猫男爵になる前は柔道王でした。

最近の若手はネタは頑張るのに番組は頑張らない

2014年9月9日放送「ひろいきの」(フジテレビ)

レギュラーは有吉弘行。
司会進行は陣内智則。
プレゼンターは鬼ヶ島の和田貴志。

今回の企画は「ひろいきの名言」。有吉さんの知られざる名言を、集まった芸人たちが順番にプレゼンしていきます。このとき鬼ヶ島の和田さんが持ってきた名言が、「最近の若手はネタは頑張るのに番組は頑張らない」。

3年前に「キングオブコント」の決勝に進出したことで、ようやくバラエティ番組にも呼ばれるようになった。ところが、ほとんどの番組で結果を残せず中途半端に終わってしまった。そのときに聞いて骨身にしみた言葉だったと和田さんは説明します。

しかし有吉さんはいまいちピンと来ていません。それもそのはず、有吉さんが直接相談に乗ったわけではなく、マシンガンズを経由して和田さんに伝わっていたからです。

和田「すごい凹んでるときに、マシンガンズさんと飲みに行かせてもらって、有吉さんがこんなことを言ってたと」
陣内「ほぉ」
和田「『最近の若手はネタ1本作るのに、何日も何週間もかけて作るのに、バラエティ1本決まったときに、集まって練習とか、シミュレーションする若手がいない』と」
有吉「うん」
和田「『バラエティをなめんじゃねぇって言ってるよ』って言ってて、あっ、さすがに『そうだ!』と思って、すぐ相方に電話して、これはもう意識を変えて行こうと」
陣内「うん」
和田「それから僕ら、もう決まったらすぐ集まって、シミュレーションしてっていうのを繰り返して」

ここで陣内さんが率直な疑問をぶつけます。

陣内「ということは、あなたはバラエティ、けっこうシミュレーションしてたの?」
有吉「やっぱ、1つ1つにやっぱり、ちょっと僕は時間をかけて」
陣内「あ~、そう」
有吉「夜眠れないぐらいですもん」
陣内「へぇ~、ホンマに?」
有吉「徹夜で行くこと多かったですよ」
陣内「へぇ~! ひろいきスゴいね」
有吉「ひろいきスゴいんですよ」
(スタジオ笑)

最後にマトリックスが書かれたボードを使って判定するのですが、この名言を有吉さんは「嘘シラフ」の位置に貼りつけます。「この名言はウソ」という判定に騒然となるスタジオ。でも、これにはちゃんとした根拠があったのです。

バラエティ番組に取り組む姿勢を南原清隆から教わった有吉弘行

陣内「嘘かいな! ええこと言うてるやん」
有吉「これはね、南原さんがずいぶん昔に言ったんです、こんなことを、『1つの番組に出るときには10個ぐらい何か用意していけ』つって」
陣内「うん、ええことやん」
有吉「で、『10個できなくてもいい、1つでもできたら今日はよかったと思って帰りなさい』って」
陣内「うんうん」
有吉「だから、それを真似した」
(スタジオ笑)

「内村プロデュース」の大喜利で、流れを無視して何度も答える若手芸人に対して、さまぁ~ず三村さんがこんな風に注意したことがあります。「打席立つのはいいけど、本当に素振り百万回したか?」。

ウッチャンは打席に立つ機会を与えて、自由にバットを振らせる。ナンチャンは打席に立つためにすべき準備や心構えについて教える。そういう役割分担で、ウンナンは若手たちを育ててきたのではないでしょうか。