笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

50代を迎えた内村光良が今抱えている悩みとは?

2005年4月、内村光良が40歳のときに、テレビ朝日のアナウンサー徳永有美と結婚しました。そして5か月後の2005年9月、伝説的お笑い番組「内村プロデュース」が終了します。

「ウリナリ」が2002年に最終回を迎えて、「気分は上々」と「笑う犬」も2003年に幕を閉じた。さらに「内村プロデュース」が2005年に終了する。メイン番組が次々と終わっていくなか、守るべき家族ができたウッチャン。

ファンとしては正直不安でした。もしかしたら40代を区切りに家族との時間を優先して、テレビの最前線から徐々に撤退していくつもりなのかもしれない。下手すればセミリタイアしてしまうのではないかと。

しかしこれは完全な取り越し苦労でした。ウッチャンは戦うことをやめなかったのです。

余談ですが、オードリー若林さんがウッチャンとプライベートで飲んだ際、仕事がラジオだけの時期があったと聞いて驚いたという話を、自身のラジオでされていました。おそらくこの頃のことでしょう。

45歳のときに対談で「子供に過去の栄光は見せたくない」と語った内村光良

吉田正樹『人生で大切なことは全部フジテレビで学んだ ~「笑う犬」プロデューサーの履歴書~』(キネマ旬報社)

この本にウッチャンとの対談が収録されています。日付が2010年4月20日となっているので、ウッチャンが45歳(結婚5年目)のときです。

この対談で、吉田さんが次のような質問をぶつけていました。内村光良の人生のピークはいつなのか。

「やるならやらねば」、「ウリナリ」のドーバー海峡横断部、「笑う犬」シリーズなど、各年代の代表番組を挙げながら聞いていくのですが、明確な回答は得られません。

吉田 でも今はまだピークではない?
内村 ええ、まだです。でもこれからどうなるんでしょうね。

人生のピークはまだ来ていないと暗に主張するウッチャン。でも、このときウッチャンを取り巻く環境が大きく変わりました。そう、2009年に長女が誕生したのです。

吉田 子供ができて人生が変わった? 時間の計り方というか。この子が大人になったら自分は何してるんだろうと。今まで、そういう発想はなかったでしょう。
内村 確かに。ひとつ決めているのは、子供に物心が付いたら、私の過去の映像を見せるのだけはやめようと思ったんですよ(笑)。仕事がなくなっちゃった時に、お父さんの過去の栄光を見せるのだけはね。それまでは何とか頑張りますよ。

まさに有限実行。「世界の果てまでイッテQ!」の快進撃、「LIFE!」での衰えることのないコント愛、それ以外にも現在は「内村さまぁ~ず」「スクール革命」「内村てらす」「にちようチャップリン」「痛快TVスカッとジャパン」といった多くのレギュラー番組を抱えています。さらにその合間に映画を撮ったり、舞台に立ったりと、まさに八面六臂の活躍。ついには理想の上司1位にも選ばれてしまいました。

特筆すべきなのは、50代になっても未だに最前線で戦い続けている点です。「世界の果てまでイッテQ!」は、本来ならばスタジオで司会をしていればいい立場なのに、定期的に海外ロケに行ってプレイヤーとして体を張っています。その背中を見て感化されない演者はいないでしょう。

2015年、雑誌の企画で今年のテレビを総括する座談会がありました。これを読むとウッチャンの活躍ぶりがとてもよく分かります。

50歳を過ぎて忙しさのピークを更新する内村光良

2015年12月発売『クイック・ジャパン vol.123』(太田出版)

特集「テレビ・オブ・ザ・イヤー2015」。

座談会に集まった放送作家が最終的に「今年の人」を決めるのですが、その候補としてウッチャンの名前がありました。

都築 僕は今年の人、今敢えて、ウッチャンじゃないかって思ってまして。たとえば『スカッとジャパン』。今、月曜日の七時から一一時までの戦いって超大変じゃないですか。そこで自分のペースでやって数字取っている。
村上 『スカッとジャパン』って、木下ほうかさん、津田寛治さんみたいにバラエティ的に新しい人をちゃんと使って、結果も出してますよね。さらに翌日の『クイズやさしいね』の司会も務めるという。
高須 終わった『笑神様』も面白かったけどねえ。演者が楽しそうで、ちゃんと番組が回ってる感じがした。いとこから見てウッチャンの活躍はどうなの。
内村 これがなかなか恩恵に預かってない(笑)。
都築 スカッとしてないんだ(笑)。
内村 でもびっくりしたのが、五〇歳過ぎて、キャリアの中で今が一番忙しいんだって
鮫肌 今、企画書みんなウッチャンだもん。

50代に突入して更なる飛躍を見せているにもかかわらず、今抱えている悩みを聞くとウッチャンは必ずこう答えるのです。「もっと売れるにはどうしたらいいか?」。

内村光良はなぜ「もっと売れるにはどうしたらいいか?」と悩むのか

2016年5月5日放送「内村てらす」(日本テレビ)

司会は内村光良。
アシスタントは小熊美香。
ゲストはメイプル超合金(カズレーザー・安藤なつ)、馬鹿よ貴方は(新道竜巳・平井"ファラオ"光)。

番組のエンディングで、平井"ファラオ"光さんがウッチャンに尋ねます。「もっと売れたい」と発言する理由について。

平井「最近テレビで内村さん見るたびに、『俺はもっと売れたいんだ! もっと売れたいんだ!』みたいのを言ってる気がするんですけど
内村「はいはい」
平井「最終目標はどこなんですか?
内村「目標は分かんない、とにかくもっと売れたい」
(スタジオ笑)
カズレーザー「漠然と売れたいんですか?」
内村「漠然と……」
カズレーザー「僕らと一緒ですよ、それ」
(スタジオ笑)
新道「出たての若手と一緒だ」
内村「そうそうそう、でも! 未だにどっかで『ナンチャン』って言われるときがあるんだよ」
(驚くスタジオ)
内村「未だにどっか歩いてて『ナンチャン』って言われたとき、俺はもっと売れなきゃと!」
安藤「え~!」

「未だにナンチャンと間違われるから」は照れ隠しであって、本心ではない気がします。だとしたら本当の理由は何なのか。それを考えたときに、ふと頭に浮かんできたのが、オードリー若林さんが出ていた対談番組でした。

内村光良ぴあ (ぴあMOOK)

内村光良ぴあ (ぴあMOOK)

芸能界は下りのエスカレーター

2015年11月7日放送「SWITCHインタビュー達人達」(NHK)

今回の出演者はオードリー若林正恭、羽田圭介。

羽田さんから今後の目標について問われた若林さん。「普通にまだ解決していない話だから」と前置きした上で、こう答えていました。

若林「今来る仕事だけをこなしてくってことじゃ、多分仕事減っていくと思うのね、なんかこう……常に足を動かして、のぼっていってる状態で、ようやくその位置を保ててられるみたいなさ」
羽田「あ~」
若林「下りのエスカレーターをのぼってるつもりじゃないけど、全速力でちょっとずつ上がれるような、なんかそういう世界だなって、なんとなくこう感じてるから……どうしようかなって思ってる」

現状に満足していたら、あっという間に蹴落とされてしまう。そして子供が物心付いた頃には、過去の栄光を見せる羽目になる。それが芸能界だということをウッチャンは知っているから、「もっと売れるにはどうしたらいいか?」と未だに悩み続けているのでないでしょうか。