笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

『現代用語の基礎知識』の売り上げに見る教養の崩壊

私はラジオを普通の人より聞くほうだと思うのですが、そのほとんどがお笑い芸人のラジオです。

ところが最近は、視野を広げたくて、TBSラジオ「ニュース探究ラジオDig」をちょいちょい聞くようになりました。と言っても、月曜パーソナリティがカンニング竹山さんだから、というのがきっかけなのですが。

今回は、正月休みに聞いていた「Dig」の中から紹介させて下さい。

同世代座談会「雑誌メディアの今とこれから」

2013年1月4日放送「ニュース探究ラジオDig」(TBSラジオ)

進行は江藤愛。
ゲストは藤木TDC、青木理、久田将義。

藤木TDC、青木理、久田将義による同世代座談会の後編。テーマは「雑誌メディアの今とこれから」。

3人とも雑誌メディアに深く関わってきた人たちなので、そっち方面に疎い私に理解できるのか不安でしたが、結果とても分かりやすくて面白い座談会でした。中でも、藤木TDCさんが『現代用語の基礎知識』を出版している自由国民社を取材したときの話が、特に印象に残りました。

藤木「去年のね、12月の頭ぐらいかな、自由国民社っていう出版社があるんですけども、『現代用語の基礎知識』っていう」
江藤「はい」
青木「流行語大賞ですね」
藤木「そうですね、それをやってるとこなんですけども、あの~、その『現代用語の基礎知識』の編集長に取材してきたんですよ、で、そのときに出た話で興味深かったことがあって、曰くね、まあ『現代用語の基礎知識』って、一番売れたのが’86年ぐらいで、65万部ぐらい出てたんですよ」
江藤「はい」
藤木「65万部って3000円ぐらいの本ですから、65万部とか売れたらものすごい数ですよね」
青木「そうですね」
藤木「それがね、90年代で30万(部)になり、今は15万(部)ぐらいしか出てない、4分の1に」
江藤「へぇ~」
藤木「まあ、それでもね、3000円ぐらいの本で15万部出てたらそれはもう、今は大優等生ですけども、それでもやっぱり4分の1ぐらいに減ったわけですよね」
青木「うん」

『現代用語の基礎知識』の売り上げが減った原因

藤木「なんで売れなくなったんですか?ってのは、まあネットでね、ウィキペディアとか」
久田「あ~、大きいですね」
藤木「かつてはその、『現代用語の基礎知識』を開かなければできなかったことが、ネットで簡単に検索できるようになった、っていうのも当然あるんですけども、その~、『現代用語の基礎知識』のね、編集長の清水さんって人は、それももちろんあるんだけれど、もうちょっと根本的な原因みたいのがあって、その『90年代に、教養の崩壊みたいなことが起きたんじゃないか?』っていうことを言うんですよね」
江藤「ええ、はい」
藤木「それは何か?って言うと、例えば80年代ぐらいまでの人間っていうのは、その現代史とかね、政治の問題とかに関する根本的な教養ってものを、まずみんな持ってた、と」
江藤「うん」
藤木「ところがね、90年代以降になって、そういった政治的なことだとか、歴史的なことだとか、いろんなことに対して背を向き始めたと、で、自分が好きなことだけ知っていればいい、まあそれは確かに80年代とか、90年代に、僕とかがライターでやってきたことの責任でもあるんですけど」

それによって起きたことについて。

藤木「だからあの、趣味に関する専門誌はたくさん出てきたんですけど、90年代頃にあった『03(ゼロサン)』とか『マルコポーロ』みたいなものは、そのときにバタバタバタッと無くなっていったんですよね」
青木「うん」
藤木「かろうじて『文藝春秋』とか、ああいう本当に、どっちかっていうと年齢の高いシニア層が読む総合誌ってのは残ってるんですけども、で、こう若者を結び付けているようなグラフィックな総合誌って無くなっていっちゃったんですよね」
久田「うん」
藤木「それによって何が起こるか?って言うと、例えば政治問題とかを、記事を書こうとしてもパッと読んでも何のことか分からないって現象になってくるわけですよね」

結果、そういう記事はだんだん無くなっていったと言います。

藤木「それ(政治問題)をやっても、編集者にしても読者にしても、ちょっと意味が分からなくて面白くないですねって話になるから、読まれないってことに、オミット(除外)されていく現象が起き始めるので、結局その~、誰でも知ってる、誰でも面白いようなネタだけがね、で、それは何か?って言うと、芸能だったり、スキャンダル、政治家のスキャンダルだったりってことがやっぱり中心となってて」
江藤「へぇ~」
藤木「全体的にその~……総合誌のレベルがネットに近くなっていってしまうってことが、多分あるんだと思うんですよ」
江藤「うん、私もその典型かもしれない」
(スタジオ笑)
藤木「90年代のその~、総合的な教養の崩壊みたいなものってのは、ある種の雑誌のね、売り上げが下がっているってことに結びついているのかもしれない、と」

この話から発展して、よく売れている新書の話に。

僕たちの時代

僕たちの時代

教養の崩壊とよく売れる新書の関係について

青木「今の藤木さんの話を聞いてね、そうだな~と思ったんだけど、新書ってあるじゃないですか」
江藤「はい」
青木「今はものすごい百花繚乱でいろんなところが出す、でまあ、多分この何年かは、年間ベスト10の書籍の売り上げって大抵、新書が上位に来る」
江藤「うん」
青木「まあ安いし、大体一晩で読めるような分量で、軽いしってことで売れるんでしょうけど、それはそれで分かることは分かるんだけど、かつて新書って、それこそ90年ぐらいまで、え~と岩波書店と、それから中央公論、中公新書ってのと、それから講談社?まあ御三家って言われてて、ほぼココしか出してなかったんですよ」
江藤「へぇ~」
青木「そこにバタバタバタッと他の社がみんな、出版不況であまり他の単行本が売れなくなる中で乗り込んで行ったんだけど、それまでの3社の頃って、けっこう牧歌的というか、いわゆる教養新書だったんですよね」
藤木「うん、そうですね」
青木「本当ね、今でもいらっしゃると思うんですけど、岩波書店の岩波新書はとにかく文句なく全冊買うと、1ヶ月に3冊か4冊出るんですけど、で、それをひと通り読んでおくことが、こうなんて言うの、一般人としての、社会的な教養であると」
江藤「へぇ~!」
青木「それが正しいか正しくないかは別として、そういうのがあって、いわゆる普通の人であればみんな知ってなくちゃいけないようなもの、っていうか教養ですよね」
藤木「うん」
青木「それが今、新書なんかは完全に……良いことか悪いことかは別としてですよ、啓発本系」
江藤「あ~」
藤木「自己啓発のね、ものがあったりとか、そのメンヘルですね、メンタルヘルスの本とかがやっぱり売れたりだとか」
江藤「すごい多い」
藤木「あと、まあ極端なナショナリズムみたいなのを煽ったりとか、死んだらどうなるみたいなこととか」
江藤「ふふっ」
藤木「そういったまあ、ある種のオカルト的なものとかね」
青木「そうですね」
藤木「特殊な、その政治意識みたいな本がバーンと売れたりとかするっていうのは、そこにやっぱり基礎となってる教養がね、少し乏しくなってきてるっていう」

私の親は、毎年「現代用語の基礎知識」を買っていました。子供の頃に見たソレは異様な存在感があり、そこにびっしり詰め込まれた文字を眺めたりしていました。時には昼寝用の枕として活用したりも。あの分厚さがちょうど良かったんですね。

実家の思い出アイテムランキングをしたら、この「現代用語の基礎知識」は確実にランクインしてきそうです。そういう体験もあって、私はこの話に食いついたのかもしれません。