笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

DVDが1万枚売れなければ吉本解雇という負荷を引き受けたグランジ

単独ライブのDVDが半年間で1万枚売れなければ、グランジは吉本から解雇されることが発表されました。

グランジは、五明拓弥(ごめいたくや)、遠山大輔(とおやまだいすけ)、佐藤大(さとうだい)が結成した3人組で、よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。「キングオブコント」では何度も準決勝に進出しており、単独ライブも定期的に行うほど実力があります。そんな彼らが、です。私はとても驚きました。

このニュースが報じられた数日後、よしもとのネット配信番組「よしログ」を担当していたダイノジ。そこで彼らは、今回のグランジの決断に触れながら、これから芸人が生き残っていくにはどうしたらいいのか?について、熱いトークを繰り広げました。

吉本の強みを享受できなくなりつつある若手たち

2013年8月29日配信「ダイノジのよしログ」(GYAO!)

パーソナリティはダイノジ(大地洋輔・大谷ノブ彦)。

グランジのDVD1万枚売れなければ解雇というニュースを受けて、今日のテーマを発表。

大谷「今日はちょっとですね、グランジ論と負荷のかけ方について徹底的にやりたい」
(スタジオ笑)
大地「はははっ、いいっすね!グランジ論、負荷のかけ方、これを放送に乗せられるってことがすごく良いと思います」
大谷「だって!やっぱ芸人がこんだけクソほどいて、やっぱさ、どうやってメシ食うか問題とか」
大地「はいはい」

吉本の若手たちが今置かれている状況を赤裸々に語り始めます。

大谷「そもそも吉本の話をしますと、吉本興業何が魅力的か?と言うと、最初のころは確かに給料少ない、単価が少ないって一般的に言われてます」
大地「はい」
大谷「だけど、やっぱり50歳、60歳と年を重ねるごとに、劇場というね、ひとつのツールを与えられるんです、つまり50歳で、例えば仕事でテレビに全然出なくても、『ご職業なんですか?漫才師です』って言えるわけですよ」
大地「うん、うん」
大谷「他の事務所の人たちは劇場がないから、営業に呼ばれて行ってね、それができる一部の芸人さんはいいけど、要はそのツールがないもんだから、タレント化していくか、まあ映画に出て役者になるとかさ、お笑いのゴールみたいなのが、やっぱりちょっと狭まる」
大地「はいはい」
大谷「だけど吉本ってのは、そこがドシッとしてるから、だから若手の子らは赤字で、『あのギャラなんでこんな安いんだよ!』って言うけど、その売り上げ金ってのは劇場を運営していく費用に回されてると思ってたんだけど」
大地「うん」
大谷「これがやっぱりさ、こんだけ芸人が増えてくると、全員が劇場に出れるんですか?問題になってくる
大地「なってくるね」
大谷「ぶっちゃけ僕の計算では、中川家さんまでで終わりだと思うんですよ、これは、このあとの世代、どうサバイブするか(生き残るか)ってなったときに」
大地「そう」
大谷「俺たちは、仕事ゼロで子供産まれるってなったときに、俺がソフトコンテンツ作ろう、で、音楽(DJ)」

お笑いの仕事だけで食べていける才能があり、かつ、その環境があるなら構わない。しかし、そうでない芸人はソフトコンテンツを見つけて武器にしたらどうか?と提案します。そして、それは芸人をあきらめる行為ではなく逆だ、というのが大谷さんの主張。

芸人以外の仕事をすることで芸人を続けられる

大谷「だから芸人さんでも、これからソフトコンテンツってあるよね、そしたら(テレビの)台本書きやすい」
大地「だからダイエット、そういう簡単料理……」
大谷「そうそう、それで呼んできたら、その話をするだけで埋められるわけだから、バラエティに出るひとつ(理由)ができるわけじゃん」
大地「うん」
大谷「要はさ、その方法でやっとけば芸人続けられるの、それでテレビ出てるから……はい、芸人です、これが今の状態、俺たちが体現できてる」
大地「うん」
大谷「芸人だけの仕事、いわゆる地方の営業、劇場の漫才だけじゃ多分俺たち、ぶっちゃけ子供を養えない……ギリギリアウトかな?」
大地「そうだね」

営業の仕事が減ってもDJイベントなどで埋め合わせができたから、今も芸人でいられると自己分析するダイノジ。

大谷「他の芸人さんもそういうのちょっと気付いてきてる、例えば、サッカーに詳しい芸人とか、スポーツコンテンツでそこが一番仕事ある人がどんどん増えてきてる」
大地「うん」
大谷「で、俺はそれで全然いいと思う、それやりながら芸人を続けていく、芸人を続けることを目的にして、あの~、漫才を金儲けの手段にするんじゃなくて、漫才を目的にしちゃう
大地「はいはい」
大谷「そしたら、漫才続けることを目的にしたら、ソフトを全員がこうやって選んでいくのはアリだと思う」

「アメトーーク」に出ることなんかは分かりやすい例かもしれませんね。

大谷「さっきも言ったけど、吉本の最初のルールは、若手の頃はお金渡さないで、ベテランになったらやっぱりその地位と貢献度でしっかりギャラが上がっていくっていう、それが他の会社と違う魅力だけど、もうそこが矛盾しているわけ」
大地「なるほどね」
大谷「で、どうしよう?ってなったときに今回、彼ら(グランジ)は要するに1万枚以上売れなければ解雇って、社員が提案したらしいんですよね」
大地「うん」
大谷「『グランジさん面白いんだから、なんとかグランジさんを売りたい』って言ったときに、1万枚売れ……ただこれは、俺は結構厳しいと思う」

大谷さんは、DVD1万枚売る過程をどう物語化していくかが大事だと言います。

6千枚しか売れなかったとしても、残り4千枚は手売りすればいい。そして、その様子を撮影して見せればいい。もし解雇になって別の事務所に移ったとしても、あとからネタにして笑い話にできればそれでいい。それこそHi-Hiのように、と。

グランジ BEST NETA LIVE DVD

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損得を越えて役割を引き受ける

グランジは、「キングオブコント」決勝進出まであと一歩のところに何度も来ています。コントの実力は申し分ありません。このまま続けていれば、「キングオブコント」をきっかけにブレイクする可能性もあったかもしれません。

果たして、解雇を賭けることが彼らにとって利益になるのでしょうか?

大谷「さっきも言ったけど、役割を引き受けるっていうと、『24時間テレビ』の大島美幸ちゃん、本当にすごいなって思ったのが、『24時間テレビ』でさ、マラソン走った人、みんな仕事減ってんのよ」
大地「うん」
大谷「これって大きな落とし穴だよね、要は毎年仕事が減るの前提で走る人を見つける、こんな残酷ショーないでしょ?毎年生贄探してんだよ」
大地「分かってるようなもんだもんね」
大谷「で、今年、大島はどうしたか?って言うと、信頼している『イッテQ!』のスタッフのために、彼らのために走るって決めたのよ」
大地「うん」
大谷「でも多分、俺はいろいろやっぱね、大島に話を聞きたいの、例えば、その前に『27時間テレビ』やって、おっぱいポロリみたいなことをやろうとしたり、アグレッシブな笑いを取りにいこうとしてて、ああいうのやったのは芸人として、やっぱ落とし所探してたのかな?って」
大地「絶対そう」

自分にとって損か得かで判断せず、信頼するスタッフのために役割を引き受けた森三中の大島さん。同様にグランジも、信頼する社員の熱い思いに応えて、DVDが1万枚売れなければ吉本解雇という提案を引き受けたのです。

台本どおり一生懸命できるか?そこで自分たちの面白さを出せるか?

ここで、ある売れている先輩芸人のアドバイスが紹介されます。「結局、面白ければいろいろあっても売れる」。紹介したあと、大谷さんは続けます。このアドバイスを若手芸人がそのまま受け取ってはダメだ、と。

大谷「じゃあ面白いことだけをやり続ければいいんだって言ってるけど、その面白いことが細分化されすぎちゃって、例えば、その人が思っている『面白い』と、この人が思ってる『面白い』はそれぞれ独立国家で」
大地「時代も絶対違うしな、その人は面白いことだけを追及してたら売れたけど、今は違う」
大谷「一番キツいのは、そうやって思い込んじゃって、自分の思ってる面白さが全てだと、それ以外はクソだと思い過ぎちゃって、人から与えられた仕事を満足にこなせない若い子が増えてるほうが、絶対もったいない」
大地「もったいない」
大谷「余計なアドリブ入れるとかさ、台本どおりまずやらねえとか、まあ俺らそうだったから余計そう思うの、ふふっ」
大地「はははっ、でもいるのよ、本当に、気付きなさいって!」
大谷「だからその言葉より、さまぁ~ずさんが言ってた、『なんで売れたんですか?』って大竹さんが言われたときに、大竹さんが『俺、台本どおりやるようになったから』っていう言葉のほうが重いよね

ダイノジは「めちゃイケ」オーディションを通して、その意味をより深く理解したそうです。

大谷「(台本は)放送作家が死ぬ気で書いてきてるのよ、したら、その構図に則れば、実は、俺たちがやれば俺たちの笑いになんのよ」
大地「うん」
大谷「大事なことはそれをやった上で、そこのルールからちょっと逸脱するのはアリみたいなことでしょ、まずはそこやらなきゃいけないのに……で、これはアイドルと一緒だと思うの」

枠があるから、枠からはみ出せる。

大谷「要は、それ(台本)を一生懸命やるか?やったときにそいつが面白くできるか?ってとこを見てるわけ」
大地「そうそう」
大谷「これがアリかナシか?そんなこと誰も問うてないの!それをやる!っていう、振られたらやるっていうことが、その人の人間味の面白さに、直感で気付いてるヤツが全部勝ってるじゃん」
大地「うん」
大谷「アイドルは顕著、だから負荷を、負わされてやるっていうヤツが勝つのよ!だから、グランジは負荷を負わされてやるって言ったから偉いの、これに『えっ、この企画アリっすか?』てなったら、例えば、大島が『えっ、マラソン?アリですか?仕事減ってる人多いし……』ってなったら、それはやっぱりね、言い方悪いけど二流なんですよ、一流は『やります、なぜならあなたがそれいいって言ったの、なんか理由があるからでしょ?』」
大地「うんうん」
大谷「そんときに受けた、受け身をどうするか?だから彼ら(グランジ)がこれから大事なのは、ここで決断して、この半年間をどう受けてきたか?」
大地「それを自分の中に入れて、どう出すか、だよね」

私もDVDが発売される11月から半年間、グランジを見守っていきたいです。もちろんDVD買って、応援する立場で。