笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

お笑い芸人が運をつかむために必要なこと

「良い人じゃないと残れない」。

ナインティナインの岡村隆史が「オールナイトニッポン」で何度かしていた発言です。

だいぶ前の放送を記憶から引っ張ってきたので、言い回しは微妙に違うかもしれませんが。で、バラエティ番組を見ていると、岡村さんと同じような発言をしている人が結構いるんです。なので、今回はそれらをまとめて紹介させて下さい。

「アメトーーク」での雨上がり決死隊宮迫博之

2012年9月27日放送「アメトーーク」(テレビ朝日)

司会は雨上がり決死隊(宮迫博之・蛍原徹)。
テーマは元・今が旬芸人。
メンバーはオードリー(若林正恭・春日俊彰)、アンガールズ(山根良顕・田中卓志)、スリムクラブ(真栄田賢・内間政成)、Wコロンねづっち、小島よしお、はるな愛。
ゲストはスギちゃん。

「年が変わると急に仕事が減るのは、なぜ?」とワイルドキャラを忘れて、真剣に相談するスギちゃん。

スギちゃん「視聴者の方がもう本当に要らないと言っているのか、スタッフさんが『もういいんじゃない?』と言っているのか」
若林「多分、スタッフさんだと思うんですよ、結構、芸人の間で『1周目』っていう言い方して」
(メンバーうなずく)
若林「おしゃれイズムとか、なんかその、『今までどうでしたか?』って聞く番組を回ったら……もう2回目ってないじゃないですか?」
蛍原「まあ、そうやね」
若林「その番組のスタッフさんは聞いたから」
蛍原「うんうん」
若林「で、それが終わって、年末年始出たら、それ(旬)が終わるんじゃないかなと思うんすよ」
蛍原「ホンマや」
若林「だから1周目で仲良くしてくれ……ちょっとマジな話になっちゃってますけど、ふふふっ」
(スタジオ笑)

夜中の居酒屋でする話だと言って照れながら、旬のときに抱えていた悩みを打ち明ける若林さん。

若林「旬のときに相談する人があんまいなくて、で、そういう話を聞きたくて、だから今になって思うんですよ」
蛍原「そうか、そうか」
若林「で、その1周目って、なんか芸人のパドックみたいになってると思うんですよ」
蛍原「ほぉ」
若林「いろんなスタッフさんに会って、(人差し指を周回させながら)ココで買い手付かなかったら、まあ付くことないですね!こっから、1周終わったあと」
蛍原「(興味津々に)あ~そう」
若林「いろいろ使ってくれたり、仲良くしてくれたスタッフさんに未だに仕事もらうみたいな」
蛍原「うんうん」
若林「稀ですけどね、2周目、3周目とかで仲良く……くふっ、ちょっとマジ過ぎてすみません」
蛍原「いやいや、全然いいですよ」
宮迫「そうそうそう、だから、よくめっちゃ言うのが、最終的に『エエ奴やないとアカンよな』って
若林「そうそう!そうっすね!」
(メンバーも納得)
宮迫「だって、人との関わり合いやから」
スギちゃん「はいはいはい」
宮迫「だからちょっと、いわゆる天狗的なことでスタッフさんに嫌われてしまったら、だって、買ってくれへんもんね」
蛍原「まあ、そっか」
若林「そうそうそう」

この回のアメトーークは芸人の熱い部分が垣間見れて、非常に面白かったです。

続いては、テレビ東京で放送していたシチュエーション・コメディ「ウレロ☆未確認少女」。いわゆるウレロのシーズン1。そのDVD-BOXの特典映像で。

「ウレロ☆未確認少女」での作家オークラ

2012年2月29日発売「ウレロ☆未確認少女 DVD-BOX」(テレビ東京)

キャストは劇団ひとり、バカリズム、東京03(角田晃広・飯塚悟志・豊本明長)、早見あかり。

第5話「ダマセ☆未確認少女」の出演者オーディオコメンタリーにて。参加メンバーは東京03の飯塚と角田、脚本を担当した作家オークラ。

この第5話は、秋野暢子さんと菜々緒さんがゲスト出演しています。で、秋野さん登場シーンでの会話。

オークラ「あ、誰か来たよ」
飯塚「誰、ゲスト?」
(本編で扉を開けると、そこには悲しみに暮れる秋野)
角田「はい!」
飯塚「来ました、秋野暢子さん」
角田「これ、すごいんだよね」
オークラ「すごいっすね」
角田「これもうちょっと、潤んでるんだよね」
飯塚「泣いてるの」
角田「目がね」
飯塚「うん」

3人は、秋野さんがウレロに出てくれたことが本当に嬉しかったと言います。

飯塚「物心ついたときにはもう」
オークラ「いたよね」
飯塚「大女優さんでしたから」
オークラ「赤のシリーズで、山口百恵さんを」
飯塚「そうよ」
オークラ「悪女を演じてた人じゃないですか、こんな人がこんなもう……現場に来て100パーセントの力でやってくれるってありがたいですよ」
角田「ね~」
飯塚「リハから泣いてたからね」
角田「すごかったよ」
オークラ「ギリギリまで決まんなかったんですよ、これ」
飯塚「あっ、そうだね」
オークラ「だってあの、本読みのときにやっと秋野さんだ、って1週間前ぐらいに決まったって言ってて、それが来て、こんなに一生懸命やってくれるって」
飯塚「しかもね、(本編で)ババアだ、ババアだってね」
角田「扱いがね」
飯塚「ちょっとビビってたもんね、本読みのときに『大丈夫なの?』って」
角田「そう」
オークラ「結局だから、秋野さん見て感じたのは、残る人は良い人なんだなって
飯塚・角田「あ~」
飯塚「確かにそうだね」
角田「ね、出てくれてね」

この後、バカリズムさんが菜々緒さんのあまりの美しさに気絶して、床に倒れこむ場面があるんです。その動きを見て、オークラさんが「ウッチャンですよ、もう」と言ったのです。さらに、「ヒデ(バカリズム)が持ってるマセキイズムが出た」と。

ベタなキャラを演じるバカリズムにウッチャン性を見つける。そういう楽しみ方も「ウレロ☆未確認少女」にはありますね。

話を戻しまして、次は日曜日の朝に放送しているトーク番組「ボクらの時代」から。

「ボクらの時代」でのオアシズ光浦靖子

2013年2月3日放送「ボクらの時代」(フジテレビ)

出演者はオアシズ光浦靖子、西加奈子(小説家)、東直子(歌人)。

あるイベントでお笑い芸人と一緒になった西加奈子さん。そのときの印象を語ります。

西加奈子「芸人さんってテレビのイメージあるから、結構あのまんまなのかな?っていうか」
東直子「うん」
西加奈子「感じで思って、お会いするとすっごい礼儀正しいし」
光浦「うん」
西加奈子「人見知りだし」

東直子さんも、才能があればある人ほど気難しくて近寄りがたいと思っていたそうです。そのコメントに対して、

光浦「時代が変わりましたよ」
東直子「ほんとう?」
光浦「やっぱね、売れてる人は性格良い
東直子「あ、そうなんだ」
光浦「あの、MC(司会)やってる人で悪い人いない
東直子「へぇ~」
西加奈子「そうなんや~」
東直子「裏でもちゃんとあんな感じで……」
光浦「うん」
東直子「普通に会話してくれる感じなんだ」
光浦「うん!」
西加奈子「芸人さんの、独特の胡散臭さみたいなのはないよね、胡散臭さって言い方が褒め言葉でもあるんだけど」
光浦「うんうんうん」
西加奈子「大阪やったから、なんか(吉本)新喜劇とか見てて、その新喜劇の芸人さんが街歩いてたりすると、全然違うの、もうなんかギャングみたいっていうか、ふふっ」
光浦「あ~!分かる」
西加奈子「不良!って感じで、それはそれですっごい格好良くて、胡散臭さが」
東直子「うん」
西加奈子「でも今の芸人さんって本当、なんだろ?」
光浦「『イイ子』って感じでしょ?」
西加奈子「うん!みんなすごい、本当やさしいし」
光浦「で、やさしくないと逆に生き残れないっていうか
東直子「あ~、そうなんだ」

この話を受けて、作家と作品性について語る西加奈子さんの話も興味深かったです。

最後は「東西芸人いきなり!2人旅」。関西ローカルの番組なんですが、心優しい友人が録画して送ってくれました。私がこのエントリーを書くきっかけとなった放送です。

さりとて、落語家 (ヨシモトブックス)

さりとて、落語家 (ヨシモトブックス)

「東西芸人いきなり!2人旅」でのケンドーコバヤシ

2012年11月25日放送「東西芸人いきなり!2人旅」(ABC朝日放送)

司会は東野幸治、勝俣州和。
出演者はロッチ中岡(関東芸人)、ケンドーコバヤシ(関西芸人)。

ほぼ初対面の関東芸人と関西芸人が出会い、そのまま旅に出るという旅バラエティ番組。

旅も終わりに近付き、夜もふけた旅館で本音で語り合う場面。中岡さんがお笑いをやるにあたって参考になる話をリクエストすると、真顔で、たむらけんじさんが壮絶にスベった話をするケンコバさん。苦笑する中岡さん。そんなボケを挟んだ後、

中岡「もっとあるでしょう」
ケンコバ「(月亭)八方師匠って、俺がすごい尊敬する人で」
中岡「はい」
ケンコバ「『壁があれば迂回しろ』って言うた、あの人、『乗り越えるな』って」
中岡「あ~、はいはいはい」
ケンコバ「『乗り越えて、息ゼーゼー言うぐらいだったら迂回して余裕でやったら、オモロイこと思いつくかも知れんぞ』みたいなこと言う人なの、なんか俺は好きなの、八方師匠の考え方がな」
中岡「はい」

そんな八方師匠と交わした会話。

ケンコバ「その八方師匠と、結局、芸人って力あるヤツが運をまとうしかないな、って話になったことあんねん」
中岡「はい」
ケンコバ「そんときに八方師匠が俺に聞いてきて、『でも、その運はどうやってまとったらええか、どう思う?』って言うて、『良い人、人が良くなかったら無理や』
中岡「うん……なるほど」
ケンコバ「どんだけ芸事で嫌なヤツでも、嫌なヤツにはなるな、みたいな」
中岡「……本当の自分が」
ケンコバ「そう、『芸で嫌なヤツなら尚のこと良い人になれ、もうそれしかないと思う』って、八方師匠はもう断言してはったね」

ワイプで、「やっぱ人柄やねんね」と東野さんが語りかけ、「やっぱね~」とうなずく勝俣さん。

中岡「いや確かに!本当に思うのが」
ケンコバ「うん」
中岡「良い人しかいてないです、上に行けば行くほど
ケンコバ「これが不思議なもんでな、ホンマそうやな」
中岡「はい、人間としてしっかりしている」
ケンコバ「いや俺はホンマ、だから……芸人の人好きやわ、エエ人多いわ」
中岡「そうですね」
ケンコバ「ほとんど良い人、ちゅうか、みんな良い人やな、でも確かにデビュー当時、何百組おるときにおるもんな、嫌なヤツ」
中岡「嫌なヤツいてます、もうコイツとしゃべらんとこう、みたいな」
ケンコバ「結構そういうヤツで、力持ってるヤツがおっても知らん間におらんようになってるわな、不思議なもんで」
中岡「なるほど、分かります」
ケンコバ「それは八方師匠の言うてることやな、運をまとえないんちゃう?それでいたら、人を蹴落としたり、ダマしたりするようなヤツおるやん」
中岡「はい」
ケンコバ「あんな若手で何百組もおるときには」
中岡「そうっすね」

旅は終わり、スタジオに戻ってエンディングトーク。

東野「なんだかんだありながら最後はちょっとこう、お互いの真面目なお笑い論も聞けて」
勝俣「ね~、ケンコバの八方さんの話、いい話だね」
東野「ね、あの~名言でございまして、『壁は乗り越えようと思うな、迂回しろ』」
勝俣「迂回しろ、と」
東野「はい、あと運っていうのはやっぱり、人柄がやっぱり大事だと」
勝俣「まあ欽ちゃん(萩本欽一)はそういうこと言うからね、ちゃんとね」
東野「あの~、さんま師匠もなんかそういう、『テレビで売れるには何が必要ですか?』みたいななんか若手芸人の質問に」
勝俣「うん」
東野「『ん~、まあまあ人柄やろ』っていうことをね、やっぱりだから人の良さみたいな、やっぱ汚い人は中々、最終的にはなんかこうケンコバが言うてたように、段々消えていくんすよね、だから中岡君なんて性格がすごい良いじゃないですか」
勝俣「うんうん」
東野「だから結局、今のテレビに合ってるという」
勝俣「合ってるんだと思う」

私はこれが唯一の正解だとは全く思っていません。しかし、数ある正解のうちの1つである、と確信しています。