笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

星野源「幸福でありながらもハングリーな表現ができる人が本物」

「書き果てて死ぬ、みたいな小説家としての人生に憧れる?」。
この問いかけに、朝井リョウさんは憧れないと答えました。即答でした。

朝井リョウ「幸福と創作は両立する」

2017年1月2日放送「文筆系トークバラエティ ご本、出しときますね?」(BSジャパン)

司会はオードリー若林。
出演者は西加奈子、綿矢りさ、村田沙耶香、朝井リョウの作家4人。

本好きな若林さんと作家たちによる異色のトーク番組。

番組の後半、綿矢りささんが尋ねます。小説を書くためなら己の幸福さえも犠牲にするスタンスに憧れるかどうかを。実際、文豪と呼ばれる人たちの自殺率は高いですし、「人生を謳歌していると小説家っぽくない」と思われがちです。

若林「これは、どうですか?」
朝井「1から100で(憧れが)あるかというと、ゼロです」
若林「ほぉ~」
朝井「幸せなまま書きたいです」
若林「あ~、それ言ってるよね、ずっと」

朝井さんは、文学賞のパーティーで「不幸なこと経験してないと作品に深みが出ないよ」とアドバイスされた経験があるそうです。ほかにも「面倒くさい女の人に振り回されたほうがいいよ」とか。でも、そういったものは「呪い」でしかないと訴えます。

朝井「幸福と創作は両立すると思ってるんで……」
西「うんうん」
朝井「それをやりたいな、と思ってるんです」
若林「なるほど」

「幸福と創作は両立する」。この意見を思い出すきっかけとなったのが、星野源さんの著書でした。

星野源「幸福でありながらもハングリーな表現ができる人が本物」

星野源『いのちの車窓から』(KADOKAWA)P190から

10代から20代にかけて常に「ひとりぼっちだ」と感じていた星野源さん。本当は周りに人が沢山いたにもかかわらず、現実から目を背けていたと悔やみます。

「幸せになってしまったら良い表現はできない」などと、己の人間性や才能に自信がない自分を正当化するための、言い訳に塗れた情けない理論を掲げたりした。

しかし続きを読むと「今はそんなことはまったく思わなくなった」とあり、昔の自分を否定しているのです。

なぜならドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の撮影現場などで「ひとりではない」と感じられるようになったから。その結果「幸せになってしまったら良い表現はできない」という理論に頼る必要はなくなり、むしろ、

幸福でありながらもハングリーな表現ができる人が本物だ

と考えるようになったそうです。

この星野源さんの表現者としての変化に勇気付けられた人がいます。それは内村光良(ウッチャンナンチャン)の妻である徳永有美、通称「徳ちゃん」です。

星野源の言葉は現在の内村光良の肯定

2017年4月24日放送「ベストセラーを読んでみた」(北陸放送)

パーソナリティは徳永有美。

毎週一冊のベストセラー作品を紹介するラジオ番組です。

この日の放送で取り上げたのが、星野源『いのちの車窓から』でした。まずは全体の感想をざっくりと述べてから、先ほどの表現が出てくる章を掘り下げていきます。

徳永さん自身も、かつては「幸せになったら成長が望めない」と信じていました。

徳永「旦那さん(内村光良)もそういう思いって、どこかで抱えている部分があるかもしれないんですけども、でも、旦那さんの姿を見ていて思うのは、それをちょっと超えた感じがあって、昔はやっぱり……批判もしないし、トゲトゲもしてないし、不幸せなわけでもない自分はこれでいいんだろうか? と多分思っていた時期ってあるんじゃないかと、私は隣にいて思ったんですけど」

しかし、ウッチャンは受け入れた。

徳永「私たち家族も年を取って、子供ができて新たな局面になってきたときに、この土台の上でいい仕事というか、花を咲かせようって、多分どっかで切り替えた瞬間が彼のなかであるんだろうな、と」

この章を読んで嬉しくなったと最初に話していたのですが、それはきっと現在のウッチャンを肯定する言葉に聞こえたからでしょう。

徳永「逆境がバネになるとか、そういうこともあったかと思うんですけど、なんかまたひとつ違った考え方もあるんだなと、星野君みたいな方が、こういう風に、『幸福でありながらもハングリーな表現ができる人が本物だ』って言ってくれたのは、私のなかでストンと落ちるような感じがしましたね」

最近の雑誌のインタビューで星野源さんは、影響を受けた先輩として、NHKのコント番組「LIFE!」で共演中のウッチャンを挙げていました。

with(ウィズ)』2017年5月号(講談社)

声優として参加した映画『夜は短し歩けよ乙女』の宣伝も兼ねたインタビューにて。

一緒にお仕事して、毎回『こうありたいな』と思うのは、内村光良さんです。大ベテランなのに、誰の言うことも絶対に否定しないんです。ご本人にも強いこだわりがあるはずなのに、『やってみよう』と一度は必ず受け入れてくれる。とても器の大きい人だと思います。みんなに慕われるような仕事の取り組み方を、僕も見習いたい。

最大限の尊敬を表明した上で、最後はこう結びます。

将来は内村さんのような女性と結婚したい(笑)

いのちの車窓から

いのちの車窓から