川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』。
私がこの小説に出会ったのは爆笑問題の太田さんがきっかけでした。それから3年が経ち、今度はオードリーの若林さんがきっかけで文庫版を読み直しました。そこで気付いたのは、やっぱりこの物語が好きだということです。
オードリー若林「オススメの10冊」に川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』
2015年6月18日放送「アメトーーク」(テレビ朝日)
司会は雨上がり決死隊(宮迫博之・蛍原徹)。
テーマは読書芸人。
読書芸人はオードリー若林正恭、ピース又吉直樹、オアシズ光浦靖子。
今回はスタジオを飛びだして、本にまつわる場所を巡るオールロケを敢行。まずは紀伊國屋書店(新宿本店)へ行き、ゲストの市川紗椰さんと共に「書店の歩き方」を学びます。でもその前に、「これまで読んできた本の中でオススメの10冊」を読書芸人に紹介してもらいます。若林さんが悩み抜いて選んだ10冊は、以下のとおり。
- 中村文則『教団X』
- 平野啓一郎『私とは何か』
- 岡本太郎『強く生きる言葉』
- 朝井リョウ『何者』
- 川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』
- 司馬遼太郎『燃えよ剣』
- 村上龍『村上龍映画小説集』
- 綿矢りさ『夢を与える』
- プチ鹿島『教養としてのプロレス』
- 西加奈子『サラバ!』
ここでは『すべて真夜中の恋人たち』についての言及はありませんでしたが、光浦さんの何気ない一言によってスポットライトを浴びる場面があとで出てきます。
太田光が書いた帯は信用できる
「オススメの10冊」の紹介が終わったところで紀伊國屋書店を見て回ります。中村文則さんの小説が並んだコーナーで足を止め、注目すべきポイントを解説する又吉さん。ここで宮迫さんが、平積みされた本を眺めながら尋ねます。
宮迫「この帯(おび)なんかはどうなの? この誰かがオススメ……それこそ西(加奈子)さんがオススメとか、こういうの参考にするわけ?」
又吉「僕はわりと参考にしますね、好きな作家が薦めてる本とか、『あっ、そうなんや、読んでみようかな』と思って、読んでみたりしますね」
若林「最近、でも、又吉先生に書いてもらうので出版業界が取り合いらしいっすよ、帯」
蛍原「そうなんや~」
又吉「とんでもない……」
若林「ちょっと又吉先生に頼り過ぎかなって思うんです」
蛍原「あ~、ちょっとね~」
若林「若林もお願いしたいなって」
蛍原「やりたかったの?」
若林「帯書きたい、ふふふっ」
誰が帯を書くかで売れ行きも変わってくると言います。
光浦「爆笑(問題)の太田さんの帯も、すごい売れるって聞いたことある」
蛍原「あ~、そうなんや」
光浦「太田さんがオススメって言うと」
すると脇から『すべて真夜中の恋人たち』を差し出してくるスタッフ。なぜなら帯を書いているのが太田さんだからです。
蛍原「光浦さん、太田さんの、ほら」
宮迫「なんて書いてあるの?」
蛍原「『天才が紡ぐ繊細な物語に超感動、美しい表現はもはや言葉の芸術』」
光浦「ウソつかないじゃん、太田さんって」
宮迫「ホンマやね」
光浦「と思ってやっぱ手出しちゃうんだよな~」
太田さんは以前、別番組でこの小説の素晴らしさを熱く語っていました。
- 作者: 川上未映子
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太田光を夢中にさせた『すべて真夜中の恋人たち』の出だし
2012年1月23日放送「ストライクTV」(テレビ朝日)
司会は爆笑問題(太田光・田中裕二)。
ゲストが最近感動した本をプレゼンするコーナーに、読書家である太田さんも参加。
太田「この人の……2コ前ぐらいの話題作は読んでて、好きだったんで、それは芥川賞作家なんですけど」
田中「うん」
太田「で、その人の最新作だっていうんで読んだら、これがもう……レベルが桁違いに良くて」
田中「どういう風に桁違いなの?」
太田「なんとも、それは言葉じゃ説明できない」
田中「それをやんだよ!」
(スタジオ笑)
田中「それをやる番組!」
その芥川賞作家の最新作とは、川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』。主人公は入江冬子。34歳の独身女性。出版前の原稿に誤字脱字がないかチェックする校閲の仕事をフリーランスでしている。これまで付き合った男性は1人だけ。趣味もなく部屋にこもって原稿と向き合う日々。そんな彼女が、物理教師をしている58歳の男性・三束(みつつか)とカルチャーセンターで出会う。
川上未映子さんが初めて挑んだ長編恋愛小説に、太田さんは絶賛を惜しみません。
太田「ほとんど恋愛経験も、ほとんど少ない、年ごろの女の子なんだけど、恋愛にどんどんどんどん自分がハマっていく、だけど、この先行くのが怖いっていう」
田中「うんうん」
太田「そのこう……気持ちの、なんて言うのかな? (両手で押したり引いたりして)こういう感じが実に細かく! 繊細に、しかもね、綺麗な言葉で書いてあるの」
田中「うん」
それは出だしを読めば分かると太田さん。
太田「最初の1行目からね、もう涙が出るぐらいね(目の前にある本を取る)」
田中「最初の1行目を、じゃあちょっと」
太田「(ページをめくりながら)え~と……ちょっといいですか? 探して」
(スタジオ笑)
田中「1行目だからすぐ見つかるだろ!」
太田「『なんでやねん、どこで……』」
田中「そんなんじゃない!」
(スタジオ笑)
太田「『真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。』っていう1行目なんです、要するに、真夜中になぜこんなに光があふれているんですか? っていう問いかけから始まる」
田中「はい」
太田「それはもう街灯であろうか、ビルの窓、あるいはその携帯電話の、人が持っている明りや信号や……」
田中「光が目立つんだね、夜のほうが」
太田「夜はなんでこんなに光であふれてるんだろうっていう、そういう感性なんです」
田中「うん」
太田「これはもうグッとね……この1行目から入っちゃって、それで切ないところにどんどんどんどん持ってかれちゃうんだよね」
この小説のテーマは「光」。そう解説したあとに、冬子と三束の会話を番組のなかで引用していました。
「問う・答える」が成立している状態が一番幸福な関係
川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』(講談社文庫)
P147から。
「どうして空は青いのですか」とわたしはしばらくして三束さんにきいた。
「なんで、こんなに青い感じに」
「波長の問題ですね」と三束さんはさっきとおなじように目のうえを手で囲い、雲のほうをみたまま言った。
「波長の短いものほど散乱するんですね。青い光は短いから散乱しやすくて、だからあんなふうに空全体がおおきくみえるんですよ」
さらにP219から。
「光はいったい、どこに行ってしまうんです」
「吸収されてしまうんです」と三束さんは言った。
「ほとんどの光は物に吸収されて、消えてしまいます」
わたしは三束さんをみた。
太田さんは、この小説の素晴らしさは「問う・答える」にあると力説。
太田「常に問い続けるの、女の子はね」
田中「うん」
太田「すると、それに対して何でも答えてくれるんですよ! 三束さんは」
田中「うんうん」
太田「で、これが実は俺、一番幸福な関係なんじゃないかなっていう風に思ったりするわけ、読んでると」
田中「うん」
太田「こういう哲学書やなんかもみんなそうで、『これどういうこと? どういうこと?』っていう」
田中「うん」
太田「我々お笑いなんかも『これどうでしょう? こんなのどうでしょう?』っていう、そうするとお客さんがそれに対して笑ってくれりゃあ、それが答えで、で、その関係ってのが一番幸福なんですよね、それが成立していることが」
田中「うん」
太田「男女のあいだにおいても、この三束さんと主人公の関係ってのはまさに、それがもう、非常に幸福な形で成立している瞬間があるんです」
田中「うんうん」
太田「『ああっ、もう!』って、読んでるうちに儚くも崩れていくような、本当に上手に切り取ってあるな~っていう」
田中「うん」
太田「これはまさに、その幸福の……瞬間が、描かれていて良かったです」
舞台に立つ芸人はそういう幸福な関係が成立する瞬間を知っている。だから川上未映子さんの『すべて真夜中の恋人たち』に太田さんは心打たれたのかもしれません。
そしてこの太田さんの熱のこもったプレゼンを横で聞いていたのが、オードリーの若林さんでした。