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笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

ノンフィクション作家・石井光太にとって「書くこと」とは何か?

ノンフィクション作家・石井光太は言います。「書けなくなることが怖い」と。

物心ついた頃から作家を目指していたという石井さん。きっかけは、舞台美術家である父親の存在でした。

物乞う仏陀 (文春文庫)

物乞う仏陀 (文春文庫)

舞台美術家である父親の影響で作家を目指すようになった

2013年12月26日放送のBSプレミアム「タメ・トラベル ~同い年おしゃべり旅~」。

「タメ・トラベル」は、同い年の3人で旅をする番組です。
今回のメンバーは、石井光太(ノンフィクション作家)、塚原直也(体操選手)、山里亮太(お笑い芸人)。1977年生まれの同い年(放送当時36歳)が、冬の鎌倉に集まりました。

この旅で、石井さんの作家活動の原点が明らかになります。
江ノ島の海岸を歩いたあと、足利尊氏の祖父・家時ゆかりの寺「報国寺」にやってきた3人。冬の紅葉を楽しみ、青々とした竹林を抜け、それらを見渡せる庭園にたどり着いたところで休憩をとります。そこで、番組が与えたトークテーマ「父親という存在」について語り合っていたときです。

石井「僕の親父は舞台の仕事をしてるんですね、だから逆に言うと、もう子供のときから外国の有名な演出家だとか、え~、その俳優さんだとか」
山里「うん」
石井「美術の人間だ、衣装の人間だとか続々と家に来るわけですよ、ときには自分で提案したモノが、それが例えば舞台のセットに突然出てきてしまってたり」
山里「へぇ~!」

このような環境で育ったため、「モノを作る仕事がしたい」と考えるようになった石井少年。しかし父親と同じ仕事は絶対にイヤだった。それで、美術や舞台とは違う「作家」という道を選択しました。

石井「で、1日3冊の本を読んで、1週間に1本小説を模写して」
山里「模写?」
石井「模写、書き写す」
山里「え? それは……(塚原と顔を見合わせる)」
山里・塚原「(2人で石井のほうを向き)なんのために?」
石井「いや、呼吸が分かるんですよ、でもね、みんな言うじゃん、だけど例えば、体操するときだって人の真似しますよね?」
塚原「あ~、しますします」
石井「多分そういうことです」

異常なペースで模写を繰り返していた理由は、それぐらいやらないと作家の世界で成功できないから。

山里「それに結構憧れるところがあって、無理だからって、もっと先のことやんなきゃ無理な世界だからっていうのを分かっているけど、ここの努力って、その、病的にそんなことするって、すげ~しんどいでしょ?」
石井「しんどくないです」
山里「(腕組みして首を傾げながら)そこがしんどくないのがいいんだよな~」
石井「多分アイデンティティーなんだよ、自分にとっての」
山里「ほぉ」
石井「つまり自分は、書けないことのほうが怖いんですよ、だって書けなきゃただのハゲじゃん」
(山里・塚原笑)
石井「ふふっ、いや、そうなんだよ」

石井さんは、ノンフィクション作家として世界中の紛争地域やスラムを取材してきました。命の危険を感じた瞬間もあったはず。そういった作家になってからのエピソードは、加藤浩次さんとの対談番組で詳しく話していました。

絶対貧困―世界リアル貧困学講義 (新潮文庫)

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自分の命よりも「書くこと」を優先する

2014年2月16日放送のBS日テレ「加藤浩次の本気対談!コージ魂」。

司会は加藤浩次。ゲストはノンフィクション作家・石井光太。
世界中の危険な地域を取材してきた石井さんに対して、加藤さんは率直な疑問をぶつけます。

加藤「そういう危険な所って、もういくつぐらいまで、あと何回かしかできないな、って自分のなかであったりしますか?」
石井「う~ん、僕はね、危険だとは思わないんですよ」
加藤「でもだって、マフィアのとこ行ったりしてるのもありましたよね?」
石井「そうですけど、僕にとってやっぱり、書けないことのほうが怖いんですよね
加藤「命より?」
石井「はい」
加藤「自分の命より書けないことのほうが怖い」
石井「そうですね」

石井さんの内側に「書けなくなる怖さ」が存在することは、「タメ・トラベル」での山里さんの質問で知りました。さらに、その怖さは「命を落とすかもしれない怖さ」よりも優先される決定的な価値観であることが、加藤さんの質問で分かりました。「自分の役割は書くことしかない」。揺るぎない眼差しでそう述べる石井さんの姿が目に焼きついています。

ところがです。それぐらいの覚悟で書き上げた作品を自分で読むのは「恥ずかしい」と言うのです。一体なぜでしょうか?

ノンフィクションは恥ずかしいことが書いてあるから面白い

作家を目指すきっかけになった父親との関係について尋ねます。

加藤「お父さんはなんて言ってますか? 今こうノンフィクション作家やられてて」
石井「今はもう何も言わないですし、昔もそんな言わなかったですけど、たった一言、『20代のうちに出れなかったら、もうあきらめなさい』と言われました」
加藤「なるほど、ほぉ」
石井「それだけは言われました、はい、それ以外のことに関しては基本的には一切言われませんでした」
加藤「自由にやれ、と」
石井「はい」

自分の作品を父親が読んでいるかどうかを加藤さんに聞かれると、家族に読まれるのはイヤだと石井さんは答えます。そして、

石井「僕はもうね、本も家のなかに置きたくもないし」
加藤「自分の?」
石井「自分の、はい」
加藤「それ、何が恥ずかしいんですか? そこまで取材して、言ったらそこまで光を見つけて、やっと書き上げた本が何が恥ずかしいんですか?」
石井「いや~、恥ずかしいことを書いているからですよね、でもそこが一番、人は面白いと思うじゃないですか

「コージ魂」では毎回エンディングに一筆書いてもらっています。今回のお題は「作家魂とは?」。色紙とペンを渡された石井さんは、次のように書きました。

作家魂とは 切腹して投げつけることである

この言葉の意味をすぐに理解した加藤さん。きっと「お笑い」にも通じる部分があるのでしょう。