笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

毒蝮三太夫が芸名の名付け親である立川談志について語る

毒蝮三太夫さんが「加藤浩次の本気対談!コージ魂」に出演していました。

お年寄りに「長生きしろよ、ババア」などと言い放つ毒舌で、根強い人気を誇る毒蝮さん。彼のように「何を言っても許される存在になりたい」と語る加藤さんとの対談は、とても面白かったです。特に印象深かったのは、「毒蝮三太夫(どくまむしさんだゆう)」の名付け親である立川談志さんとのエピソードでした。

小林勝彦の紹介で立川談志と出会う

2013年2月7日放送「加藤浩次の本気対談!コージ魂」(BS日テレ)

司会は加藤浩次(極楽とんぼ)。
ゲストは毒蝮三太夫。

加藤さんが話を聞きたい人をゲストに呼んで、放送時間60分をフルに使ってインタビューする対談番組です。番組の後半にバー(酒場)のセットに移動したところで、立川談志さんとの関係について聞きます。

加藤「毒蝮三太夫という芸名を付けたのが、談志師匠なんですよね?」
毒蝮「そう、あんなもの誰も付けませんよ」
加藤「元々どういう知り合いだったんですか?」
毒蝮「元々、俺は落語が好きだった」
加藤「で、見に行かれたんですか?」
毒蝮「いや、あの~、俺たちは劇団作ってたの」
加藤「マムシさん、劇団に入ってて、役者さんですもんね」
毒蝮「新劇でね、それでその中に、小林勝彦(こばやしかつひこ)って役者がいたの、結構な役者、死んじゃったけど」
加藤「はい」
毒蝮「そいつがまた落語が好きで、それで、『お前落語が好きなのか? 俺も好きなんだけど、誰か知ってるヤツいたら紹介してくれよ』って、そいつが寄席に出入りしてたから」

そして、小林勝彦さんが紹介したのが立川談志さん。

毒蝮「当時の柳家小ゑん(やなぎやこえん)」
加藤「あ~」
毒蝮「昭和30……か、31年ごろ」
加藤「そのとき、マムシさんはおいくつですか?」
毒蝮「20歳ぐらい、大学生」
加藤「談志師匠は?」
毒蝮「同じ、昭和11年生まれ」

談志さんに抱いた第一印象は、ツッパっていて生意気。あまり気が合わず、その場は別れたそうです。ところが数日後に偶然の再会。

毒蝮「俺は日大の芸術学部ってところへ、優秀な成績で通学してたわけ」
加藤「優秀だったんですか?」
毒蝮「いやいや、そう言っても分かんないから、へへへっ」
加藤「ふふふふっ」
毒蝮「それでね、新宿でね、(電車に)乗ってきたヤツがいるのよ、俺の前に」
加藤「はい」
毒蝮「したら、あの、こう着物着て、『生意気そうなヤツだな~』ったら、それが、立川談志だった」
加藤「へぇ~!」
毒蝮「『お~、久しぶり』、会ってから何日か経ってた」
加藤「うん、うん」
毒蝮「『家はどこ?』って聞いたら、『俺は目黒で降りるんだ』と」
毒蝮「俺は五反田で降りる、『それじゃあ、目黒で降りて、それで目黒で話をしようか』」
加藤「へぇ~、ちょっとしゃべってご飯でも食べようか? みたいな感じになったんですね」
毒蝮「そうそうそう、それで、そこで、『じゃあ今、新宿(の寄席)に出てるから来いよ』ってんで、行くようになった、それからの付き合い」

週1回ぐらいのペースで会って、親交を深めていった2人。毒蝮さんが役者で頑張っているときに、談志さんから思わぬ誘いがありました。

役者の毒蝮三太夫に立川談志「寄席の世界に来いよ」

毒蝮「それで、なんだかんだつってるうちに、アイツ(談志)が『俺達の世界に入れよ』って言い出した」
加藤「あっ、役者じゃなくて」
毒蝮「うん、要するに、スタンダップコメディアンつったね、アイツは、だけど俺はね、役者としては食えなくもなかった、そこそこね」
加藤「はい」
毒蝮「ウルトラマンだって、あの~、まあまあ」
加藤「アラシ隊員ですもんね」

ウルトラマンシリーズの隊員役でブレイクして、役者として順風満帆なのに「寄席の世界に来い」と。

毒蝮「だけど、(談志は)役者でやってたんだったらお前はもう行き詰まるよ、って思ってたんですよ」
加藤「ほぉ~」
毒蝮「要するに怪獣の相手役とか、チンピラの役とか、ね、それから御用聞きの役やってたって、『お前は二枚目の役やるヤツじゃないんだから』」
加藤「うん」
毒蝮「『で、お前、1人で楽屋来てもね、文楽師匠や小さん師匠もね、 志ん生師匠も、お前のこと嫌がらねえじゃねえか』って、だから俺のことをリトマス試験紙じゃないけど、調べてたんだね」
加藤「は~」
毒蝮「『違和感がないよ』と、『だったらお前ね、寄席の世界に来いよ、1人しゃべりやれよ』」

そう言って、テレビ番組「笑点」への出演を持ちかけてきた談志さん。

毒蝮「今度、『笑点』で座布団運びをしないか? と」
加藤「『笑点』が今度始まるっていうときですか?」
毒蝮「始まってたのよ、もう」
加藤「あ、始まってたんですか、談志さんが考えたんですよね?」
毒蝮「そうそうそう」
加藤「企画自体」
毒蝮「そうそう、彼が生みの親よ、それで座布団運びはいたの、二つ目の彼がやってたの、(三升家)勝松がね」
加藤「はい」
毒蝮「だけど、二つ目じゃね、座布団取ったりなんかして、ん~、乱暴にできないから、真打が座ってんだからね、『だったらお前やれよ』って俺に話を持ってきたの」
加藤「そんとき、どう思いました?」
毒蝮「嫌だよ、そりゃあ、俺ウルトラマンだもん」
(加藤笑)

しかし毒蝮さんはこの誘いを最終的に受けるのです。

元気になる毒蝮三太夫語録

元気になる毒蝮三太夫語録

「ウルトラマン」より高いギャラを出すと口説かれて「笑点」の2代目座布団運びに

加藤「出るって決めたのは、なんでなんですか?」
毒蝮「だから……『じゃあ俺は、仮の名前で出ようかな?』つったんだよ」
加藤「マムシさんが役者やってるときの名前は、本名なんですか?」
毒蝮「石井伊吉(いしいいよし)って言うの」
加藤「石井伊吉って名前で、役者をやられてたんですね」
毒蝮「そうそう、だから俺もね~、『石井じゃやりにくいよ』つったの、ね」
加藤「はい」

ならば芸名を付けよう。

毒蝮「『じゃあお前、ウルトラマンに出てて、怪獣にも負けないような名前で、蝮(まむし)ってのはどうだ?』、みんなね、嫌なヤツを蝮って言ったのよ」
加藤「はいはい」
毒蝮「蝮みたいなヤツだなって、したら円楽さんやなんかが『ただの蝮じゃ面白くないよ』、で、上に毒を付けた」
加藤「へぇ~、蝮三太夫のはずだったのに、円楽さんとかが『面白くねえな、毒付けちゃえ』って」
毒蝮「そうそうそう」

芸人「毒蝮三太夫」の誕生。

加藤「毒蝮三太夫って嫌じゃないですか?」
毒蝮「嫌だよ! んなもの!」
(加藤笑)
毒蝮「良いわけねえだろ?」
加藤「はい」
毒蝮「したら、アイツ(談志)は『お前、ウルトラマンで幾らもらってる?』って言うから、『そうだな~、15万かな~』つったんだよ」
加藤「はい」
毒蝮「そうしたら、アイツは『20万俺払うよ、毎月』って」
加藤「へぇ~」
毒蝮「こういうとこ(カウンターバー)で話してて」
加藤「ウルトラマンよりもギャラを保証すると……ギャラで動いたんですか?」
毒蝮「金(かね)だよ!」
加藤「あはははっ! 金!?」
毒蝮「金だよ! だってあんな名前良いわけないだろ!」

金で動いた毒蝮さん。

毒蝮「それでね、そこまで言うんだったら本気かなと思ったのよ、これは」
加藤「はい」
毒蝮「本気に言ってんのかな? じゃあ、なってやろうじゃねえか」
加藤「うん」
毒蝮「なってみるか? なってやろうじゃねえか、そういうもんよ」

「笑点」で改名披露をやって、2代目座布団運びとして活躍し出した矢先、事態が急変します。

立川談志が選挙のため「笑点」を降板して毒蝮三太夫はTBSラジオへ

毒蝮「談志が、立候補したんだよ」
加藤「あ~、なんかありましたね」
毒蝮「衆議院だけどね、最初」
加藤「はい」
毒蝮「だから番組が終わっちゃったの、で、俺もだから辞めたんですよ」
加藤「なくなっちゃいますもんね」
毒蝮「なんにもない」
加藤「役者(の仕事)ももうなくなって、毒蝮でやってるから」
毒蝮「そうそう、そのときに来たのがTBS、ラジオですよ」
加藤「へぇ~!」

談志さんの誘いを受けて飛び込んだ世界。それがいきなり終わってしまい、気が付いたらTBSラジオに。

加藤「それは、談志さんはなんて仰ってました?」
毒蝮「談志は、『お前ね、よくね、毒蝮を続けたよ』って言ったよ
加藤「それは、辞めると思ってたんですかね?」
毒蝮「(無言でうなずき)『よく引き受けた』って」
加藤「あっ、その後から言ったんですか?」
毒蝮「うん、『半分、俺は冗談でもよかったんだ』って、だけど……後年ね、アイツは、人に『俺の人生の作品の中で、毒蝮は最高傑作だよ』
(言葉を噛みしめる加藤)
毒蝮「って、言ってたらしいんだよ、それをまあ、周りの連中が聞いて、『はぁ~、談志さんってのは本当に毒蝮さんのことを気にしてたんだな』って」
加藤「はい」
毒蝮「やっぱり、持つべきものは友達かな……とは思ったね」

ラジオで活躍できているのは談志さんのおかげだと毒蝮さんは言います。

毒蝮「だけどね、朝のラジオでもね、今日でもね、毒蝮だから『ババア!』って言えるのよ
加藤「うん」
毒蝮「石井伊吉(本名)でもって、『おい、ババア! くたばれ、この野郎!』なんて言ったら喧嘩になりますよ」
加藤「ちょっと違うかもしれない、確かに、毒蝮三太夫という名前の人が言うから」
毒蝮「そう、蝮に言われたんじゃ、蝮に噛みつかれたんじゃしようがねえ、毒があんだからアイツは」
加藤「うん」
毒蝮「背中を押してくれたのよ、毒蝮という名前が」

TBSラジオ「毒蝮三太夫のミュージックプレゼント」は、今年(2013年)で44年目に突入しました。