笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

くじらがオードリー若林に「エンタの神様」でやる漫才でアドバイス

「THE MANZAI 2013」決勝まであとわずかです。もうワクワクが止まりません。

ただし私の楽しみ方は異質かもしれません。と言うのもネタをあんまり見ていないので、ネタそのものを語る言葉を持っていないのです。ネタ見るのはもちろん好きです。でも、そういう負い目もあって「THE MANZAI」はテレビ番組として楽しむ形になってしまいます。

テレビショーとしての賞レース

決勝の「THE MANZAI」と、その決勝で戦う漫才師を決める「本戦サーキット」。

前者はテレビショーで、普段お笑いに接する機会のない人も見ます。というより、そういう人にも見てもらうために番組が作られます。一方、後者は劇場で行われ、観客は濃いお笑いファンが多いです。選考する審査員も違います。どうしたって歪みが生じます。

例えば「M-1グランプリ」の敗者復活なんて相当に歪んでいます。平等さを求めるのならネタ順は最後ではなく最初にすべきでしょう。しかし、そうしていたらサンドウィッチマンの劇的な優勝はありませんでした。その歪みがテレビ番組として正解だと思ったら素直に受け入れて、とにかく楽しむように私はなりました。

今回は「オードリーのオールナイトニッポン」を紹介させて下さい。賞レースに関係ありそうな話をしていたので。

10年前の「エンタの神様」でやったネタがお蔵入りになったオードリー

2013年11月16日放送「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)

パーソナリティはオードリー(若林正恭・春日俊彰)。

先日「エンタの神様」の収録をしてきたオードリー。

若林「1年ぶりですかね、『エンタの神様』のね、収録に、で、漫才やってきましてね」
春日「うん」
若林「久しぶりでしたけども、なんか、あの~、ディレクターさんがさ、付いてくれてる、一緒じゃない、ずっと」
春日「ああ、そうね」
若林「サトウさんね」
春日「まあ、ずっとそうだね」
若林「でね、俺それでセットとか見てね、懐かしいな~って思ったら、俺らが初めて『エンタの神様』に出て、お蔵入りになったのって、もう10年前よ」
春日「そんなバカな、そんな経ってる!?」
若林「いや、25歳よ、アレ」
春日「うそ~」

思い出話に花が咲きます。

若林「2本コント撮って、2本ともお蔵入りになったんですけどね、我々ね、俺がまだボケで、春日さんツッコミで」
春日「うん」
若林「で、あの当時、思い出したんだけど、あの~、業界のことなんにも知らないから、いっぱい撮るわけですよね、『エンタの神様』の収録で、で、今週はこの人たちをオンエアしよう、というのがあるじゃないですか」
春日「うんうん」
若林「その、例えばオードリーをオンエアするならば、事務所に連絡が行きますよね、事務所に連絡が行って、マネージャーが『何月何日にオンエアされるよ』って俺たちに話が来る、っていう流れじゃないですか」
春日「うん」
若林「だけどさ、それを知らないから、毎週毎週『エンタの神様』土曜10時から始まるのを見て、俺テレビの前で、『次、オードリー出ろ!次、オードリー出ろ!』って」
(作家笑)
春日「分かる分かる」
若林「あっ!分かる?」
春日「やってた」
若林「やってたよな!」
春日「やってたし、ビデオも撮ったし」
若林「ビデオ撮って、今週こそは出てるんじゃないか!?と思って、で、『次、オードリーだ!次こそはオードリーだ!』って、前の人のネタ終わって、『次こそはオードリーだ!』と思ったら、まちゃまちゃ!みたいな」
(作家笑)
春日「あるある」
若林「くふふふっ」
春日「アレアレ?と思って、最終的に、はなわさんが歌って終わり」
若林「ははははっ!」

自分だけと思って若林さんが語り始めたら、春日さんもでした。さすが学生時代からの友達。

タイムマシンに乗って25歳の春日に言ってやりたい

若林「俺、そのときのお前の元にね、タイムマシン乗って、言ってやりたいね」
春日「なんて?行って、なんて言うのよ」
若林「『君……5年後世間を揺るがすよ』」
(作家笑)
春日「うん、そんときに言われても、『なんだお前は!』」
若林「きゃはははっ!」
春日「『なんだお前!なんだよ!?』つって」
若林「したら俺もね、『なんだよ!』」
春日「『なんだよ!』」

当時は若いこともあり、とにかく1回でも「エンタの神様」に出れば売れると信じていたオードリー。
オンエアされるのは収録の約1ヶ月後という情報をつかんでいたので、テレビの前に張り付いていたのに、

若林「で、4週目ぐらいで、(チンピラのように)『なんだよ~!』」
春日「『いつなんだよ!!』」
若林「きゃはははっ!」
春日「って言って、『サトウさん、いつなのよ!?』」
(若林笑)
春日「って思って、最初はオンエア日だっていうぐらいのときはさ、もう頭から録画、そのVHSですよ、ね」
若林「うんうん、VHS(ビデオテープ)ね」
春日「頭からちゃんと録画してんだけど、段々もうね、緊張感薄れてきてるから、1ヶ月経ったあとぐらいは、もうその場のさ、見てて出たら押そうみたいなさ」
若林「うんうん」
春日「録画ボタン押そうぐらいのテンションになってるのね、それまではきっちり頭からバーッとさ、予約録画してるんだけどさ」
若林「そんときのお前の元に行ってやりたいね……」
春日「タイムマシンかなんかで?」
若林「うん」
春日「なんて言うの?」
若林「『君……5年後ね、M-1の決勝出るよ』」
春日「『うん……なんだお前は!』」
若林「『なんだよ!』」
春日「『なんだ!何ワケ分からないこと言ってんだよ、えっ!?』」
若林「『はぁ!なんだ、こっちだってそうだよ!』」
春日「『出れるわけねえだろ!面白くねえんだから、こっちはよ!』」
(若林笑)
春日「って言うよ」
若林「まあな」

そんな即興コントをしてしまうぐらい思い入れのある「エンタの神様」。この番組に去年出たときに、若林さんはネタに関してある疑問を持ったと言います。

事務所ライブでウケていたネタが「エンタの神様」で軽くスベった

若林「去年も『エンタ』出て、こういうことがあったわけですよ、去年は俺たちのネタね、マイナーチェンジ、ちょっとズレ漫才をマイナーチェンジした、後半にね、金縛りにあうネタですよ」
春日「あ~」
若林「これがケイダッシュライブ(事務所ライブ)ではウケたんですよ、おろしたときに、周りの先輩なんかも『いいじゃん、いいじゃん、あのネタ、前半がズレ漫才で、後半が違う』、で、それをかけたら(披露したら)、ズレ漫才のとこまでウケたんだけど、後半の金縛りのとこが、ちょっとスベったんだよね、くふふっ」
春日「そうだね」
若林「失速したんだよね」
春日「うん」
若林「で、俺はそのときに、ちょっとやっぱり変化させないといけないんだろうなと思ってたんだけど、いや、これちょっと違うのかな?と思ったわけですよ」
春日「うん」
若林「いや、いつものでいいよってことなのか?って思ったりしてて」

事務所ライブの客層について話す若林さん。

若林「難しいのがさ、ケイダッシュライブでネタやるのとさ、『エンタの神様』でネタやるの、やっぱ全然違うわけですよ
春日「うんうん」
若林「ケイダッシュライブていうのは、ケイダッシュに詳しいお客さんがいて、まあ60~70パーセント、前の月、前々の月のお客さんがいて、新しい人が、まあどのくらいでしょうね?3割、4割の感じで入れ替わって、こうブレンドされてったりするっていうか」
春日「うん」

さらに、事務所ライブに出ていると、ネタを進化させないといけなくなると言います。

若林「せっかく形作ってもさ、事務所ライブでかけてくうちにさ、事務所ライブ毎月来る人にとってはもう毎月見る形だから、もちろんちょっと飽きてくるから、芸人側もじゃあ変化させなきゃって、それをウケてないと思っちゃうから、変化させなきゃってことで、進化させてるように見えて、実は世の中におろすときには退化しちゃってるみたいな
春日「うん」
若林「こういうことが起こることも、ありうるわけですよ」
春日「なるほど」

そして、今年も「エンタの神様」から出演依頼が。

少し前にやったオードリー単独ライブの中からネタを選ぼうとなったとき、若林さんがやりたいネタはズレ漫才じゃありませんでした。迷った若林さんは、くじらさんに相談します。くじらさんは太田プロ所属のピン芸人で、若林さんとプライベートで大の仲良しという関係です。

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「エンタの神様」でズレ漫才以外をやろうとする若林に「大人げねえ」

(くじらの発言は若林が再現)

若林「相談しようと思ったの、でも相談できる相手の、そのトップがくじらなんだよね」
(スタジオ笑)
若林「くふふふっ」
春日「なるほど、なるほど」
若林「くじらに話して、『今度エンタで、3万でパンを売るネタやろうと思うけど、どう思う?』って聞いたら」
くじら「いや、大人げねえよ!」
若林「って、第一声で言われて」
春日「大人げねえ?」
若林「『大人げねえよって、どういうこと?』つったら」
くじら「いや、オードリーが単独でやって、なんか全く今までにない形をいきなり見せて、大人げないよ、それ」
若林「つって、ふふふっ」
春日「あ、そういうこと?」
くじら「あの1本目のね、ちゃんといつものズレ漫才やればいいんじゃないの」
若林「って言うのよ」
春日「うん」
若林「俺もそうだなって思って」
春日「うんうん」
若林「で、あの~ハワイのネタがあるんだけど、これもすごいスタンダードなズレ漫才で、ハワイの漫才、それをかけようと思って」
春日「うん」
若林「あの~、だからこの、いつもみんなが見慣れてるモノをちゃんとやってみようと思ったのは、初めてなんだよね

くじらさんのアドバイスを受けて、今年の「エンタの神様」では、いつもどおりの正統派のズレ漫才をやることに決めた若林さん。いざ本番。

若林「で、(舞台)袖にいるときに緊張しなくて、こういうことでいいんだな、と思って」
春日「うん」
若林「無駄に進化させて、退化に見られるのも良くないってことに、去年のこととかでも感じて」
春日「うん」
若林「で~、いいんだ、これで、と思ったら、今から出るぞってときに司会者の人が、『それでは続いての方行きましょう、進化したズレ漫才、オードリー!』つったんですよ」
(スタジオ笑)
春日「あ~、言ってた」
若林「やっべ~!進化してねえ~」
(スタジオ笑)

今年の「THE MANZAI」でどんな物語が生まれるのか、テレビの前に張り付いて、刮目(かつもく)します。