笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』がオードリーに与えた影響

「たりふた SUMMER JAM '14 ~山里関節祭り~」で、オードリー若林が披露した「妄想シアター」。

現場で観て衝撃を受けました。なぜなら若林さんの才能が爆発していたからです。「2014年のお笑い名場面ベスト1を選べ」と言われたら、このときの体験を挙げてしまうかもしれません。

それぐらい素晴らしい作品でした。あの興奮をもう一度味わいたくて、去年の12月に発売された「DVD」も購入しました。ハッキリ言います。まだ観ていないオードリーファンは絶対に買ったほうがいいです。

「たりふた SUMMER JAM '14 ~山里関節祭り~」とは、深夜のお笑い番組「もっとたりないふたり」が行なったライブイベントです。山里亮太と若林正恭がストイックに笑いを作り続けた3ヶ月間。その集大成として、このライブが開催されました。会場はなんと渋谷公会堂。

「たりふた SUMMER JAM '14 ~山里関節祭り~」で才能を爆発させたオードリー若林

2014年8月21日公演「たりふた SUMMER JAM '14 ~山里関節祭り~」(渋谷公会堂)

出演者は南海キャンディーズ山里亮太とオードリー若林正恭。

好きな女性タレントとの妄想恋愛を一人芝居で演じる「妄想シアター」。渋谷公会堂に集まった約2000人の観客が見守るなか、若林さんが選んだ相手は広末涼子さんでした。彼女の登場がいかにセンセーショナルだったかを説明したあと、どこでもドア風の扉をくぐり抜けて妄想の世界へ……

テレビの仕事を終えた若林は、マネージャーと共に駐車場に向かっている。さっきまで収録で一緒だった能年玲奈を絶賛しながら。しかし、ピュアすぎるが故に将来が心配になってしまう。

若林「なんでかな~と思ったら、俺らの世代は、広末涼子パターンってのがあったのよ」
(山里笑)
若林「広末もね、能年ちゃんぐらいね、すごいこうピュアだ、みたいに出てきたのよ、したらある日フライデーかなんかでね、千葉の駐車場でね」
(会場笑)
若林「とっ散らかっちゃってるところを写真撮られて~、そっからおかしくなったのよ」

タクシーに無賃乗車して千葉県の海岸(ドラマのロケ現場)まで行った事件。それがいつだったか気になって若林はスマホを取り出す。2001年7月20日に週刊誌が報じていた。

若林「こんときになぁ、俺がもし売れてて、ここからは天狗発言よ」
(会場笑)
若林「広末と出会ってたらぁ、助けれてたのにな~とか思っちゃう俺がいるよね」
山里「マネージャーだったら超面倒くせ~なコイツ」
(会場笑)

駐車場でマネージャーと別れて、車に乗り込む。運転しているあいだも広末のことが頭から離れない。

若林「いや~、しかしあれもう13年前かぁ……」
山里「まだ広末引っ張ってんだね」
若林「もしあんときなぁ、広末と知り合いだったらなんでも話聞いてあげたのにな~、あのころの広末助けたかったなぁ、広末を助けたかったな~、広末を助けたかったな~!」

感情のコントロールが効かなくなる若林。車も暴走を始めて制御不能に陥る。すると、車は閃光を放ちながら消えてしまった。しばらくして暗転していた舞台が明るくなる。運転席で意識を取り戻した若林は、慌ててブレーキを踏む。

若林「あああぁ~! キキーッ!」
山里「ウソだろ?」
若林「(放心状態で車を降りて)突然まばゆい光に包まれて、景色がちょっと、いつもと違っている……なんだ? 新聞が落ちてる……7月19日? 2001年! どういうことだ? 広末を救いたいという気持ちが時空を歪ませて、過去にタイムスリップしたというのか!?」
(あえてやっている説明口調に会場笑)
山里「すげ~、アイツ冷静に把握している」

若林は車を走らせる。もちろん、広末がやってくるはずの千葉県の海岸を目指して……

このあとの怒涛の展開に息を呑みます。タイムスリップを巧みに活かした構成に唸ります。ファンなら分かる小ネタも随所に散りばめられていて、笑いの要素もたくさん詰まっています。この続きを、本当に多くの人に観てもらいたいです。

たりふた SUMMER JAM '14~山里関節祭り~ [DVD]

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ところで、若林さんがタイムスリップに使ったのは「車」でした。おそらく映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』から得たアイデアだと思われます。オードリーを含めた現在中堅と呼ばれている芸人は、多感な少年時代にこの映画と出会っているので、影響をモロに受けた世代なのでしょう。ビビる大木さんも、その中のひとりです。

映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の人気が日本で根強い理由

2015年1月9日放送「よんぱち 48hours」(TOKYO FM)

パーソナリティはビビる大木(鈴木おさむの代打)。
アシスタントは三浦茉莉。
ゲストは松崎健夫(映画評論家)。

ピンチヒッターで呼ばれた大木さんは、打ち合わせのときにある提案をしたと言います。

三浦「番組スタッフに、大木さんがあることをリクエストされたんですよね」
大木「いやそうなんですよ、まあ今回ね、ピンチヒッターでやらせていただくということで、何かないかな~と思ったときに、やっぱ2015年なんで」
三浦「はい」
大木「僕の大好きな映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ、パート2の未来のシーンがね、2015年なんですよ
三浦「へぇ~」
大木「元々の設定が1985年なんで、30年後の2015年がいよいよ来たということで

そこで強力な助っ人として、映画評論家の松崎健夫さんをゲストに招いたというわけです。

松崎さんの専門的な話から大木さんのロケ地を巡った話まで、相当な盛り上がりを見せました。なかでも興味深かった話が、なぜ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の人気が日本で根強いのか?

松崎「我々は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を普通に観てるんですけど、実は海外の人たちはこういう物語が不得意なんです、タイムマシン物って」
大木「そうなんですか?」
松崎「タイムマシン物には傑作が多いって言われてるんですけど、それは、濃い映画ファンの人たちが面白いと思っているだけで、一般には理解されにくいって言われてるんです」
大木「へぇ~」
松崎「これはなぜかと言うと、過去に行って、何かをやり直すと未来が変わるって、我々はすぐ理解できるじゃないですか」
大木「はい」
松崎「これがね、理解できないんです、欧米の人たちは簡単には」
大木「どういうことなんですか? なんで?」
松崎「なぜ我々がこれを簡単に理解できるかっていうと、理由があるんです……『ドラえもん』なんです」
三浦「思った~!」
松崎「子供のころから、のび太が過去に行ってやり直すと未来どうなるって描いてるじゃないですか」
三浦「はいはい」
松崎「それによって我々、子供のころから刷り込まれてるんですよ、時間の感覚が」
大木「へぇ~!」

ここで、ユニバーサル・スタジオに訪れたときのことを思い出す大木さん。

大木「いやだからさ、ロスのね、ユニバーサル・スタジオも行ったのよ」
三浦「ええ」
大木「そしたらもうね、アトラクションも何もないのよ、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の」
松崎「ないんですか!?」
大木「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のアトラクションが残っているユニバーサルは、大阪だけなの、大阪のUSJだけ、世界で」
三浦「へぇ~」
大木「だからファンはもう日本に来る以外、あのアトラクションは味わえないの」
松崎「は~、そうなんですか」
大木「聞いたらなんか、日本だけやっぱ人気があるから残ってるんだって」

松崎さんの解説を受けて、大木さんが体験談を重ねる。見事なコンビネーションです。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』がにわかに注目を集めているのは、大木さんが先ほど触れたように、パート2で未来として描かれていた2015年に現実世界が追いついたからです。でもそれだけじゃないと語る松崎さん。この映画が公開された1985年から30年経過していることも重要な要素だと分析します。

映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を子供のころに観た世代が作り手になった

松崎「我々が今40代ぐらいになって、クリエイター、作り手になったときに、CMに80年代の曲を使いますとか、昔の好きだった俳優さんをゲストで使いますって」
大木「はい」
松崎「子供のころに観てた好きな物を、大人になって作り手になったときにできるのが、多分30年っていう」
(唸る大木)
松崎「ティーンエイジャーから40代になるのが大体30年っていうのがあるので」
三浦「ええ」
松崎「おそらくその、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』自体も30年前っていうことは、昔に、作り手の人たちが『コレ面白かった、よかった』っていう物を、今の人たちに伝えたいって気持ちもあったからこそ」

例として、海外ドラマの「CSI:科学捜査班」を紹介します。

松崎「最近ですね、『CSI:科学捜査班』ってドラマあるじゃないですか」
三浦「はい」
松崎「アレの……第14シーズンの第7話の『捜査官の鉄則』っていう話のなかで、リー・トンプソン(マイケル・J・フォックス演じるマーティの母親役)がゲストで出てたんですね」
大木「はい」
松崎「そのレギュラーで今出てるのがエリザベス・シューって人で、マーティの恋人役の人なんですよ」
三浦「ほぉ」
松崎「『ベストキッド』とかに出てるんですけど、その2人が共演してるんですね、ってことはこれも考え方によっては、その『CSI:科学捜査班』のスタッフが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が好きで、この2人を共演させようっていうのがあったのかなと思ったり」
大木「へぇ~」

松崎さんの話を聞いて私が真っ先に思い浮かべた例が、最初に薦めたオードリー若林さんの「妄想シアター」でした。

若林さんの妄想恋愛が終わると、渋谷公会堂は大歓声に包まれます。しばらく拍手が鳴り止みません。プロレスラーのように両手を広げて、それらを体全体で受け止める若林さん。ようやく落ち着いたところで、傍らで見守っていた山里さんが語りかけます。「こんなこと言っちゃなんだけど……先生、次回作いつですかね?」。

会場全体の気持ちを代弁した一言に、さらに拍手が起こりました。

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