笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

ライムスター宇多丸「大堀恵はロッキー」

金曜日の23時、BSジャパン(テレビ東京系)で放送中の「ギルガメッシュLIGHT」。

番組タイトルから分かるとおり、あの伝説の深夜番組「ギルガメッシュないと」の復活版で、実に14年ぶりとなります。

グラビアアイドルたちで結成したセクシーグループ「G9(仮)」が、体を張ったレポートで番組を盛り上げていますが、以前に比べるとエロさは抑え目。でも、温泉旅館に泊まるG9(仮)にイジリー岡田さんが寝起きドッキリを仕掛けたりと、良い意味でちょっと前のバラエティ番組を彷彿とさせ、毎週楽しく見ています。

もちろん新しい企画も楽しいモノが多く、特に「宇多丸師匠の三者面談」が私のお気に入り。宇多丸さんが相談役となり、G9(仮)メンバーとそのマネージャーの3人で、今後のタレントとしての方向性を話し合うという企画です。そういった裏側や戦略を見せるのは、今の時代のバラエティを象徴しているかもしれませんね。

AKB48劇場内カフェでアルバイトをしながらラストチャンスに賭けた大堀恵

2012年4月13日放送「ギルガメッシュLIGHT」(BSジャパン)

司会はイジリー岡田、大堀恵(元SDN48)。
コメンテーターはライムスター宇多丸、SILVA、たかはし智秋。

「宇多丸師匠の三者面談」のコーナーにやってきた大堀恵さん。ホリプロ所属の28歳。SDN48を先月卒業してピンになったばかりの彼女と、その横に女性マネージャーの今村さんが座り、いざ三者面談開始。

これまでの三者面談では、G9(仮)メンバーに厳しめの言葉をストレートにぶつけてきた宇多丸さん。しかし、大堀恵さんとの面談では絶賛の言葉しか出てきません。

宇多丸「僕はもう大堀さんにはね、尊敬の念しかないんですよ、リスペクトしかないんですよね」
大堀「いやいや……」
マネージャー「(謙遜しながら)そんな言葉を並べないで下さい」
宇多丸「いやいや、今日はね、ちょっと三者面談、この場の主眼として、観ているみなさんにも改めて大堀恵を尊敬してもらおうっていうか」

まずは大堀さんの今までの芸能活動を振り返ります。AKB48に入る前は、劇場内のカフェでアルバイトをしていたと言います。

宇多丸「えっと、AKB48に入られるきっかけって言うのはアレですよね、あの劇場の横のカフェ」
大堀「そうです、篠田麻里子ちゃんとかとみんなでカフェやって、えっと、1期のオーディションがもう終わってしまったので、じゃあ2期のオーディションを待つために、そのカフェでアルバイトっていう形で」
宇多丸「あ、2期までの間、ちょっと近くで働こうみたいな」
大堀「はい、そうです、なんで多分……3ヶ月ぐらいですかね」
宇多丸「あ~なるほど、その時点で6年前ってことは22歳?」
大堀「はい、実は私、家庭科の教員の免許を持ってまして、もう22歳なので家庭科の先生になるか、AKB48でお世話になるか
宇多丸「うん、AKB48の年齢制限みたいのって……」
大堀「22歳です」
宇多丸「あっ、もうギリなんですね、はいはい」
大堀「これラストかな?ラストチャンスかな~?ってなんとなく自分の中でウズウズしてて、で最後、もうコレで行こう!って書類審査で送って、『じゃあ来て下さい』って、それが始まりですよね」
宇多丸「なるほど、もうこの時点で俺グッときてますけどね」
大堀「え~、ふふふっ」

すでに気持ちが高まっている宇多丸さん。

宇多丸「やっぱその、なんて言うかな~、このままじゃ終われねえ!っていうか、最後の1回に賭けるみたいなのが」
大堀「う~ん」
宇多丸「僕ね、大堀さん、このあとのキャリアも含めて言わせてもらうとね、最初に言っちゃいますけどね、大堀さんはロッキーですよ
(大堀とマネージャー笑)
大堀「ロッキー!?」
宇多丸「うん、ロッキー、いい歳こいて、でなかなかボクサーとして芽が出ないで他の仕事やったりしてて、でもアポロ戦に賭けるわけですよね」
大堀「はい」
宇多丸「なんかその感じですよ」

2006年、ラストチャンスに賭けてAKB48に加入した大堀さん。しかし、それは試練の始まりでした。

スポットライトを浴びることのないAKB48時代

宇多丸「でも(AKB48)入って、そっからもまた大堀さん、そんなに楽な道のりじゃないわけじゃないですか」
大堀「いや、ふふっ、ホントにそうですよ、干支が一回り違う子が隣にいるわけですよ、ステージに」
(宇多丸笑)
大堀「私、イノシシ年のとき、『イノシシ年です、年女♪』って言ってたんですね、そしたら隣の子が『ワタシもイノシシ~♪』って言うんですよ」
宇多丸「はい」
大堀「そんときに、あ~これは勝負できないなって思ったんですよ」
宇多丸「やっぱり言うても、若い子のほうが……」
大堀「(感情を込めて)ホントにそうですよ!だって声援が違うんですもん、量が、ファンレターが最後みんなに配られるんですね」
宇多丸「はい」
大堀「1人ずつメンバーに、『あれ?なんで私だけ1枚なんだろう?みんな何で50枚もあるんだろう?』って、その差で、現実を見て」
宇多丸「はい」
大堀「最初正直、ずっと日の目を浴びてないところで、ステージがあったとしても光が当たってないんですね、で、マイクとかもほとんど持てない状態で」
宇多丸「マイク持てない!?」
大堀「ステージ捌けるじゃないですか、そのステージ捌けるとこの一番ギリギリに私いつも居るんです、だからカーテンがいっつもココ(顔のすぐ右側)にあるんですよ」
宇多丸「あ~」
大堀「もう悔しいんですよ!ココ(顔のすぐ横で右手を往復させながら)にカーテンがあることが……でも、どうしたら前に出れるんだろう?どうしたらセンターに行けるんだろう?一番スポットライトを浴びて、ファンに一番近いところに行けるんだろう?って考えてて、ずっと」

夢見る舞台で突きつけられた厳しい現実。そこにさらなる試練が襲い掛かります。

大堀めしべ企画「売り上げ1ヶ月で1万枚達成しなければAKB48から強制卒業」

2008年、大堀めしべ名義でソロデビュー。ところが、1ヶ月で1万枚CDを売らなければAKB48から強制卒業。そんな厳しい条件が秋元康さんから言い渡されたのです。

宇多丸「まあその、特にやっぱ大堀さんにはさ、企画が与えられてってのがあったじゃないですか」
大堀「(うなずきながら)ありましたね~」
宇多丸「大堀めしべ企画」
大堀「はい」
宇多丸「で、あの~1万枚ね、売らないと……もう(AKB48から)出てけってことですよね」
大堀「はい」

このときは精神的にかなり追い詰められた、と語る大堀さん。

宇多丸「もうただでさえ大変で、そのね、頑張ってるし」
大堀「(首を振りながら)いやいや……」
宇多丸「云々なのに、どうです?ああいうの」
大堀「こんなこと言うのもどうかと思いますけど、寝るじゃないですか、夜は眠れないんですよ」
(うなずく宇多丸)
大堀「もうラスト1週間とか、で、知らない間にパッと起きると、枕元に髪の毛がどっさりあるんですね」
宇多丸「はい……」
大堀「あれ!?って思うんですよ、自分でも、それでパッと気付くと自分で(髪を)むしってたりとか」
宇多丸「うわ~」

宇多丸さん、過呼吸の元祖は大堀恵であると力説。

過呼吸の元祖は大堀恵

大堀「ストレスですよね」
宇多丸「ね、それこそ元祖過呼吸だっていうね」
大堀「(苦笑いで)もう、本当に」
宇多丸「その、AKB48ドキュメンタリーで過呼吸話題になってますけど、アレもすごいけど、過呼吸と言えば大堀さんだろ!っていうね」
大堀「いや~、こんなこと……こんなモノをテレビで映しちゃっていいのか?って思ったんですけど、もう勝手になっちゃうんですよ」
宇多丸「うん」
大堀「でも結局最後は、1ヶ月ラスト、11月15日、今でも覚えてるんですけど、最後メンバーが駆けつけてくれて」
宇多丸「はいはい」
大堀「あのときはもう……震えましたね、手が」

CD発売イベントでストレスのあまり過呼吸に陥ったりしながらも、見事に売り上げ目標を達成。大堀さんはAKB48残留を決めました。

2010年、活躍の場をSDN48に移した大堀さん。そして、2012年3月31日のSDN48卒業コンサートをもって、AKB48時代から6年続いたグループ活動に終止符を打ち、ピンでの活動に。

この週の「宇多丸師匠の三者面談」はここで終了。内容が濃すぎて1回では全部収まらず、後半は次週へと持ち越されました。

最下層アイドル~あきらめなければ明日はある!~

最下層アイドル~あきらめなければ明日はある!~

SDN48を卒業してピンになった大堀恵の方向性

2012年4月20日放送「ギルガメッシュLIGHT」(BSジャパン)

宇多丸師匠の三者面談。前週の続きです。

SND48を卒業して間もない大堀恵さんに、ピンでの芸能活動について聞いていきます。

宇多丸「じゃあまず、ご本人の意向から聞いていくっていうか、大堀さんは今後どうなっていきたいみたいな、漠然とでも、すごく先でもいいですけどあります?コレがやりたいんだ!っていう」
大堀「女でいたいです」
宇多丸「ほぉ、と言うと?」
大堀「なんでしょう、女性らしさ、例えばセクシーな保健室の先生だったりとか、なんかちょっぴりエッチな……その~、保健室の先生ってなったときに『大堀がいいんじゃない?』みたいな」
宇多丸「うんうん」
大堀「使っていただけるような」
宇多丸「これ、でも、現状でもまんま行けますよね?別に」
大堀「ただ、そのセクシーだとかエロっていうのではなく、アンニュイって部分に行きたいんですよ、私は」
宇多丸「アンニュイって、こうちょっと憂鬱げというか、ちょっと憂いがある感じですか?」
大堀「はい、そのラインがすごく私は好きなんですよね」

独自の路線「アンニュイ」で行きたい願望に、マネージャーさんの考えは?

宇多丸「どうですか?このアンニュイって」
マネージャー「あの~、SDN48でグループの中にいるときには、居ないポジションで確立したセクシー路線っていうところだったんですけど、それが、そこの限られた空間ではなくて」
宇多丸「大海原ですよね」
マネージャー「もう外の、外野なわけですよ」
宇多丸「はい」
マネージャー「外に向けて何をするか?っていうと、あの~、三振もしちゃいけないし、ホームランも打っちゃいけないし、あなたは2塁打を打ち続けなさいって私は言ってるんですよ
宇多丸「また難しいことを、これ」
マネージャー「ふふっ、で、2塁打を打ち続けるとその人との相性、ピッチャーとバッターの相性だったりとか出てくれば、合う人を見つけられると、その中でいつかホームランが打てるんじゃないかと」
宇多丸「まあ、来る球を要は大堀さんなりの考えで、こう打ち返してれば、名打者として、イチロー的なというか」
大堀「はい」
宇多丸「安打が多いっていうかさ、確実に塁に出るみたいな」

ここで、宇多丸さんがエロキャラについて分析。

真面目な人がエロをやるから笑いになる

宇多丸「大堀さん、僕」
大堀「はい」
宇多丸「もちろん(大堀)めしべ企画でね、感動してとか、SDN48のファンだとか言いましたけど、ご一緒して合間見える素顔が……ちょっとね、この言い方語弊があるかもしれないけど、良い意味でイジリー(岡田)さんとかぶるんですよね
(ワイプのイジリー笑)
大堀「へぇ~」
宇多丸「つまり、エロいこと言ったり、もう実際すごく面白いエロギャグやったりしてるじゃないですか」
大堀「はい」
宇多丸「でもね(カメラ目線になって)良い人!真面目!」
(大堀とマネージャー笑)
宇多丸「真面目な人だからこれ出来るじゃないけど、イジリーさんなんかそうですけどね、で、真面目な人がこういうことやるから、なんか下ネタなんだけど下品な感じがしないっていうか」
大堀「はい」
宇多丸「嫌な感じがしないのは、『あっ、だからだ!この人柄があるからだ』みたいな」

最後に、このコーナーで毎回行っている宇多丸さんから相談者への提言。

夜の矢口真里的オールマイティプレイヤー

宇多丸「例えばバラエティだったら、僕ちょっと……これ的確か分かりませんけど」
大堀「はい」
宇多丸「なんつうかですね、まあ、下ネタもイケる矢口真里さん的な
大堀「あ~、うんうん」
宇多丸「矢口真里さん、すごくオールマイティプレイヤーだけど、ただ下ネタはイケない、大人の……まあ結婚したから分かりませんけど、そういうキャラじゃない」
大堀「うん」
宇多丸「なんか、夜の矢口真里みたいな、ふふふっ、矢口真里は夜出てないのかって話ですけど」
大堀「はははっ」
宇多丸「まあ、そういう……ようなあたりが、分かりやすくイメージしやすい気もしますけどね」

実際、マネージャーは「あなた課題はワイプ」と常々言っているんだそうです。で、徐々にオンエア時間が増えてきているのは、やっぱりAKB48やSDN48時代の経験が大きいと。

マネージャー「考えてはいるんだろうなっていうのが、徐々にオンエアをされる毎に出てきたりとか」
宇多丸「うん」
マネージャー「他の番組にお邪魔したときに、自分は邪魔にならない存在でいようとか、本当にその、名脇役になろうとする、引くところとかも段々分かってきたなっていうところは、やっぱりAKB48グループで自分の立ち位置を決めたっていう中で、学んできて、活きてんのかな~とは」
宇多丸「いや!もう言うこと無いじゃないですか、そこまで……で、努力もされてるし、その調子で努力をしていれば、絶対いずれは、それこそホームランじゃないですけど、いずれはまたビックリするような良いことも起こるし」
大堀「はい」

「大堀恵は歴戦の勇者である」と最後まで絶賛が止まらない宇多丸さん。

宇多丸「7年前、ここにね、こうなってるとかって想像するわけがない」
大堀「はい」
宇多丸「で、これって、G9(仮)の子たちに大堀さんを通じて伝えたい、知って欲しいのは、何が起こるか分かんないんだから諦めちゃダメだし、あの~、大堀さんの背中を見てですね、学ぶべきだというか、学んで欲しい」

「実るほど頭を垂れる稲穂かな」じゃないですが、いくつもの修羅場をくぐり抜けて、経験を積み重ねてきた人間は本当に謙虚。大堀恵さんを見ていると、そう思うのです。