笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

東京ダイナマイトによる円満退社のススメ

以前、『ウェブはバカと暇人のもの』の著書などで知られる中川淳一郎さんが、ツイッターでこんなつぶやきをしていました。

実際そういった状況になったことはないのですが、とても納得がいきました。なぜなら東京ダイナマイトがまさにこの通りに行動して事務所を移籍したからです。

芸能人にとっての事務所移籍や独立は、他の業界以上にタブーな面があるでしょう。しかしながら、東京ダイナマイトはオフィス北野から吉本興業(現・よしもとクリエイティブエージェンシー)に移籍しても干されませんでした。それもこれもオフィス北野を円満退社できたからに他なりません。

オフィス北野を円満退社したから干されなかった東京ダイナマイト

2013年12月31日放送「芸人報道」(日本テレビ)

司会は雨上がり決死隊(宮迫博之・蛍原徹)。
レギュラーはサバンナ高橋、フットボールアワー後藤、ピース綾部、カラテカ入江。
コメントゲストは近藤千尋。
企画ゲストは東京ダイナマイト(松田大輔・ハチミツ二郎)、スパローズ(森田悟・大和一孝)、ロッチのコカドケンタロウ。

「なぜ事務所を移籍したのかSP」という企画で来てもらった東京ダイナマイトに、レギュラー陣が移籍年表を参照しながら質問をぶつけていきます。

所属期間 事務所名 同期
1999年~2001年 トンパチ・プロ なし
2002年~2008年 オフィス北野 なし
2008年 オスカープロモーション TAIGA
2009年(数か月) フリー なし
2009年~ よしもとクリエイティブエージェンシー ベイビーギャング、スパイク

やはり最初に出てきた疑問はこれでした。「なぜ移籍しても干されなかったのか?」。

近藤「移籍するときとかに注意しなきゃいけないこと、例えば、干されたりするじゃないですか」
宮迫「そうやねんな~」
綾部「確かにね」
ハチミツ「まさに『円満』という言葉が重要で、契約を芸人ってしないじゃないですか」
入江「はい、見たことないです」
ハチミツ「辞めるときは(契約)あるんです」
近藤「そうなんだ」
ハチミツ「辞めるときの承諾書みたいのが必要になってくるんです、で、最後に『契約を解除する』って文章があったんですけど、ちょっととんちを使いまして、『契約を円満に解除する』って書けますか? って言ったら、通ったんです、オフィス北野に
高橋「あっ、オフィス北野辞めるときに」
ハチミツ「だからそれからは必ず、『契約を円満に解除する』ってのを持って、次のところに行く」
(感心するレギュラー陣)
ハチミツ「そうすると、次のところも安心するんです」

オフィス北野と言えば、ビートたけしさんの事務所です。移籍を申し出た東京ダイナマイトを咎めたりはしなかったのでしょうか。

ビートたけし「兄ちゃんら、ネタできるんだから劇場あるところで勝負してこい」

たけしさんに報告する前に、まずは同じ事務所の先輩であるガダルカナル・タカさんに相談した東京ダイナマイト。話を聞いたタカさんは、こう答えたそうです。「お前らネタもできるし、辞めていいよ」。しかも自分たちを車に乗せて、たけしさんがいる所までわざわざ連れて行ってくれたと言います。なんという優しさ。

部屋に入り、勇気を振り絞って事務所を辞めたい旨を伝えます。すると、たけしさんの口から意外な言葉が返ってきました。

ハチミツ「『遅いよ』と」
蛍原「ほぉ」
ハチミツ「ご挨拶が遅いのかなと思ったら、『うち辞めるの遅いよ』って」
(驚くレギュラー陣)
ハチミツ「で、『俺のところにいる奴は、俺のところにいなきゃダメな奴がいるんだよ、兄(あん)ちゃんら、ネタできるんだから劇場あるところで勝負してこい』って」
(感嘆するレギュラー陣)
入江「すごいっすね!」
ハチミツ「こっちは言葉がなくて、で、最後に部屋出たら、『おい!』って言われて、たけしさんあんまりおっきい声出さないんですけど」
高橋「うん」
ハチミツ「『おい!』って、最後に一発怒られるのかなと思ったら、『また一緒に番組やろうぜ』って」
(格好よさに震えるレギュラー陣)
松田「楽屋出た瞬間、もうブワーって涙出てきて」

なんという懐の深さでしょう。

でもちょっと待ってください。移籍年表を確認すると、オフィス北野を辞めたあとオスカーに移っています。「劇場あるところ」すなわち吉本ではありません。どうしてでしょうか。

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吉本に移籍するまでの期間、オスカーのお笑い部門立ち上げに協力した東京ダイナマイト

実は、東京ダイナマイトが事務所を辞めた時期に、ちょうどオスカーがお笑い部門を立ち上げました。オスカーといえば、上戸彩さんや武井咲さんなど今をときめく女優が多数在籍している事務所です。お笑いに関するノウハウがありません。そこで、お笑い部門の立ち上げを手伝ってほしいと依頼されたのだそうです。だからオスカーに在籍していた期間が少しだけあるのです。

宮迫「オスカーのタレントさんに会えるとかいう、そういうやましい考えではなかったってこと?」
松田「くふっ、まあそれも多少ありましたけど」
(スタジオ笑)
宮迫「あったんかい!」
綾部「オフィス北野さんには、事務所側には、『吉本に行く』とハッキリ言ってたんですか?」
松田「いや、言ってないです」
ハチミツ「(年表にあるオフィス北野を指しながら)ここも、オスカーもそうなんですけど、辞めるときはどこも決まってないほうがいいです、本当に」
入江「へぇ~」
高橋「でもほら、なんかこう……ようあるのが、裏では決まってるみたいなのあるやん」
宮迫「そうや」
高橋「ホンマは、オフィス北野におるときに、吉本に行くっていう裏では密談的なのはなかったの?」
ハチミツ「その密談が、逆に(移籍までの期間を)1年置いてもらった結果という」
高橋「ああ、(含み笑いをしながら)密談はあった……ということですね」
(スタジオ笑)
松田「そういう言い方すると、ものすごい語弊がありますよ」

そういった密談があったにせよ、オスカーも円満に退社。フリーの期間を数か月過ごしたのち、吉本に移籍。彼らが欲していた「劇場あるところで勝負できる」環境をようやく手に入れました。

そして迎えた2013年、東京ダイナマイトは「THE MANZAI」で決勝に進出します。吉本への移籍が間違いではなかったことを証明してみせました。と同時に、この決勝進出は彼らにとって特別な意味がありました。そう、この大会の最高顧問はビートたけしさんです。

「また一緒に番組やろうぜ」。このたけしさんとの約束を、約5年の月日を経て見事に果たしたのでした。