笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

内村光良の優しさの半分は南原清隆でできている

前回は「ウッチャンナンチャンの南原清隆による若手育成方法」について書きました。

若手への接し方が相方とは対照的だったので、内村光良が「優しさ」ならば南原清隆は「厳しさ」だと表現しました。ウンナンは車の両輪のごとく役割を分担しながら、若手たちを息の長いタレントへと成長させていったわけです。

ところで、ウンナンの2人が元々そういう性格の持ち主だったから、たまたま役割分担が上手くいったのでしょうか。もちろんそういった面が強く影響しているのは確かですが、それだけとは思えません。コンビを組んでから求められている役割を徐々に意識していった部分も、かなりある気がするのです。

そう推測するに至った根拠を示す前に、そもそもウンナンと共演した芸能人は「ウッチャンは優しくてナンチャンは厳しい」というイメージを持っているのでしょうか。

陣内智則と千秋が語るウッチャンナンチャンのイメージ

2016年10月21日放送「ヒルナンデス!」(日本テレビ)

司会は南原清隆。
アシスタントは水卜麻美。
スタジオゲストは内村光良。
金曜レギュラーは有吉弘行、陣内智則、他。

映画『金メダル男』の宣伝で、ウッチャンがスタジオに登場した記念すべき回になります。

白楽駅の六角橋商店街でロケをしているときに、加藤諒さんが陣内さんにこんな質問をぶつけていました。「内村さんと南原さん、どっち派ですか?」。陣内さんは「ヒルナンデス!」と「ネタパレ」でナンチャンと共演し、「痛快TVスカッとジャパン」でウッチャンと共演しています。

陣内「でもやっぱ、内村さんは本当もう『静』の人やんか」
加藤「そうですね」
陣内「なんかこう、本当、優しいお兄さんっていう感じ」
加藤「うん」
陣内「で、南原さんはちょっとこう『ヤンチャ』な感じ、みたいな」
加藤「ほぉ~、テレビで観ているとそういうイメージありますよね」

そして番組の後半になると、「3色ショッピング」のコーナーに千秋さんが登場。スタジオに「ウリナリ」で育ててもらったウッチャンがいるのを踏まえて、進行役の山里さんが質問します。

山里「千秋さんにとって、内村さんってどういう存在なんですか?」
千秋「ウッチャンは、ん~、『お父さん』みたいな」
山里「あ~、優しいですもんね」
千秋「優しい、寡黙で、いつも見守ってくれて」
山里「うん」
千秋「で、ナンチャンはどっちかというと『お母さん』みたいな、ガミガミうるさいから」
(スタジオ笑)

新旧の共演者が同じようなイメージを持っていることが分かりました。

さらに、このウンナンの関係性がよく表れているエピソードがあります。

グアムで酔った南原清隆に説教されるよゐこ

2006年2月9日放送「ダウンタウンDX」(日本テレビ)

司会はダウンタウン(浜田雅功・松本人志)。
ゲストは、よゐこ(濱口優・有野晋哉)、他。

ウンナンの家族やスタッフらと共にグアム旅行に行った際、食事の席でナンチャンが酔っ払ってしまい、よゐこに説教を始めたというエピソードが紹介されます。

濱口「凹みましたね~、楽しい夜が」
有野「まだ若手の頃で、実費では全然行けないときですね」
松本「はいはい」
濱口「だから、内村さんに出してもらって、行ってたんですよ」
浜田「なるほど」
濱口「あの~、段々酔っぱらってきはって、よう説教されるんですけど、そのときに、『お前がこんなグアムで遊んでる間に、極楽とんぼは今仕事してもっと売れてるぞ』みたいなことをガンガン言ってきて、『おさるにだって、もう抜かれてるぞ』」
松本「あはははっ」

すると、針のむしろに座る思いの濱口さんに救いの手が差し伸べられます。ウッチャンがやって来て、部屋のカギを渡しながらささやいたそうです。「俺の部屋に逃げてろ」と。

濱口「ウッチャ~ン!(ハートマーク)ですよ」
(スタジオ笑)
松本「その話だけでいうと、(自分に手を当てて)ウッチャン(浜田の肩に手を乗せて)ナンチャン」
浜田「なんでやねん!」
(スタジオ笑)
松本「(自分を指して)きよし(浜田を指して)やすし」
浜田「違うわ!」
(スタジオ笑)

横山やすしキャラを押し付け合うダウンタウン。

濱口「すごい親身になってくれるんですよ、南原さんは、いろいろ僕らにアドバイスくれるんですけど
松本「あ~、そう、ナンチャン、ちょっと酒癖悪いとこあるらしいね、ちょっとね」
濱口「はい」

よゐこは別の番組で「ナンチャンと出会って生まれ変わった」と話していて、感謝の気持ちを示しています。そして面白いことに千秋さんは、「ウンナンで心が広いのはどっち?」という質問に対して「ナンチャン」と答えているのです。

「ウンナンで心が広いのはどっち?」という質問に南原清隆を選んだ千秋

2013年11月17日放送「NGスクール」(テレビ朝日)

司会は今田耕司。
解答者は宮川大輔、千秋、ネプチューン堀内、チュートリアル徳井。

「NG無しよ大なり小なりクイズ」という究極の選択を迫るクイズの解答者に、千秋さんが指名されていました。今田さんが「心が広いのはどっち?」と問題を読み上げてから、ディスプレイに「内村光良」と「南原清隆」の名前を書き込んでいきます。

千秋「(内村の文字に気付いて)師匠じゃん、(さらに南原の文字を見て)うわ~! え~」
今田「(名前を書き終えて)これ……なんか俺、怪我してないか?」
(スタジオ笑)
千秋「なんでこの2人にするんですか!?」

タイムリミットとなって選択を迫られた千秋さんは、数秒の沈黙のあとに「ナンチャン」と答えました。

今田「ちなみに、南原さんを選んだ理由っていうのは?」
千秋「ナンチャンはすごいいっぱい毎日怒られて、いっぱい泣かされたんですけど」
今田「はい」
千秋「言ってたアドバイスが、全部、今の私に役立つことがいっぱいなんですよ
今田「ほぉ~」

具体的なアドバイスをいくつか挙げながら、ナンチャンを選んだ理由を今田さんに伝える千秋さん。

今田「なるほど、結局、厳しかったけども全部自分の役に立ってると」
千秋「はい」
今田「内村さんは?」
千秋「ウッチャンは全然、その怒鳴られたとき以外怒らないんですけど」
今田「うん」
千秋「あんまり私のこと考えてくれてないから、くふっ、『お前は好きにしろ』って言う、そのときは怒られないからいいんだけど」
今田「『あ~、この人優しい』ってなったけど、今考えたら……」
千秋「なんも為になってない」
(スタジオ笑)
千秋「違うの! 間違えた」
(スタジオ笑)

ナンチャンのありがたみは、あとになってから気付くものなのかもしれません。内さま風に言うなら「後に評価される男」。

内村は優しいから俺が嫌われ役を買って出て言うべきことは言っていこう、南原があえて厳しく指導しているみたいだから俺はフォロー役に徹しよう……おそらくこんな感じで、相方の行動を観察しながら徐々に自分の立ち位置を調整していったのではないでしょうか。その結果、ウッチャンはより優しく、ナンチャンはより厳しくなっていったように思うのです。「内村てらす」でのウッチャンの発言を聞くと。

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南原清隆に遠慮して「格闘技好き」な面を隠していた内村光良

2017年2月16日放送「内村てらす」(日本テレビ)

司会は内村光良。
アシスタントは小熊美香。
ゲストはレイザーラモン(HG・RG)、ケンドーコバヤシ、品川祐。

2人とも大学時代はプロレス同好会に在籍していたレイザーラモン。隣にケンドーコバヤシさんもいるので、自然と当時のプロレス話で盛り上がります。すると聞き役に回っていたウッチャンに小熊アナが尋ねました。

小熊「内村さんは、プロレス観たりとかは?」
内村「してましたよ、白黒のテレビで、馬場・猪木(ジャイアント馬場vsアントニオ猪木)を観てましたね」
ケンドーコバヤシ(以下ケンコバ)「あ~、日本プロレス」
HG「一番いい時代と言いますか」

ウンナンが若手の頃は、バラエティ番組でプロレスラーと戦う企画もよくやっていました。

内村「20代かなんかのバラエティで、アジャコングさんにブレーンバスターされて、着地に失敗してちょっと捻挫したっていう」
ケンコバ「うわ~」
内村「名誉の負傷をしたという」」
ケンコバ「そのときは嬉しかったんですか?」
内村「嬉しかった」
ケンコバ「あははははっ」
内村「俺ね、だからね、南原が格闘技好きだからあんまり言ってなかったけど、本当は大好き
(スタジオ笑)

その一方で「映画好き」な面をあまり表に出さないナンチャン。過去に「ウンナンタイム」というラジオで、映画について熱く語る姿を見たこともありますが、おそらくウッチャンの邪魔をしないよう配慮しているのでしょう。

あと、相方に気を使っているのは趣味だけではありません。

内村光良がスーツなのは南原清隆がラフだから

2017年7月25日放送「内村てらす」(日本テレビ)

司会は内村光良。
アシスタントは中島芽生。
ゲストは銀シャリ(鰻和弘・橋本直)、千鳥(大悟・ノブ)、バカリズム、平成ノブシコブシ徳井、他。

銀シャリは東京に来てからお揃いのチェックのシャツを着始めたそうで、今回もその衣装で登場しました。ところがこれが不評で、皆から「なぜ青ジャケットではないのか?」と疑問を持たれてしまいます。

橋本さん曰く「東京はポップじゃないと受け入れてもらえないから」。しかしその理屈に対して「ポップ=チェック」という発想自体がダサいとバカリズムが一刀両断。

バカリズム「僕、ピンになったときからずっと、基本スーツなんです」
ノブ「あ~、そうや」
バカリズム「これ理由があって、見た目をあまり個性的にすると、どこ行ってもまずそこイジりから始まって、もうかったるいんですよ」
ノブ「なるほど」
バカリズム「コンビ時代は全身黒だったんですね、これも、宣材写真って何年も使うから、変に流行を入れてしまうと、2~3年もすりゃもうダサく見えちゃう、一番怖かったのはコンビがダサく見えることだったんです」
大悟「(銀シャリを指さして)ダッサ!」
(スタジオ笑)
鰻「ちょっと待ってくださいよ」

バカリズムの理論に、ぐうの音も出ない銀シャリ。

内村「俺も大体スーツだよね
バカリズム「そうですね」
内村「なんでそうなったかって言うと、南原がラフだったんだよ
(スタジオ笑)
ノブ「あっ、じゃあ逆を?」
バカリズム「バランスを取んなきゃいけないんですね」
内村「でも、たまには短パンをはきたかった……」
(スタジオ笑)

お笑い芸人という人種は、他人とカブるのを避けたがる傾向があります。それが一番色濃く出るのが、もしかしたら相方という存在に対してなのかもしれません。