笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

「人志松本のすべらない話」で結果を残すには最後にオチをつけることが重要

「人志松本のすべらない話」で求められるものとは何でしょうか?

もちろん「すべらない話」という武器です。しかし、それだけでは足りません。ダウンタウンの松本人志が座長であることを理解した上で、戦う必要があります。とりわけ吉本所属ではない関東の芸人ならば。

「人志松本のすべらない話」は松本人志の楽屋にお邪魔している感覚

2015年8月1日放送「東京ポッド許可局」(TBSラジオ)

パーソナリティはマキタスポーツ、プチ鹿島、サンキュータツオ。
テーマは「すべらない話論」。

録画した「人志松本のすべらない話」を観たマキタスポーツ(以下、マキタ)さんは、この番組に出て笑いを取りたいと率直に語ります。芸人として当然の衝動でしょう。そしてマキタさんならば、その技術は十分に備わっています。ところが、

マキタ「なんか、自分がそこに行ったときに、『大丈夫か? 俺』みたいな感じもすごくしたのね」

その根拠として、過去に最優秀賞(MVS)を獲得しているガダルカナル・タカさんを例に挙げます。マキタさんと同じ事務所で、関東で活躍している芸人です。

マキタ「あそこで、こっち側の東京の言葉、標準語を使いながら面白い話をしている人が、普段あんなに面白い人が『すべらない話』っていう場に行くと、面白い話なんだけど、何か見劣りがするっていうのはどうしてなんだろう?」
プチ鹿島「アウェイ感ですか?」

「人志松本のすべらない話」は、宮川大輔さんや千原ジュニアさんがプライベートで話すエピソードが面白いので、それならば発表する場を作ってやろうとなってできた番組です。

マキタ「あそこの番組には象徴的に松本人志さんがいるわけじゃないですか」
プチ鹿島「うん」
マキタ「松本さんを中心としたひとつの座、まるでそれが楽屋裏、ローカルな楽屋、そこに、関東の芸人とかがお邪魔してるっていう感じでいうと、確かにアウェイ感はあるかもしれない」

でも、たとえそうであったとしても、松本さんの番組に出て笑いを取りたいと改めて語るマキタさん。

するとプチ鹿島さんが、別の視点を与えます。吉本の楽屋的な「場の空気」だけでなく、そもそも「すべらない話」に対する捉え方が関東と関西では異なるのではないかと。

「すべらない話」にはオチが必要

プチ鹿島「あと、もっと原点で言うと、オチって必要なんだなって」
(スタジオ笑)
プチ鹿島「いや本当にあの~、やっぱたけし(ビートたけし)さんとか見て育ったから、『それってナニナニじゃないんだから』で終わりじゃないですか」
マキタ「うん」
プチ鹿島「僕はそれが好きだったですから、むしろ短ければ短いほど……こないだ見立ての話をしましたけれども、それで育ってきたもんですから、まずあんなに長々と話をしていいっていうのが新鮮だった」

吉本の楽屋的な場であればお互いの関係が濃密だし、かつ、最後には必ずオチが待っている。だから長々と「すべらない話」をしても許されるのでしょう。

最後はサンキュータツオさんが、「笑福亭鶴瓶の変化」「笑いの手段と目的化」「オチと照れ」など様々な論点から関東と関西の違いを解説。もう目から鱗が落ちまくりでした。

そして1年後、ある人物の体験談が、この「すべらない話論」がいかに的確であったかを偶然にも証明することになります。その人物とは、古舘伊知郎さんです。

「人志松本のすべらない話」は団体戦でもある

2016年10月21日放送「古舘伊知郎のオールナイトニッポンGOLD」(ニッポン放送)

パーソナリティーは古舘伊知郎。

「人志松本のすべらない話」(2016年7月9日放送)に出演したときの話になるのですが、この大会はかなり異質だったと言えるでしょう。なぜなら初参戦が東京育ちの古舘さんのみで、あとは全員が経験豊富な関西の吉本芸人だったからです。さらに古舘さんは芸人ではありません。これは他流試合だと思って気軽に構えていました。

ところが、いざ収録が始まったら背筋が寒くなったそうです。

古舘「やっぱひとつは、これだった、団体戦になるんだね、あれって、俺は個人競技だと思ってたの、1対1で、すべるかすべらないかを勝負して、『よし決まった!』『面白かった!』『すべらない、合格!』みたいな感じで、みんな緊張感を持って面白い話を持ち寄ってると単純に思ってた、たまにはさ、オチが決まんない芸人さんだって、実力はあるんだけど、決まんないときって若手とかでいるじゃん?」
(作家うなずく)
古舘「そうなった瞬間に個人戦だったものが! いきなり15人のラグビーみたいに、いきなり仲間になって団体戦になるのね! 『なんやそのオチは!』『おかしいやないか!』、うわーってみんなでスクラムを組むみたいな感じで」

吉本の芸人たちがスクラムを組んでトライする(話にオチをつける)光景を、古舘さんはただ見守ることしかできませんでした。

古舘「みんなでフォローし合うの、そんとき団体戦だと思ったけど時すでに遅いよ、俺が団体戦に仲間で一緒になってラグビー15人制に入っていけないじゃん、だって太平洋でひとりぼっちだもん、アナウンサーだもん」
(作家「うん」)
古舘「ね、そこで『なんやお前は!』って、自分の弟子でも後輩でもないのに言えないでしょ、俺は兄さんじゃないし」

この番組特有のアウェイ感を分かりやすい形で味わった古舘さんは、さらに気付いた点があると言って話を続けます。

古舘「それともうひとつは、大オチ(最後のオチ)が、オチなんだな」
(作家うなずく)
古舘「だから俺はダーッとしゃべるじゃない、こうやって、で、しゃべって色々と面白いことも言ってるつもりなんだよ、でも基本的に情景描写とか実況中継だから、『~で、こういうので、こうです』で終わっちゃう、そうするとどこでウケていいのか分かんないんだよ、松ちゃん以下、だからそういうので『えっ、古舘さん、そこで急に終わり?』とか言われちゃう、『ええ、以上現場からでした』みたいなね」
(作家笑)

それでも自分たちのスタイルと違う古舘さんの話術に松本さんは感心していて、収録後の打ち上げで「毛穴にシューッと浸透していくしゃべり」と評価してくれたそうです。そんな松本さんの気配りに気持ちよくなって、気が付けば3次会まで参加していた古舘さん。

人志松本のすべらない話 30回記念大会 完全版 [DVD]

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「人志松本のすべらない話」が「すべらない話」という武器だけでは苦戦を強いられるのと同様に、「IPPONグランプリ」もまた、「大喜利」という武器だけでは結果を残すのが難しいようです。

「IPPONグランプリ」の回答者はテレビに出る職業をこなしながら大喜利をしている

2013年4月28日放送「ボクらの時代」(フジテレビ)

出演者はバカリズム、小林賢太郎、いとうせいこう。

テレビの露出が少ないラーメンズの小林さんに、バカリズムさんが尋ねます。

バカリズム「興味ないですか? テレビに出ることは」
小林「あ~、そんなことない、そんなことない」

拒否しているわけではなくて、声が掛かれば出る気持ちはあると答える小林さん。

小林「それこそ『IPPONグランプリ』とかね」
いとう「うん」
小林「『出ないんですか?』なんて言われることもあるんだけども」
いとう「大喜利だからね」
小林「僕も大喜利大好きですし、ただし、あそこに出ている人たちっていうのは大喜利もやってるし、テレビに出るっていう職業もやってるじゃないですか、同時に」
いとう「なるほど、振る舞い方があるのね」
小林「そうなんですよね、それはまたそれ、別のプロフェッショナルがいるってことって、観客には分かりづらかったりするんですよね、でも、僕らにしてみればそれは違う職業であって」
いとう「うん」
小林「だから僕もそこに敬意を表して、僕はもう、ただテレビの前で楽しんでる」

テレビの出演がほとんどないにもかかわらず、テレビの本質を見抜いている小林賢太郎。やはり只者ではありません。