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笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

松尾諭のデビューのきっかけは青山でモデル事務所にスカウトされて

お笑い以外

2016年の夏といえば、やはり映画『シン・ゴジラ』でしょう。

私は映画館で3回も観ました。いや、3回しか観てないと言うべきか。とにかくその基準が分からなくなってしまうぐらい、夢中にさせてくれる特撮映画でした。総勢328名のキャスト陣。この中から一番好きな人物を選ぶならば、迷うことなく松尾諭(まつおさとる)さんが演じた泉修一政調副会長を挙げます。

主人公の矢口(長谷川博己)が電話を掛けると、料亭にいた泉に繋がる。いかにも政治家らしい場所で電話を取った泉は、挨拶代りに矢口の出世を喜ぶ。しかし矢口は出世に興味がない。この泉の登場シーンは、両者が異なるタイプの政治家であることが伝わってきました。泉は出世、矢口は日本の未来。きっと矢口の足を引っ張る存在になるのだろう。そう予想していたのですが……。

松尾諭さんに注目する理由は、泉修一という役柄だけではありません。以前にバラエティ番組で役者になるきっかけを語っていたのですが、その内容がにわかには信じがたいものだったのです。このときの印象もあって、他のキャストに比べて思い入れが強いのでしょう。

ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ

ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ

松尾諭の運命を変えた飛行機のチケット

2015年7月4日放送のBS朝日「極上空間」。

ゲストは武田梨奈、松尾諭。

BS朝日で放送している30分番組で、スズキの車を運転しながらお薦めスポットを巡ります。公開を間近に控えた映画『進撃の巨人』で共演している2人は、その宣伝も兼ねての出演でした。

24歳のときに役者を目指して兵庫県から上京してきた松尾さん。劇団のオーディションが2月に集中していることを知り、それに間に合うよう1月下旬に東京へ引っ越してきました。ところが、ここで大きなミスを犯してしまいます。松尾さんはオーディションに必要な願書を出していなかったのです。劇団に電話すれば受けられると考えていました。しかも願書の締め切りは昨年の12月。

松尾「だから、1年待たなアカンかったわけ」
武田「え~、上京してきたのにですか?」
松尾「そう、どこの劇団も」
武田「うわ~」
松尾「『マジかっ!』ってなって、まいったな……と思ってた矢先に、家の近くで封筒を拾ったのよ」

中身を確認したら、飛行機のチケットでした。松尾さんは近くの交番に届けます。すると3日後、落とし主の「おばちゃん」から連絡が来て、お礼がしたいと言ってきました。

松尾「表参道のスパイラルの喫茶店で待ち合わせして」
武田「はい」
松尾「で、ビール券3000円分もらって、ちょっと安いなとは思ってんけど」
(武田笑)
松尾「いきなりそれでビール券もらいました、(手を振って)じゃあ、っていうわけにはいかへんから、ちょっと世間話してて」

松尾さんが、そのときの会話を再現します。

おばちゃん「関西の方なんですか?」
松尾「そうなんです、最近上京してきたばっかりで」
おばちゃん「何しに、上京してこられたんですか?」
松尾「ちょっと、あの~、役者になりたくて……」
おばちゃん「あっ、そうなんですか……私、プロダクションの社長やってるんですよ」

はっと息を呑む武田さん。

武田「えっ……今の?」
松尾「今の、そう」
武田「ええ!」
松尾「まあ、今は会長になったけどね」
武田「……そんな偶然あります?」
松尾「ない、ふふっ、しかもうちの事務所、FMG(エフ・エム・ジー)という事務所やねんけど、ファッション・モデル・グループの略なんよ」
武田「あはははっ!」

1953年に日本初のモデル事務所として設立され、ミス・ユニバースも輩出しているFMG。飛行機のチケットの落とし主は、なんとその「老舗モデル事務所の社長」だったのです。

松尾「言うたら、モデル事務所に青山でスカウトされたわけよ、俺は」
(武田笑)

こうして松尾さんの役者人生が始まりました。もちろん最初は仕事もなく、下積み生活を余儀なくされます。

井川遥「遥かに愛しい君のこと」

井川遥「遥かに愛しい君のこと」

下積み時代に井川遥の付き人をしていた松尾諭

ちょうどこの頃、同じ事務所の井川遥さんが大ブレイクしていました。電車やタクシーでの移動が困難となり、専属の運転手兼付き人が必要だという判断に至ります。このとき白羽の矢が立ったのが、松尾さんでした。なぜならモデル事務所のマネージャーは全員女性で、誰も車の免許を持っていなかったからです。

松尾は免許を持っている。高校時代にラグビーをやっていたからボディガードとしても使えそうだ。時間はたくさんある。そしてなによりも、井川遥と2人っきりで街中を歩いても疑われることはない。事務所にとって松尾さん以上の適任者はいませんでした。

武田「(週刊誌に)撮られることはないだろうと」
松尾「一切なかったね」
武田「ふふっ、そうなんですか?」
松尾「だってもう、代官山とかさ、伊勢丹とか、『ちょっと松ちゃん、買い物行くから付いてきて』みたいな感じで」
武田「はいはい」
松尾「で、2人で買い物行って、(井川遥が服を体に合わせて)『これとか、どうかな?』みたいな、『あ~、いいんじゃないですか』みたいな、くふっ、これ、ちょっとデートみたいやなぁ、と」
武田「怪しまれちゃう」
松尾「ヤバい、井川遥とデートしてるみたいになってるな……と思って、撮られたらどうしようかな~、ってちょっと内心ドキドキしてたけど、一切なかった!」
武田「あはははっ」

井川遥さんといえば、癒し系です。でもそれはテレビの画面から伝わってくる情報によって作られたイメージであり、実像ではありません。ところが付き人として近くにいた松尾さんは、実像も癒し系そのものだったと打ち明けます。

ある日、松尾さんは寝坊をしてしまいました。社長に謝罪の連絡を入れて、急いで現場へ向かいます。そして先に到着している井川遥さんの元へ駆け寄り、遅刻したことを詫びます。

松尾「『すみません』って井川さんに言ったら、『ああ、大丈夫、大丈夫』つって」
武田「はい」
松尾「で、しばらくして、『松ちゃん、社長に(遅刻のこと)言っちゃったの?』つって、『はい』って言ったら、『言わなくていいのに、怒られたでしょ?』って」
武田「へぇ~、優しい」
松尾「その瞬間にもう、一生ついて行こうと思った」

そんな井川遥さんは、松尾さんのことを当時こんな風に表現していたそうです。
「松ちゃんは、癒し系だね」。

またまた武田梨奈にいいもんもらってきました。

松尾 諭さん(@satoru_matsuo)が投稿した写真 -