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笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

バイきんぐのコンビ結成はドラマティック

「チックじゃない、そんなもんじゃない、ドラマティック」。
バイきんぐ西村瑞樹は、相方である小峠英二との出会いを「ドラマティック」と表現しました。

オードリー春日とバイきんぐ西村はキャンプ仲間

2016年4月23日放送の「オードリーのオールナイトニッポン」。

パーソナリティーはオードリー(若林正恭・春日俊彰)。
ゲストはウーマンラッシュアワー中川パラダイス、バイきんぐ西村瑞樹。

3週間前(2016年4月2日)の放送で、春日さんが語った「芸人仲間とキャンプに行った話」。これがとても盛り上がったので、今回はその延長戦をすべく「芸人仲間」がスタジオに集結しました。偶然なのか必然なのか、オードリー春日、ウーマン中川、バイきんぐ西村、3人ともネタを書かないほうの芸人です。

本題のキャンプトークに移る前に、これまで接点がほとんどなかった西村さんの人物像に迫ります。キャンプ場での振る舞いを春日さんから聞いて以来、すっかり西村さんの虜になってしまった若林さん。

若林「ちなみに小峠さんと、どういう出会いでコンビ組んだんですか?」
西村「これがね~、なかなかドラマティックな」
(発音の仕方にスタジオ笑)
西村「出会いがありまして」
春日「チックじゃないですね? ドラマティックですね」
西村「チックじゃない、そんなもんじゃない、ドラマティック」
(スタジオ笑)

その根拠を西村さんが簡潔に説明します。
相方の小峠は1歳年上だけど、高校を留年している。だから高校3年生のときは同学年。西村は兵庫、小峠は福岡の高校に通っていた。
2人は、高3の夏休みを利用して合宿免許に参加する。すると申し込んだ合宿先が、たまたま同じ大分の自動車教習所だった。ここで初対面を果たすのだが、お互い言葉を交わすこともなく、数週間の共同生活で顔を覚えた程度のまま、それぞれ兵庫と福岡に戻っていく。
それから半年が経過し、高校卒業を目前に控えた2月。芸人を志す西村が大阪NSC(吉本の芸人養成所)の面接試験を受けに行くと、会場で見覚えのある顔を見つける。「あの合宿免許のときにいたヤツだ」。そう、小峠だった。

西村「そっからもう、これは運命だと思って(コンビを)組みましたね」
若林「へぇ~!」
春日「ドラマティック」
西村「でしょ!」

全てを語れば長くなる。そうすると企画の邪魔をしてしまう。だから適度な長さに編集して伝えなければならない。それを瞬時に判断してやってのけた西村さんは、やはり只者ではありません。
とはいえ、ダイジェストで済ますには余りにも勿体ない「バイきんぐのコンビ結成の経緯」。そぎ落とされたエピソードを知れば、さらにドラマティック度が増すはずです。

単独ライブ「エース」

単独ライブ「エース」

まずは、小峠さんの高校留年。一体何があったのでしょうか。

お笑い芸人を目指して高校を辞めるバイきんぐ小峠

2013年6月29日放送の「人志松本のすべらない話」。

司会はダウンタウン松本人志。

その名の通り「すべらない話」をひたすら披露していく単純かつストイックなトーク番組。ここで、バイきんぐ小峠さんが高校を留年した理由を明かしていました。

小峠「僕が、高校2年のときの話なんですけども」
松本「はいはい」
小峠「僕はあの~、本当に昔からお笑いがやりたくて、で、高2のころに、今すぐお笑いをやりたいと、もう学校になんか行きたくない」

小峠さんは、担任のT先生と親に告げます。今すぐ芸人になりたいから福岡の高校を辞めて大阪に行くと。もちろんそんな不可解な行動を先生と親が許すわけありません。しかしいくら説得しても小峠さんの決意が変わらないことを悟った先生は、妥協案として休学を薦めます。

小峠「で、先生がおっしゃってくれたのが、『小峠、じゃあ辞めるんじゃなくて、高校を休学にしとけ』と、『とりあえず高校に籍を置いて、もしそのお笑い芸人がダメだったときに戻って来い』と」

先生の提案に親もしぶしぶ納得。小峠さんは高校を休学して大阪に旅立ちます。

さて、この話には裏があります。実は担任のT先生が学校側と戦ってくれたおかげで、休学が認められていたのです。

バイきんぐ小峠のために戦ってくれた担任のT先生

T先生|バイきんぐ小峠の「見ル前ニ跳べ」」から。

休学を打診したときの学校側の反応は、次のとおり。

「お笑いをやる為に休学?そしてダメだった場合復学?そんな都合のいい話許される訳があるまい!休学なんて断固として認めん!学校に来ないのであれば退学だ!」

にべもなく却下されます。でも先生はあきらめませんでした。

「お願いします!小峠を休学という事にしてください!籍だけ置いていてください!お願いします!」

学校側に何度も頭を下げていた事実を、福岡に戻って復学したときに知った小峠さん。

余談ですが、引用した小峠さんのブログをぜひ最後まで読んでみてください。卒業式後のやりとりに私は思わずグッときてしまいました。

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次に、西村さんとの再会。
小峠さんが大阪NSCの試験会場で合宿免許のときに一緒だった西村さんを発見するわけですが、削られたエピソードを聞くと、想像以上に奇跡的な再会だったことが分かります。

60分の1の確率で再会を果たした小峠と西村

2012年10月1日放送の「バイきんぐのラジカントロプス2.0」。

パーソナリティはバイきんぐ(小峠英二・西村瑞樹)。
聞き手は放送作家の植竹公和。

バイきんぐが「キングオブコント」で優勝した直後に放送されたラジオ番組になります。栄光をつかむまでの苦節16年を振り返るなかで、「コンビ結成の経緯」についても触れていました。
2人が高校3年生のときに受験した大阪NSC。この年の入学希望者は、なんと600名。試験は土日の2日間に分けて行われ、10名ずつに区切っての集団面接だったそうです。

小峠「そんだけ細分化されてるのに、その10人のうちの2人が、僕とコイツ(西村)やったんですよ」
植竹「へぇ~」
西村「僕、そのとき遅刻してしまいまして、本当は10分前のやつ(面接)だったんですけど、『1個あとにして下さい』って言われて、で、一緒になったんです」

つまり60分の1の確率を乗り越えての再会劇だったわけです。

最後は、コンビを結成した場面。
奇跡的な再会に運命を感じたにもかかわらず、2人はその場でコンビを組みませんでした。それどころか、お互い連絡先を交換せずに別れてしまったのです。なぜでしょうか。

4月1日午後7時、大阪の戎橋で会おう

2月に行われた大阪NSCの面接試験。半年ぶりの再会を喜んだあと、小峠さんが西村さんに提案します。

小峠「4月1日の午後7時に、大阪の戎橋(えびすばし)、あの阪神が優勝したときに皆が飛び込む橋なんですけど」
植竹「あ~、あそこ、はい」
小峠「『あそこの真ん中で待ち合わせをしよう』と言って、僕たちは電話番号を、連絡先を交換せずにその場を別れたんです」
植竹「ラブストーリーか!? それ」
(スタジオ笑)
西村「ドラマティックな方向に持っていくんですよ」
植竹「作ってるだろ?」
小峠「いえいえ、これは本当に、これはでも、あえてそっちのほうが格好いいんじゃないかと思って」

そうやってコンビを組んだほうが格好いいし面白いと話す小峠さんも変わっていると思いますが、それを素直に受け入れる西村さんもなかなかです。バイきんぐの関係性はこのときすでに決まっていた、と考えるのは無理があるでしょうか。

福岡に戻って高校を卒業し、再び大阪へ。約束の時間に戎橋の真ん中で待つ小峠さん。結論から言うと、西村さんは姿を見せませんでした。おそらく別の進路を選んだのだろうと小峠さんは解釈して、戎橋を後にします。

バイきんぐ西村の父親が行きつけにしているスナックのママ暗躍

数日後、NSCの授業が始まります。当時は名前順で3つのクラスに分けて授業を行なっていました。そして毎月1回、3つのクラス全員が集まる合同授業がありました。
入学してから1か月が経過した5月初旬、最初の合同授業で事件が起きます。小峠さんが、別クラスの生徒のなかから見覚えのある顔を見つけるのです。そう、西村さんでした。

小峠「授業終わったあとに、僕が話しかけて、コイツまたびっくりして『おおっ!』となって、『俺、あの日にずっと待ってたよ、なんで来えへんかったん?』って聞いたら」
西村「僕は、『NSCを落ちたんですよ』」

ではなぜ、今こうしてNSCの授業を受けているのか。

西村「(親父の行きつけの)スナックのママが、吉本で演歌歌手をされてる方で、で、親父が『うちの息子がこれこれこうで、NSC落ちたんだよ』って話をしたら」
植竹「うん」
西村「『いや、入れるぐらい全然口きいてあげるよ』と」
植竹「あはははっ」
西村「ということで、僕は養成所(NSC)を裏口入学で、入れさせていただいたという経緯がありまして」

だとしても、待ち合わせ場所に来なかった理由になっていません。

西村「で、その演歌歌手の方に、ご挨拶をするということで、会いに行ったのがちょうど約束をした、4月1日の7時だったんですね」
植竹「あ~、そっかそっか」
西村「まあ(小峠の)連絡先も聞いてないし、それをちょっと伝えることもできなくて」
植竹「なるほど」
西村「で、行けなかったっていう」
植竹「へぇ~」
西村「でも、これを僕が言うと、『いや、嘘だ』と、『会う時間ぐらいずらせるやろ』つって」
植竹「ははははっ」
小峠「いや、できると思いません!?」
植竹「まあね、そうだよね」
小峠「はい、いまだに信じてないですからね、そんなわけないと思ってますから、これに関しては」
西村「それはもうグレーゾーンなんですけども」

合同授業のあと、西村さんにまだ相方がいないことを確認した小峠さんは、小細工せずに言いました。「じゃあ組もうや」と。