笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

不自由さが楽しいマキタスポーツとオードリー若林

マキタスポーツさんは以前、スケボーの面白さに気付いた話をされていました。するとその翌週、オードリー若林さんがゴルフの魅力を知ったと語っていました。

面白いことに両者がハマった理由が同じでして、それは「不自由さ」だと言うのです。

いけ好かないと思っていたスケボーにハマるマキタスポーツ

2015年5月30日放送「東京ポッド許可局」(TBSラジオ)

パーソナリティはマキタスポーツ、プチ鹿島、サンキュータツオ。
テーマはスケボー論。

お台場で仕事を終えたマキタスポーツさんは家族と合流し、近くのダイバーシティ東京へ向かいます。屋上でタコスを食べて一家団欒のひとときを過ごしていたら、脇にスケボーパークが。そうなれば、やってみたくなるのが子供というものです。

マキタスポーツ(以下マキタ)「皆がこう滑ってるの、したら、子供が当然『やりたい』って言うじゃない」
サンキュータツオ(以下タツオ)「あ~」
マキタ「だけどそんときにさ、俺、なんて言うのかなぁ、自分がやったことないことだとさ」
プチ鹿島「まあ食わず嫌いというか、偏見というか」
マキタ「そう、自分がやったことがないと、なんかこう薦められないというか、『いいよ、あんなもん……』と」

山梨県で生まれ育ったマキタさんはスケボー文化にあまり馴染みがありません。

マキタ「スケボーをやってるヤツはなんかね、いけ好かない、しかも東京からやって来た金持ちの匂いがする、ボンボンがやるもん」
タツオ「へぇ~! マジっすか?」
マキタ「ぐらいのイメージ」
プチ鹿島「いけ好かないっていうのは大体分かります」

それでも子供が「スケボーをやりたい」とねだるので、しぶしぶ付き添うことに。

マキタ「2台借りてたんだけど、上の娘と下の娘ね」
プチ鹿島「うん」
マキタ「上の娘がすぐ飽きて乗らなくなっちゃったから、じゃあこれで……つって俺乗ってみたんだよ、乗れねえぞ! アレ!」
タツオ「ははははっ」
マキタ「全く乗れねえよ! あんなもん」
(スタジオ笑)

持ち前の運動神経でなんとかボードに乗れるまで上達したマキタさん。ところが欲を出して勾配のある場所を攻めた途端、思いっきり転んで後頭部を地面に打ち付けてしまったそうです。

スケボーパークに突如現れた謎の紳士

そうやって悪戦苦闘していると、50歳ぐらいの紳士がスケボーパークに入ってきた。白い歯に浅黒い肌、風間トオルを彷彿とさせる容姿。身に付けている装具やボードが割と新しいことから初心者に見えるが、それにしては上手い。

一方のマキタさんは己のボードさえ制御できないでいるので、娘への指導もおぼつかない。だから転んだりもする。するとその紳士は見かねたのでしょう。こちらへ近寄ってきて話しかけてきました。

マキタ「その人がスーッと寄ってきて、『あの……お父さん、ちょっと待ってください、私が教えていいですか?』」
タツオ「えっ!?」
プチ鹿島「ほぉ~」
マキタ「って娘に言うわけ、『乗り方は肩幅で立って、まずこのボードの上にスタッと立つところから始めましょう』って」
プチ鹿島「うん」
マキタ「で、娘に教えたの、そしたら娘が物の見事に上達していく」

一体この紳士は何者なのか。その年齢でなぜスケボーを始めたのか尋ねても多くを語りません。

マキタ「ただ、(その紳士は)『もう僕みたいに、なんかある程度歳いってきて、仕事とかも割と安定してきたりとかすると、なんか、う~ん……こういうの始めたくなるんですよね、じゃあ仕事に戻ります』つって、帰ってったんですよ!」
タツオ「えっ!」
マキタ「『お名前は!?』って、俺も言うのも……」
プチ鹿島「は~、たまたま、合間を利用して」
マキタ「そう! で俺思ったの、多分あの歯の綺麗さと浅黒さ、仕事が割と退屈になってきた、成功者、つまりエグゼクティブだと思ったの」
タツオ「まあ、もう管理職だよね」
マキタ「多分管理職です、おそらく成功者なんですよ、成功者がなぜあんなことを始めたかっていうと多分、そこまで言わなかったけど、自由が利くから不自由なものを求めるっていう……ことなんですよ」
タツオ「ふふふっ、考えすぎでしょ~、そんなん考えすぎだよ」
プチ鹿島「う~ん……自分がこう制御できないものにハマっちゃうみたいな」
マキタ「そうそうそう! だから俺がそのさ、乗ったときに全く言うこと聞かねえってこととかを、この人はむしろ楽しんでる」
タツオ「あ~」

ずっと趣味を探していたマキタさんは、謎の紳士の言葉が「神の啓示」に聞こえたと言います。

プチ鹿島「えっ! じゃあ何、マキタさんは今スケボーをやってるってことですか?」
マキタ「そうです」
プチ鹿島「その日だけの話じゃなくて、家でも?」
マキタ「で、俺そのあとムラサキスポーツ行きまして、買ってですね」
タツオ「マジで!?」
マキタ「そして、つい先日ちょっと時間があったんで……ロケがあって行って帰ってきたんですよ」
プチ鹿島「うん」
マキタ「したらね、子供がその日は休みで家にいるのにどこにも連れていけてない、ちょっと疲れてたんだけど、『そうだ、スケボー買ったじゃないか!』」
タツオ「うん」
マキタ「ね! お姉ちゃんの分もあるんだけど、まあ俺もとりあえずやりたいからっていうことで、駒沢公園に」
タツオ「へぇ~!」
マキタ「スケートボードができる所があるんですよ」
タツオ「あ~、そうなんだ」
マキタ「調べたらあったんで、駒沢公園まで行ってやりましたよ」

自由だからこそ不自由さを求める。これに似たフレーズが、若林さんのゴルフにハマった話にも出てきました。

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いけ好かないと思っていたゴルフにハマるオードリー若林

2015年6月6日放送「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)

パーソナリティはオードリー(若林正恭・春日俊彰)。

春日さんがフィンスイミングの世界大会出場でイタリア滞在中のため、この日は若林さんだけの放送でした(後半に西加奈子さんがゲストで登場)。最近、若林さんは「スクール革命」で共演しているアンタッチャブル山崎さんからゴルフによく誘われるそうです。でも断り続けている。なぜならゴルフに良い印象を持ってないから。

若林「ゴルフっていうものをね、なんか今まで私こう……ラウンドってのを回ったことないんですよ、で、『いけ好かないスポーツだな』とは若いときからずっと思ってて、まずそのドレスコードみたいのがあるんでしょ? 襟付きのものじゃないと入れない、だからもうその時点でやっぱ、いけ好かないじゃない」
(作家笑)
若林「やっぱなんかその~、フランスのコース料理より、なんか『汚いラーメン屋でよぉ、餃子ってのが落ち着くよな』って言いたい人だから、俺は」

それでも山崎さんが「一回行こうよ」とめげずに誘ってくるので、仕方なくお互いの空き時間が一致したタイミングで「打ちっぱなし」へ行くことに。

若林「あの、(山崎の)説明が面白くて、『まず一発打ってみなよ』みたいな、で、『はい、ゴルファーだよ、若林君はプロゴルファー、今カメラ来てるよ』みたいな、『で、アナウンサーが言ってる、この一打、注目の一打ですって、それで打ってみなよ』つって」
(作家笑)
若林「ポーンと打ったら、ゴロですよ、20ヤードぐらいコロコロ転がって、で、ザキヤマさんふざけてるから『ちょっとそれ本気なの!?』みたいに茶化すかと思いきや、『いいじゃん、いいじゃん』」
(作家笑)
若林「『い、いいんですか? ゴロですよ』つったら、『前飛んでんじゃん』つって、くふっ、なんか気持ちよくなってくるのよ、ちょっと、ははははっ」

山崎さんの指導を受けて、若林さんは理解します。ゴルフのスイングはやるべきことがものすごく多いと。まず足の幅、次にクラブの握り方、その手の向きや指の重ね方、さらにスイングするときの腰の回し方、その際に腕を伸ばすのか畳むのか、加えて頭の位置を決めたら動かしてはならない。

ほかのスポーツにはない多くの要素を意識しながら行なうゴルフに面白みを感じ始めた若林さんは、このあと山崎さんの理論を聞いて一層のめり込んでいきます。

アンタッチャブル山崎が唱える理論「ゴルフと笑いはどちらもフリが大事」

(山崎さんの発言は若林さんが再現しています)

若林「で、説明で面白いのが」
山崎「お笑いでもそうじゃん」
若林「つって」
山崎「『フリ』があってボケがある、ね、若手のころはボケボケっていう風に皆気を取られるんだよ、ボールが当たる瞬間がボケだとしたら当てよう当てようとする、違う、『フリ』なんだよね」
若林「みたいな、で」
山崎「芸歴が増してくると『フリ』のほうが重要、『フリ』さえできてればボケはウケる そう思わない? 若林君」
若林「って言われて、『思いますねぇ……』みたいな」
(作家笑)
山崎「『フリ』のほうが作ったりするよね、設定とかさ! ね、『フリ』なのよ、『フリ』が上手ければおのずと球は飛んでくのよ」

「ゴルフの振り」を「お笑いのフリ」で例えた説明に目からウロコが落ちる若林さん。

山崎「好きでしょう? 考えるの」
若林「って言うの、『でもザキヤマさん、これ、腰って思ったら手の握りがおろそかになり、手の握りに注意したら肩の向きがおろそかになりますね、ロケット鉛筆ですね』って言ったの」
山崎「いいねぇ~、向いてるよ」
若林「みたいな」
(作家笑)
山崎「でも若林君、考えて考えて理屈にとらわれ、とらわれて、とらわれ過ぎたら……一回何も考えないで打つ、このくり返しよ」
若林「みたいな、好きなのよ、理屈で詰めたあと無心になるみたいな、そういう話が、あはははっ」
山崎「若林君、こう、右の尻を天に向ける感じで打ってみ」
若林「つったら、スパーンッと飛んでって、110ヤードぐらい飛んでったの、まっすぐ……気持ちいいね」

休憩中の会話を聞くと、若林さんがゴルフにハマるのは狙い通りだったようです。

若林「休憩中にさ、『なんか、ちょっとハマるの分かりました』つったら、やっぱりその~、なんつうの」
山崎「あの~、俺もそれを考えたんだけど」
若林「ってザキヤマさんが言ってて」
山崎「怒られなくなる、大人、例えば大学出て、仕事始めてメチャメチャ怒られる、でもそれが慣れてくる、30代こえて、で、誰にも怒られなくなって、それがルーティンに……日常がルーティン化してきたときに、何かが上手くいかないっていう経験をしたいんじゃないかな? って思うんだよね」
若林「つって」
山崎「で、上手くいったりいかなかったり、いかないからこそ上手くいったときが楽しい、だから、ある程度なんか上手くいって慣れちゃった、まあだから当然そういうスポーツに……歳いってる人がハマるんだと思うんだよ、怒られなくなった人が」
若林「とか言うのよ、なるほどなぁと思って」
山崎「だから若林君もどう? 最近、仕事上手くいき過ぎてるんじゃない?」

確かにテレビに出始めのころと比べれば安定した人気を維持できているオードリー。成功者と言っても差し支えないでしょう。

若林「まあ今日、え~と……7時に終わりましてね、収録が、『しくじり先生』の、で、9時入りじゃないですか、このラジオ、ニッポン放送に、ちょっとその間にひとりで神宮の打ちっぱなしに行ってきたんですけど」
(作家笑)
若林「くふふふっ、9時入りで9時半に入っちゃいました、ちょっとスライスを直したいんですよね、私ね、あはははっ」

マキタさんにとっての謎の紳士、若林さんにとっての山崎さんのように、不自由さの先にある快感を覗かせてくれる存在が最初の段階でいることも、実は重要なのかもしれません。