笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

ラジオ好きが持っている「距離感」

ラジオ好きな人には、ある共通点が存在すると思われます。それは「距離感」です。

具体的な説明をするために、小説家の朝井リョウさんとDJのRAM RIDER(ラムライダー)さんの例を紹介させて下さい。彼らがラジオ番組のゲストに呼ばれたときの振る舞いを見れば、その「距離感」の正体が浮かび上がってきます。

普段のラジオのムードを崩してしまわないか心配する朝井リョウ

2014年8月23日放送「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)

パーソナリティはオードリー(若林正恭・春日俊彰)。
ゲストは小説家の朝井リョウ。

23歳のときに『何者』で第148回直木賞を受賞した朝井さん。戦後最年少、史上初の平成生まれの受賞に注目が集まりました。デビュー作『桐島、部活やめるってよ』が映画化されたことで、その名を知った人も多いのではないでしょうか。そんな朝井さんは、「オードリーのANN」を初回から欠かさず聞いていると言います。

若林「けっこう最初のほうから聞いてくれてんでしょ?」
朝井「本当にベタに、R(レギュラー昇格前の単発放送ANNR)のときから聞いてて」
春日「へぇ~」
朝井「で、本当に一回も聞き逃したことないんですよ」
若林「そうなんだ! それすごいことだよね」
春日「それは元々ニッポン放送を聞いてた? その、最初の一発目はなんで我々の……」
朝井「多分、一番初めに何で、オードリーさんのことを面白いなって思ったのかと言うと」
若林「うん」
朝井「なんかネットの番組で、若林さんのブログを読まれる……っていうのがあったと思うんですけど」
若林「はいはい、随分前だよね~」
朝井「それがすごいやけに面白くて、『この人たち何なんだろうな?』っていうのが、なんかずっとあったんです」
春日「へぇ~」
若林「へぇ~、嬉しいね」
朝井「で、オールナイト(ANN)をやるってなったときに、ネタもすごい面白い方だっていうのはもちろん分かってたんですけど」
若林「うん」
朝井「その、しゃべってる感じがすごい面白くて、で、Rを聞いてみたらすっごい面白かったんで」

実は、若林さんはプライベートで朝井さんと何度か飲んだことがあります。ただしアルコール無しで会うのは今回が初めてだそうで、若干照れくさそう。ちなみに、その飲み会の参加者に作家の加藤千恵さんや西加奈子さんの名前が挙がっていたので、どうやら作家たちの集まりに芸人の若林さんが参加している構図のようです。

両者の関係性が明かされたあと、朝井さんのラジオ遍歴を探っていきます。

若林「元々さ、ニッポン放送を中心に聞いてる子だったの? (最初は)高校生ぐらいでしょ、だって」
朝井「そうですね、入り口はやっぱりニッポン放送を聞いていて、僕の若いときって……若いんですけど、まだ」
若林「うん」
朝井「高校生ぐらいのときに、西川さん(T.M.Revolution西川貴教)とか、aikoさんとか、2000年辺りに出てて」
若林「あ~、そうかそうか」
朝井「その辺りでラジオって面白いのかなって思って、で、大学入って、より時間がいっぱいできて」
若林「うんうん」
朝井「で、もっと聞くようになってハマっちゃったんですよね」
若林「あっそう、今いくつだっけ?」
朝井「いま僕、25(歳)になりました」
若林「25(歳)、若いんだよね~、ホントに」

トークだけでなくネタコーナーにも参加してもらった朝井さんに、いつも聞いているラジオに出てみた感想を最後に尋ねます。

若林「あの~、どうだった? そのオードリーのいつも聞いてるのに入って、ブース入ってみて」
朝井「だからあの、ブースをずっと見させていただいて、こうやってポンッと入らせていただいたんで」
若林「うん」
朝井「すごい、『DVD』も観てから来たんで、あの中に入るんだと思ったら緊張しちゃって」
若林「ははははっ」
朝井「しかも今日、フリートークがめちゃくちゃ面白かったから」
(スタジオ笑)
朝井「崩したくなさすぎて、本当に、ムードを
若林「はははっ、言ってたもんね、『幼なじみの話がいいんで、私が崩していいんでしょうか?』っていうメールが来てさ」
春日「いやいや、くふふっ」
朝井「リスナーは絶対思ってるんですよ」
春日「いやいや、崩れたりはしてないでしょう、やっぱそこはね」
朝井「ゲストっていう存在は……」
若林「やっぱ空気感あった? オードリーの、ブースの中に」
朝井「ありました!」
若林「やっぱりデキる芸人特有の殺気みたいのがあっただろ?」
朝井「ビリビリ来ちゃって」
若林「あはははっ!」

ムードを崩すどころか見事に馴染んでいました。

若林「ラジオとかやったらいいんじゃない? 朝井君は」
朝井「僕はスポンサーが付かないんで」
若林「くふふっ、ネガティブだなぁ」
朝井「いや、それが一番大事って聞いたんですよ」
若林「ラジオはね、そりゃそうなんだけど」
朝井「『連れてこれないと無理だよ』って」
若林「あはははっ!」
春日「あっそう」
若林「やったらいいのに、作家さんとかでさ、皆あんなにしゃべれんだから、やったらいいなと思っててさ」
春日「何人かでやればいい、そしたらね、1人でアレだったら」
朝井「作家はスポンサー付かないので」
若林「そうなの?」
朝井「この版元と決めてずっと書き続けてる人だったら、もしかしたらそこが付くかもしれないですけど、皆渡り歩いてるので」
若林「いつもあの~、飲み会の最後のほうで、その話になるもんね、『パイを広げなきゃいけない』って話で毎回終わるんだよね」
朝井「ははははっ」
春日「まあまあ、アレだったら言っといてもいいけどね、私から」
朝井「あっ……」
若林「ニッポン放送に?」
春日「ニッポン放送にね、『やらせてやってくれよ』つって、うん、『朝井君に』つって」
若林「なんかそんな、エンディングで駆け込みで(キャラを)オンにされても、ちょっと」
(スタジオ笑)

今年4月から「朝井リョウ・加藤千恵のオールナイトニッポンZERO」が始まったのは、春日さんの鶴の一声だったのですね(春日にそんな力があるわけない)。

続いて、RAM RIDERさんの場合。

AUDIO GALAXY-RAM RIDER vs STARS!!!-

AUDIO GALAXY-RAM RIDER vs STARS!!!-

普段のラジオの色を薄めてしまわないか心配するRAM RIDER

20013年11月22日放送「東京ポッド許可局」(TBSラジオ)

パーソナリティはマキタスポーツ、プチ鹿島、サンキュータツオ。
ゲストはDJのRAM RIDER。

DJ以外にも、様々なアーティストへの楽曲提供やプロデュースを行なっているRAM RIDERさん。さらにソロシンガーとしてアルバムをリリースするなど多方面で活躍しています。「クラブでDJをやっている」と聞けば、およそ深夜ラジオとは無縁な世界に住んでいると決めてしまいがち。

ところがRAM RIDERさんは、ラジオを題材にした楽曲「ラジオボーイ」を作ってしまうぐらいラジオ好きなのです。

サンキュータツオ(以下タツオ)「RAM局員(この番組のリスナーの呼称)は『許可局』を前から知ってくださってたんですよね?」
RAM RIDER(以下RAM)「そうですね、まああの~、ポッドキャストでやってる時代(TBSラジオ昇格前の自主制作時代)から聞いてまして」
プチ鹿島「え~! ポッドキャスト時代から」
タツオ「それもねぇ、ちょっとあの、コメントでもいただきましたけども、なんでも最初のクルーザー論辺りから」
RAM「はい」
プチ鹿島「それも最初の最初じゃないですか、じゃあもう5年ぐらい前ですよね」
RAM「そうですね、はい」
タツオ「すごいな~」
プチ鹿島「うわ~」

RAMさんの年齢はこのとき35歳。タツオさんと同世代で、マキタスポーツさんとプチ鹿島さんは一つ上の世代になります。したがってRAMさんのラジオ遍歴にはタツオさんが強く共鳴していました。

タツオ「ラジオが相当お好きということで」
RAM「そうですね、子供のころから好きで、小学生のときに、まあウッチャンナンチャン・とんねるずさんの『オールナイトニッポン』があって、伊集院さんが『Oh!デカナイト』」
タツオ「あった!」
RAM「ちょっと他局なんですけども」
タツオ「聞いてた! 俺もう同世代だわ、完璧に」
RAM「で、伊集院さんがTBSに移ったタイミングで、全体的に僕もTBSに全部シフトしていったんですけども」
タツオ「確かに」

こんなにラジオが好きなのに、今回のゲスト出演をすごい迷ったそうです。なぜでしょうか?

RAM「オファーをいただいて、ものすごく出るの迷ったんですよ」
タツオ「なんで!?」
マキタスポーツ(以下マキタ)「えっ、なんでなんで?」
RAM「えっとですね、ラジオがものすごく子供のころから好きで、例えばスペシャルウィークとか、聴取率調査週間だと、僕の大好きな番組にいろんなゲストが来るんです」
タツオ「はいはい」
RAM「その、アーティストの方だったりとか、アイドルだったりとかで」
タツオ「あるね」
RAM「その場が、ものすごくそれで薄まることが許せなくて
タツオ「あ~」
マキタ「あ~」
プチ鹿島「なるほど」
タツオ「逆に普段どおりやってくれよと」
マキタ「そういうことか」
プチ鹿島「何がスペシャルだと」
RAM「豪華なプレゼントがあったりとか、そういうのが僕は苦手だったので」
タツオ「いいですね、はい」
RAM「すごくその自分の大好きな『東京ポッド許可局』に、よそ者が来て薄まる感じが嫌なのと、お三方と同じテーブルでお話しできる嬉しさみたいなので、そっちが勝ってしまったので」
タツオ「いや、いいよいいよ」
RAM「来させていただいたんですけど」

ゲストに出ることで「場が薄まるのではないか」という心配は、まさに朝井リョウさんの「ムードを崩してしまわないか」に通じる部分です。

続けて話題は、RAMさんがやっているネットラジオへ。

タツオ「そんなRAM局員、自分でインターネットラジオもやってると」
RAM「はい、やってます、それは完全に趣味の域で、毎週火曜日に生で、僕のスタジオで友達と2人でやってるんですけど」
タツオ「すごいね」
RAM「いやもう全然、真似事です、ラジオの」

その番組は「オーディオギャラクシー」(公式サイト)です。

ざっくり言うと「DJとお笑いの同居」という他では味わえない魅力に惹かれて、私は毎週欠かさず聞いています。とはいえ、リスナー歴はまだまだ浅い新参者なのですが。アーカイブもしっかりしているので、あとから追いかけることも十分に可能です。

DJでありながら(DJだからこそ?)お笑いとラジオを愛するRAMさんは、ムック本『お笑いラジオの時間』で毎回コラムを執筆しています。そのムック本の第一弾に、ラジオ好きが持つ「距離感」について言及していると思われる箇所があるので、最後にこちらを紹介させて下さい。

シャイな自分と重ねながらリスナーと接していたビートたけし

2013年12月発売『お笑いラジオの時間』(綜合図書)P105から

「お笑いラジオ温故知新」のコーナーで、「ビートたけしのオールナイトニッポン」について語る水道橋博士。このラジオの出待ちをしてビートたけしさんと出会った博士に、インタビュアーが次のような質問をぶつけます。

――たけしさんはどういう気持ちでリスナーと接してたと思いますか?
博士 それは、かつてのシャイな自分だよ。だから平気で前に出てくる人が嫌いなのよ。だから先輩だった大阪百万円って人は、どれぐらい無口なんだっていうぐらい無口な人だったけど、たけしさんは大阪さんのことを凄く誉めてたね。

芸人はよく言います。街で「ラジオ聞いてます」と声を掛けられたら嬉しいと。それは自分たちのことを深く知ってくれている喜びだけでなく、ラジオ好きが持っている「距離感」に安心できるからではないでしょうか。