笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

ビートたけしの分厚さ

11月下旬あたりから、お笑いコンビ解散のニュースをやたらと耳にします。

この時期にコンビ解散が相次ぐ原因について、ウーマンラッシュアワー村本さんがラジオで解説していました。結論を先に言ってしまうと、賞レース(今の時期ならば「THE MANZAI」)の結果を「辞める理由」にしやすいから。

芸歴を重ねていくと「辞める理由」が欲しくなる

2014年12月4日放送「ウーマンラッシュアワーのオールナイトニッポンZERO」(ニッポン放送)

パーソナリティはウーマンラッシュアワー(村本大輔・中川パラダイス)。

去年の「THE MANZAI 2013」優勝をきっかけに、売れっ子の仲間入りを果たしたウーマンラッシュアワー。現在もフジテレビのバラエティ番組「ミレニアムズ」にレギュラー出演するなどして幅広い活躍をみせています。

しかし、彼らには約13年間の下積み時代がありました。諦めなかったからこそ手に入れることができた成功と言えるかもしれません。それゆえ芸歴を重ねたコンビの解散には、思うところがあるようです。

村本「今週は本当にあの~、芸人が、いっぱい解散したというか」
中川「うん……」
村本「ここにある(おそらく手元の資料)だけでも、ヒカリゴケ、ロシアンモンキー、マキシマムパーパーサム」
中川「うん、年内解散発表」
村本「あと3フランシスコっていうね」
中川「3フランシスコ?」
村本「西口プロレスでやってるね、あの~、チャールズさんっていてたやん、大阪で」
中川「あ~、はいはい」
村本「『(爆笑)レッドカーペット』とかも出てたんですけど、解散した」

他にもワルステルダム(人力舎)、だいなお(松竹芸能)も解散を発表しました。

村本「これは『THE MANZAI』のシーズンで、決勝に行けなかったりとかして、皆が、だから……」
中川「うん」
村本「ある程度ね、もう10年、20年とやってくと、ある程度皆ね、きっかけが欲しいんですよね、これをアカンかったら解散しようって決めて、例えば来年の『THE MANZAI』に向けて、皆ブワーとやってて」
中川「はいはい」
村本「これアカンかった、ということで多分、一気にパッとこう解散してくっていうのが、やっぱ多いんですよ」

辞める理由が欲しい。「M-1グランプリ」でブレイクする前のオードリーもそうでした。漫才の登場で春日さんがゆっくり歩いてセンターマイクに向かうのは、元々クビになりたいがための行動でした。

「100メートル走」で負けても「走り幅跳び」なら勝てるかもしれない

村本「これも難しいんすけど、自分自身の人生なんで……なんて言うの? ちょっと、もうちょっと広い目で見たら、『THE MANZAI』のためにお笑いやってるわけじゃないやんか?」
中川「うん」
村本「1個のきっかけとして、これをやることによって、え~、俺たちのレベルを計るっていうのもあるかもしれんけど」
中川「うんうん」
村本「もうちょっと1個1個、自分たちを分析したときに、ねえ、もうちょっとその例えば……あるやん、なんか、今日なんかも『やりすぎコージー』、『やりすぎ都市伝説』に僕出てましたけど」
中川「あっ、はいはい」
村本「『THE MANZAI』決勝行ってないけど三四郎の小宮、出てましたけど、小宮なんかタレント性あるやんか」
中川「あります、ありますね」
村本「各々なんかこう漫才、あれは漫才というね」
中川「ジャンルで」
村本「陸上やるので、100メートル走で負けたからといって、もしかしたら幅跳びのほうが跳べるかもしれへん人もいるかもしれへん」
中川「うんうん」
村本「ちょっとそういうのもね、考えてみたら……っていうのもあるけども、それも自分の人生やからなぁ、俺はなんとも言えへんけどもね」

たけしさんも、お笑いを陸上競技に例えていました。ちょっと前にゲスト出演したラジオで。しかも村本さんが話したような内容を実践して、芸人として生き残ってきたと言うのです。

ビートたけしは「100メートル走」で負けても「十種競技」のほうで勝ってきた

2014年8月28日放送「大谷ノブ彦キキマス!」(ニッポン放送)

パーソナリティはダイノジ大谷ノブ彦。
アシスタントは脊山麻理子。
スペシャルウィークのゲストにビートたけし。

映画監督の顔も持つたけしさんに大谷さんは率直に尋ねます。芸人が違うジャンルに進出することの是非を。

大谷「芸人はいろいろやってもいいんじゃないかな? って、芸人って便利な言葉だなってずっと思ってて」
たけし「いや~、俺なんかは、漫才でちょっと売れて、あと映画の仕事来るじゃん」
大谷「はい、役者で出て」
たけし「役者で、こう観に行くんだけど、俺が出てきただけで大爆笑するわけさ」
大谷「ふふふっ」
たけし「嫌で、落ち込んじゃってさ、『ああ、なんだ、相変わらず漫才師としか見ないな』と思って、それ以来ず~っと俺、テレビでは悪い(人物の)役しかやってないのよ」
大谷「あ~」

ところが、そのドラマが視聴率30パーセント以上を獲得。さらにラジオ番組「ビートたけしのオールナイトニッポン」も開始。こうして活躍の場が広がることで、人気をどんどん集めていった若手時代を振り返って、

たけし「俺はね~、結局ね、近代五種とか、近代十種とか、その選手だと思ってる」
大谷「はい」
たけし「それだったら金メダル獲れるけど、ただ100メートル走とかさ、障害レースとかそういうのでは、日本のお笑いのランクではベスト5にも入らねえぞっていうか」
大谷「え~」
たけし「だから、6位・5位とかで、総合十種だったら、芸能総合十種みたいなことだったら、俺、勝ちにいってるかな~っていう感じだね」

たけしさんはもう大御所です。若手時代と比べて立場や体力が全く違います。その変化にどう折り合いをつけているのかを聞きます。

笑いを取るために自分のステータスを上げたい

大谷「その時代のことに追いつこうと思って、もう一回、80年代と同じことをやろうとするんですか?」
たけし「いや、結局お笑いって、チャップリンの名言だけど、ホームレスがバナナに滑っても面白くないけど、かわいそうだけど、偉い総理大臣とか、そのクラスがバナナに滑ったら笑う」
大谷「はい」
たけし「そうすると、若くて体力がある時代と今は違って、俺はものすごく図々しくて、笑いを取るためには自分のステータスを上げたいわけ
大谷「はい」
たけし「例えば人間国宝とかね、文化庁から表彰を受けたり、それで立ち小便で捕まりたいわけ」
(スタジオ笑)
たけし「要するに剥奪とかさ、文化勲章剥奪されたりとか、それが笑いであって、とにかくその位置に行きたいわけ」
大谷「偉けりゃ偉い分だけ、コケたときに倍は面白いという」
たけし「うん、だから今は、とにかく見た目で子供まで笑うような、ベタなネタをわざとやったりするんだけど、プールに落っこちたりなんかして」

「ナインティナインのオールナイトニッポン」で岡村さんが語っていたのですが、「たけしの誰でもピカソ」で共演していた今田耕司さんは、たけしさんの凄さをこう表現したそうです。「とにかく分厚い」と。大御所になっても衰えない笑いに対する貪欲な姿勢は、まさにこの表現がピッタリではないでしょうか。