笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

内村光良を「チェン」と呼びたい芸人

出川哲朗は、ウッチャンナンチャンの内村光良を「チェン」というあだ名で呼んでいます。なぜならジャッキー・チェンに似ているからです。

ウッチャンナンチャンと出川哲朗は専門学校の同級生で、そのときから「チェン」

横浜放送映画専門学院(現日本映画大学)で知り合ったときから「チェン」でした。だから出川さんが「チェン」って呼ぶと、学生時代から続く2人の深い友情が連想されて幸せな気持ちになります。「同じ釜の飯を食った戦友」感が「チェン」には詰まっているのです。

この感覚は演者側にも存在します。ウンナンと出川さんの後輩である三四郎の相田さんは、ツイッターで次のようにつぶやいていました。

さらに「久保みねヒャダこじらせナイト」で、久保ミツロウさんが同じようなことを語っていました。

人を心を和ます出川哲朗の「チェン」

2013年12月7日放送「久保みねヒャダこじらせナイト」(フジテレビ)

出演者は久保ミツロウ、能町みね子、ヒャダイン。

クリエイター3人による深夜のトーク番組です。番組の後半に、男性有名人と恋愛してフラれるまでを妄想する「こじらせ恋愛ひとり相撲」のコーナーがありました。この日、久保さんが引いたくじに書いてあった相手は、ウッチャンこと内村光良。

内村の番組から出演オファーが来る。ウンナンは大好きだけど迷う久保。すると、内村が直接会って説得すると言い出す。楽屋を訪ねる久保。ここまで妄想が展開したあと、

久保「内村さんはもう、きっとテレビのイメージのままの優しい感じで、『まあ、どうぞどうぞ』と、過剰に、サービス精神旺盛に言わないけども」
ヒャダイン「ええ」
久保「懐深く、『まあこういう番組の主旨で出てもらいたいんで、ぜひ久保さんに』って、『番組終わったあとに、みんなで飲み会やったりしますよ』みたいな」
能町「楽しそう」
久保「あんなに芸人さんと、そういう飲むのって絶対ヤダって、芸能界で馴れ合わないって思っていたけれども、内村ファミリーとは馴れ合いたい」
能町「ふふっ」
久保「で、行ったら(内村光良が)『哲ちゃん』」
(スタジオ笑)
能町「(出川哲朗が)『チェン』」
久保「『チェン』『哲ちゃん』」
(スタジオ笑)
久保「『チェンはさ~』って哲ちゃんが言ってるのを見て、私はニコニコするわけですよ
ヒャダイン「あ~」
能町「そうですね~」

「内村プロデュース」では収録後に必ず飲み会を開いていました。その伝統は「内村さまぁ~ず」に引き継がれています。実際にありそうな状況で妄想が進んでいくからリアリティが生まれるのでしょう。久保さんによる見事な妄想芸でした。

「企画ナイト5」で、ウッチャンをチェンって呼ぶナイト

ここで私が購読しているブログ「ビーガタスエッコヒダリキキ」さんの記事を紹介させて下さい。「企画ナイト5」というライブのレポなんですが、こんな企画が行われていたそうです。

ウッチャンをチェンって呼ぶナイト
ナンチャン企画もやったのでせっかくなら、と選ばれてた。
「ウッチャンをチェンと呼んでるのは出川哲朗さんだけ。我々だって本当はチェンと呼びたい、けど内村さんを前にするとなかなかチェンとは言えない。だから練習しておこう」という企画。
スクリーンにウッチャンとナンチャンの写真が交互に映し出され、ナンチャン写真には「ナンチャン」、ウッチャン写真には「チェン」と呼びかけなければいけないトレーニングゲームが。
このウンナン交互版からさらに難易度上げたバージョンを又吉さんが挑戦。

http://hiloco.hatenadiary.jp/entry/20110607/1307384692

実際にウッチャンと共演する機会が増えると、出川さんだけでなく自分も「チェン」と呼びたい衝動に駆られるようです。

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「6人の村人!全員集合」でやっと実現した内村光良と岡村隆史の絡み

2014年8月20日放送「6人の村人!全員集合」(TBS)

「村」の付く芸人6人が旅をする3時間特番です。

メンバーは志村けん(芸歴42年64歳)、ウッチャンナンチャン内村光良(芸歴29年50歳)、さまぁ~ず三村マサカズ(芸歴26年47歳)、ナインティナイン岡村隆史(芸歴24年44歳)、バナナマン日村勇紀(芸歴24年42歳)、ロンドンブーツ1号2号田村淳(芸歴21年40歳)。

番組が始まると、ロンブー淳さんがひとりで車を運転しています。メンバーのなかで一番後輩の淳さんが、各ポイントで待つ先輩芸人をピックアップしていきながら、志村さんがいる山梨県の旅館を目指します。

まず最初にピックアップしたのは、神宮外苑で待っていたナイナイ岡村さんです。

淳「岡村さん、今日の、旅のしおりになるんですけど(しおりを手渡す)」
岡村「しおり? はいはい」
淳「次、内村君拾わないといけないんですよ」
岡村「うわっ(しおりを見つめながら)すごいなコレ、そやけど」
淳「はい」
岡村「内村さん、よう知ってる?」
淳「僕はそれこそ、レギュラー番組初めてやらせてもらったのが、内村さんの番組(『UN FACTORY カボスケ』)なんで」
岡村「あっ、そう」
淳「内村っ子ですもん」
岡村「あんまりだから俺、内村さん、ないねん」
淳「ですよね」

緊張する岡村さんを助手席に乗せて、ウッチャンが待つ「ガスト秋川小川店」に向かいます。

岡村「そやけど俺、内村さんちょっと緊張するわ、ホンマにあんまりご一緒したことないから」
淳「そうですね、なんだったら今まで1回も見たことないですね、内村さんと岡村さんが2人でしゃべってる姿を」
岡村「そうやろ、ホンマに俺も東京来て……22ぐらいか? 21か22(歳)ぐらいのときに」
淳「はい」
岡村「深夜でコント番組(『とぶくすり』)やらせてもらってるときに、ドッキリで1回出てくれはってん」
淳「え!? そんな若いときにですか?」
岡村「そう、ビックリしたよ、普通にだって」
淳「ウッチャンナンチャンがいるから」
岡村「そうそう、で、その1回だけやわ」
淳「へぇ~!」
岡村「ちゃんとこう仕事したっていうのは」
淳「じゃあもう随分前ですね、絡んだの」
岡村「めちゃくちゃ前よ、だからそれ以降ちゃんと仕事したっていうのがないねんて、内村さんと」

岡村さんがウッチャンと共演したのは20年以上前です。でもそのときはコントだったので、2人が「素の状態でがっつり絡む」のは今回が初めてになります。

ロンブー田村淳の粋な演出

若手の頃にウンナンとよく絡んでいた淳さんが、ウッチャンの印象について話します。

淳「後輩としては、内村さんのそばにいるのは、すげ~やりやすいですけどね」
岡村「あ~」
淳「なんでも受け止めてくれるんで」
岡村「うん」
淳「どんな話します? 内村さん来たら」
岡村「ん~、そやな~」
淳「チェンって言います?」
岡村「チェンなんか言えるわけないやろ、くふっ、出川さんしか言わへんがな」
淳「へへへへっ、チェンって言わないんですか? 俺、今日チェンって言いたいなと思って来てるんですけどね
岡村「ははははっ、そんなんアカンて」
淳「出川さんが言えてるんですよ、チェンって」
岡村「出川さんはだって、同級生やから」
淳「専門学校からね、でも内村さん、チェンって言われたがってんじゃないかな? と思っちゃうんですよ俺、ずっと番組観てて」

ここで事故渋滞が発生。お互いウッチャンの連絡先を知らないので、合流が遅れることを伝える手段として出川さんに電話します。しかし、留守電でした。結局40分以上遅れてファミレスに到着し、のんびり朝食をとっていたウッチャンと合流。

着いて早々、岡村さんは我慢していたトイレへ。実は、淳さんもウッチャンと会うのは約10年ぶりだったのです。

淳「いろんな先輩来るじゃないですか、今から」
内村「はいはい」
淳「僕、一番後輩なんですけど、なんかこうあんまり先輩後輩を気にしないほうが楽しい旅になるんじゃないかなと思ってたんです、上下関係がないほうが」
内村「はいはい」
淳「なので、あの~……ふふっ」
(小走りでトイレから戻ってくる岡村)
岡村「すみません」
淳「今、僕の本題を話してたんですけど」
岡村「ああ、本題」
淳「あまりね、その、内村さんも先輩、先輩扱いされると気遣われるでしょ?」
内村「ふふふっ、結局何したいの?」
淳「僕はあの、チェンって呼びたいんです
内村「あはははっ!」
岡村「いや、淳がずっと、『内村さんはチェンって呼んで欲しがってる』って」
内村「ははははっ」
岡村「そんなわけいないですよね」
内村「そういや、最近ローラが呼び始めたけど(『そうだ旅に行こう。』で)」
岡村「ふはははっ」
淳「ほらっ! やっぱそうなんすよ」
岡村「でもそんなん呼ばれたくないでしょ?」
内村「いや、別にいいけどさぁ」
淳「チェンでいいっすか? 岡村さんぐらいの距離感だとそうなんすよ、僕はもう孫世代みたいな感じなんで、僕はイタいんで、チェンって呼びます」
内村「ははははっ」
岡村「アカンアカン、そんなん」
淳「……ちょっと、僕もトイレ行っていいですか?」
岡村「いいけど」

席を立つ淳さん。テーブルに残されたウッチャンと岡村さん。そして、2人は素の状態でしばらく語り合う。個人的にこの場面が、「6人の村人!全員集合」最大のクライマックスでした。

淳さんは、シャイボーイ同士を繋ぐ役目を果たしたあと気を利かせてテーブルから離れて、ウッチャンと岡村さんのツーショットを演出したのです。番組側もこの状況を作りたいがために、合流する順番を決めたような気がしてなりません。ウンナンとナイナイ両方を応援してきた身としては、こんな心躍る場面が実現するなんて考えてもいませんでした。本当に生きててよかったです。

映画『ロッキー』か『卒業』を褒めておけば内村光良はご機嫌

次は、東京の「檜原村(ひのはらむら)」で待っている三村さんをピックアップしに行きます。するとその道中、岡村さんの携帯が鳴ります。相手は出川さんでした。

岡村「もしもし」
出川「もしも~し」
岡村「あっ、岡村ですけど、すみません」
内村「寝起きだよ」
岡村「ちょっと用事があって連絡したんですけど、あの~、もう用無しになったんで大丈夫なんですけど」
出川「くふっ、なんだよ用無しって」
岡村「こないだ言うてたじゃないですか、ご飯食べたときに、その、村のロケ」
出川「ああ~!はいはいはい、チェンのやつね」
淳「出た! チェン
内村「あはははっ」
岡村「で、内村さんの連絡先知らなかったもんですから、出川さんに連絡したんですけども」
出川「あ~、なるほど、もう合流したの?」
岡村「今、あの、内村さんが隣で車を運転してくれてます」
出川「ははははっ!」
(車内笑)
出川「話弾んでんのかよ」
内村「話弾んでるよ~」
出川「本当に大丈夫?」
内村「大丈夫よ」
岡村「ふふっ」
出川「あの、話がちょっと詰まったら、とりあえず『ロッキー』か『卒業』の話しとけば大丈夫だから」
(車内笑)
淳「映画」
内村「映画の」
出川「『ロッキー』か『卒業』で、良いですねぇって言っとけば」
内村「あはははっ、バカにしてる」

出川さんは、淳さんとはまた違った形でウッチャンと岡村さんの距離を縮めてくれました。私はもうニコニコしっぱなしでした。

内村光良を「チェン」と呼びたい芸人は、まだまだいます。「スクール革命」で毎週共演しているオードリーもそうです。彼らの場合、「呼びたい」というよりも「呼んでいる」のほうが正確かもしれません。

オードリー単独ライブ「まんざいたのしい」をトートバッグ持って観に来た内村光良

2013年8月17日放送「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)

パーソナリティはオードリー(若林正恭・春日俊彰)。

紀伊国屋ホールで現在やっている単独ライブ「まんざいたのしい」(2013年8月15日~8月18日)。ウッチャンがこのライブを観に来たときの話をするオードリー。

若林「すごいよな」
春日「何がですか?」
若林「いや、内村さんがさ、観に来てくれたじゃない」
春日「いやいや、そうよ~」
若林「舞台裏まで挨拶しに来てくれて」
春日「うん、本当よ~」
若林「内村さんだよ!」
春日「内村さんよ」
若林「いや、チェンが来てくれてビックリしたよ
(作家笑)
春日「本当、『チェン、ありがとう』ってね」
若林「俺らも『チェン、ありがとう』つってね」
春日「言ってね」
若林「ふふっ」
春日「『チェン!』つってね」
若林「くふふふっ」
春日「『チェン、ありがとうね~』つって
若林「いや、そんな度胸お前にないよ」
春日「ない」
(スタジオ笑)
若林「すごいよね、内村さんがトートバッグ持って、裏に来てくれて」
春日「うん」
若林「ねえ、『良かったよ』って言ってくれて」
春日「言っていただいてありがたいよ……」
若林「いや、すごい……」

この会話を聞くと、ウッチャンとオードリーの距離の近さがよく分かります。

他の芸人が、リスペクトを込めてウンナンについて語ってくれるのは嬉しい。でも、ロンブー淳さんやオードリーのように、「チェン」とイジって笑いにしてくれるのも同じぐらい嬉しかったりするんです。ウンナンは笑福亭鶴瓶さんのようになって欲しいと私は思っています。それは芸風とかじゃなくて、「後輩が気兼ねなくイジれる愛すべき大御所になって欲しい」という意味で、です。