笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

1つ1つの仕事を丁寧に全力でこなせ

「アメトーーク」などで見せた毒舌やあだ名の命名が注目されたことで、再ブレイクを果たした有吉弘行。

ターニングポイントは、この番組でしょう。

2007年8月23日放送「アメトーーク」(テレビ朝日)

「売れっ子だらけの夏祭りSP」、俗に言う「おしゃクソ事変」が起きた回でしょう。

ひな壇にいる売れっ子たちに、自分みたいな一発屋にならないための講義をする有吉さん。ムーディ勝山さんが真剣に聞く姿が印象的でしたが、当然のようにあだ名を付ける流れに。そのときひな壇にいた品川さん(品川庄司)に「おしゃべりクソ野郎」と名付けたら、スタジオは爆笑。

2008年あたりから再ブレイクが現実のものとなり、有吉さんのバラエティ番組への出演が増え始めます。

ちなみに、2008年のお笑い界の出来事をいくつか挙げると、この年の「FNS27時間テレビ」は明石家さんまさんが司会を務めました。秋から「ザ・スリーシアター」のレギュラー放送開始。「アメトーーク」特番には、小島よしお、藤崎マーケット、エド・はるみ、世界のナベアツらが売れっ子芸人として登場しました。年末の「M-1グランプリ」で敗者復活から勝ち上がったのがオードリー。キングオブコントが始まったのもこの年でした。

そんな時期に配信された「内村さまぁ~ず」に登場した有吉さん。

内村光良が有吉弘行に送ったアドバイス

2008年7月15日配信「内村さまぁ~ず」(第42回)

レギュラーは内村光良、さまぁ~ず(大竹一樹・三村マサカズ)。
ゲストMCは有吉弘行。

オープニングで、今回の企画「有吉弘行 MCへの道トークパラダイス」について説明。

三村「ところで今日は、何がやりたいの?」
有吉「はい、僕はあの~、最近そこそこ仕事が増えてきたんですよ」
大竹「へぇ~、ちょっとキテるよな」
三村「見てるよ」
有吉「ちょっとそろそろ、本格的に売れたいなと思いまして」
内村「うん」
三村「本格的に売れるって何なの?」
有吉「やっぱりMC(番組の司会)を……することじゃないかなと」
内村「あっ、それでこの格好(スーツ姿)なんだ」
有吉「そうなんです、これもう、MCの格好で」

この番組でMCの練習がしたいと言うので、「恋のから騒ぎ」形式でやってみることに。で、最後に出たお題が「僕(有吉)が今やるべき事は?」。

有吉「(明石家さんま風に)はい、内村」
内村「あの、有吉さんは今、キテると思いますから、1個1個大事にしていくんです、仕留めていきましょう
有吉「1個1個」
内村「1個1個の仕事を仕留めていく」
有吉「(これまでの自分のMCっぷりを振り返り)今日のようなことがないように、ふふっ」
(内村笑)
内村「仕留めていくことです、確実に
有吉「(真剣な顔で)分かりました……」
三村「2度目のブレイクは本物って言いますからね」
内村「あっ、今メモするところじゃないですか?」
有吉「これね、あの~、この前聞いたんです」
内村「あっはっはっはっ」

「2度目のブレイクは本物」。まさにその通りの活躍を見せている有吉さん。

今回、5年前の「内村さまぁ~ず」を取り上げたのは、それを思い出すきっかけになった番組が最近あったからなんです。その番組は「ザ・イロモネア」です。

有吉弘行がアルコ&ピースに送ったアドバイス

2013年3月13日放送「ザ・ゴールドラッシュ ~イロモネアへの道~」(TBS)

司会はウッチャンナンチャン(内村光良・南原清隆)。
挑戦者はアルコ&ピース(平子祐希・酒井健太)。

「ザ・イロモネア」本戦への出場権をかけた予選会。ジャンルを1つ選び、ランダムに選ばれた番組観覧者5人全員を笑わせたら合格。この予選会に集まった若手芸人の中に、アルコ&ピースがいました。

アルコ&ピースは、平子祐希(ひらこゆうき)と酒井健太(さかいけんた)が結成した太田プロ所属のお笑いコンビ。有吉さんの後輩です。

内村「アルコ&ピースの登場でございます、『THE MANZAI』2位、ということでございましてね~」
平子「はい、できすぎた結果です」
内村「忍者の巻物、大笑いしたわ、俺」
酒井「いや、嬉しい~」
平子「僕らただ、目の前のお客さんが笑っていただければ、それで十分だったんですけど、結果が後からついてきました」
(スタジオ笑)
南原「格好いい~」

飄々とボケる平子さんと、キョロキョロして落ち着かない酒井さん。

内村「なんか、先輩から対策とか聞きました?」
平子「あの~、僕、同じ太田プロの、有吉さんが可愛がってくれてまして」
酒井「そうなんです」
南原「ほぉ~」
平子「アドバイスと言えば、『まあ勢いでやれ』とか、『適当にその場しのぎでやりゃいいよ』とか言いそうなもんじゃないですか」
南原「おお」
平子「あの人が酔っ払うと必ず、後輩に言うアドバイスとしまして、『1つ1つの仕事を丁寧に全力でこなせ』と
(スタジオ笑)
内村「あっはっはっはっ」
平子「『必ず、誰かが見ていてくれる』」
(スタジオ笑)
内村「有吉、恥ずかしいだろうな、今」

有吉さんは「内村さまぁ~ず」でウッチャンから受けたアドバイスを、後輩のアルコ&ピースに伝えたのではないか?と。そう思ったのは私だけでなく、ツイッターでも同じつぶやきをしている方が結構いました。でも、それは推測に過ぎません。まだこのときは……

そんなやりとりの後、いざアルコ&ピースの挑戦。選択したジャンルは「モノボケ」。残り2秒で最後の1人を笑わせて、見事イロモネア本戦への出場を決めました。確実に仕留めました。

ラジオの「オールナイトニッポン」や「笑っていいとも」のレギュラーに抜擢されて、徐々に活躍の場を広げているアルコ&ピース。そして最近、有吉さんと地上波のテレビで共演を果たしました。

内村光良とアルコ&ピースを繋ぐ有吉弘行

2013年4月11日放送「オトナへのトビラTV」(Eテレ)

司会は有吉弘行。
アシスタントは鈴木奈々。
ゲストはアルコ&ピース(平子祐希・酒井健太)。

NHKのEテレで放送している10代の悩みと向き合う番組です。今回のテーマは「先輩力・後輩力」。先輩・後輩の関係が厳しい職人の世界を知るため、有名なフランス菓子店で修行する若者に密着。その映像を見た後のトークで、

鈴木「素晴らしい(拍手)」
有吉「いや~、厳しい世界だろうからね、きっとね~」
鈴木「でも失敗しても前に進んで、一生懸命がんばってるから~、成長してますね、今」
平子「あの、後輩のオキテで、『何事も一生懸命』ってありましたけども、有吉さんが酔っ払うと必ず後輩にするアドバイスが
鈴木「何?」
平子「『1つ1つの仕事を全力で丁寧にやれ』」
鈴木「素晴らしい~」
平子「『必ず誰かが見ていてくれるから』」
鈴木「うふ~」
有吉「格好いい言葉だろ?」
(スタジオ笑)
有吉「これは、俺が内村さんに言われたことなの
鈴木「そうなんですか!?」
有吉「うん、だから、こうやって先輩に言われた良い言葉を、こうやって(後輩に)伝えていく」
鈴木「あ~、素晴らしい」
有吉「これがやっぱりいいんですよ、これが先輩・後輩の関係を繋いでいくっていうことです」
鈴木「そうですね」

推測は間違っていませんでした。それが分かった瞬間、閉じ込めていた喜びが一気に爆発。もうウンナンファンとして嬉しすぎて、涙が出そうでした。それもこれもアルコ&ピースが1つ1つの仕事を全力で丁寧にこなして、有吉さんの番組にゲスト出演できる位置まで這い上がってきたから聞けた話。

でもちょっと待ってください。「1つ1つの仕事」が、自分のやりたい仕事ばかりでしょうか?

やりたくない仕事も挫折せず突き進めば格好いい大人になれる

2005年7月19日放送「さまぁ~ず げりらっパ」(名古屋テレビ)

レギュラーは、さまぁ~ず(大竹一樹・三村マサカズ)。

専門学校の生徒の前で講義をすることになった、さまぁ~ず。生徒から「格好いい大人とは何ですか?」という質問に答える大竹さん。

大竹「君、目指してる?格好いい男」
生徒「そうですね」
大竹「じゃあね、あの、『LEON(レオン)』っていう雑誌があるから、それ読みなさい」
(生徒爆笑)
大竹「そうすると大人の男、モテるオヤジが載ってるから」
三村「そういうこと?」

質問した生徒が考える格好いい大人のイメージを聞く大竹さん。

大竹「自分の思う格好いい男っては、どういう?」
生徒「自分の思うことをまっすぐ突き進んでいく、みたいな」
大竹「なるほどね……正解!」
(生徒笑)
大竹「ただね、その~、突き進むためにはいろいろ難しいんですよ、いろんな困難がやって来ますから、邪魔をするヤツね、それを跳ね除けてまっすぐ行くことは非常に難しいけども、とりあえず長くやってると何か良いことありますから、お金ないときありますけども」
(聞き入る生徒)
大竹「長くやることですよ、ただ!え~、そのためには、やりたくもない仕事もやんなきゃいけないね、そんなのばっかりですよ、僕たち、最終的にこうね、なんて言うんですかね~、じゃあコントやりたいとしましょう、でもコントなかなかやらせてもらえませんから、それをやるためには、え~、(マイクを持ってレポートする動作で)『この蟻は、なんて言う蟻ですか?』みたいな、蟻ばっかり映るような、ふふっ、『この蟻は何を食べるんですか?』みたいな、本意ではない仕事があるんですね、例えばよ、僕は好きでやりますけども」
(生徒笑)
大竹「そういうのをやりっ!『あっ、アイツ、蟻について真剣だな』みたいな、その、『姿勢が良いね~』つって、徐々にこう(コントができる場所に)辿り着いてくみたいなこともありますから」

「1つ1つの仕事を全力で丁寧にやれ、必ず誰かが見ていてくれる」に通じる話だ、と私は思いました。

大竹「『あ~、俺、蟻の取材やるためにこの世界に入ってきたんじゃないんだ』みたいな、そこで挫折しちゃダメなんです……ね、俺、良いこと言ったでしょ?」
(生徒笑)
大竹「いろんな困難ありますよ、それが15年かかるかもしれない、15年経ってなんかセンス的なもの落ちてきたんじゃねえか?俺、と、『お前、若い者には勝てないよ』って空気にもなってくるよ、俺もう40歳だけど、もう20歳の頃のセンスねえな、みたいな……今度はそれを技術でね、補っていくっていう、やってくるんだぜ……後は、『LEON(レオン)』読んで」
(生徒笑)

ウッチャンのアドバイスにしろ、大竹さんの話にしろ、体験から生まれた言葉だからこそ、深く心に突き刺さるのでしょう。