笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

恩田陸『夜のピクニック』に出てくる歩行祭を実際にやっていたバイきんぐ小峠

「今年の『アメトーーク』で一番好きな企画を選べ」と言われたら、ウォーキング芸人の回を私は選びます。

普段散歩しているので「アメトーーク」ウォーキング芸人は前のめりで視聴

2013年9月19日放送の「アメトーーク」。ウォーキング芸人。

司会は雨上がり決死隊(宮迫博之・蛍原徹)。
メンバーは土田晃之、ピース又吉、シャンプーハット小出水、オードリー若林、どきどきキャンプ佐藤、パンクブーブー黒瀬、エリートヤンキー橘、うしろシティ金子。

土田さんのリーダーとしての安定感、若林さんとサトミツの仲良しっぷり、さらに初登場で結果を残した金子さんなど、この企画が好きな理由はいくつもあります。

金子「僕はやっぱり若手なので、お金がなくて歩き始めたんですよ、きっかけは」
蛍原「電車賃がないから、とか?」
金子「そうです、あの~先輩とかとご飯に行ったら、先輩ってなんでか分かんないんですけど、ちょうど終電がなくなったぐらいのタイミングで、タクシーで帰ったりするじゃないですか」
(スタジオ笑)
土田「あはははっ! 誰それ? 松竹の」
金子「あの~、(よゐこ)濱口さんとかなんですけど」
土田「あ~」

最近引っ越した金子さんはウォーキング中に、ある楽しみを見つけたと言います。

金子「最近引っ越しまして、割と高級住宅地が近くにあって、このマンションは芸能人何人住んでんだろう? っていう」
蛍原「あ~」
金子「ここは1人は住んでるよな、ここはもしかしたら3人ぐらい住んでるんじゃないか、とか」
蛍原「うんうん」
金子「で、こないだ、ここは100人ぐらい住んでるんじゃないか!? ってとこ見つけて」
土田「(体を金子のほうに向けて)え~!」
蛍原「そんなとこあるの?」
金子「ここは芸能人100人住んでるんじゃないかってとこ見つけて、それはもうものすごいテンション上がりました」
蛍原「はははっ、なんやねん」

この話を受けて宮迫さん。

宮迫「分かるよ、蛍原さんも昔あったもんな」
蛍原「俺も一緒やわ」
金子「あっ、本当ですか!?」
宮迫「昔、恵比寿住んでるときな」
蛍原「もう絶対、ここ芸能人住んでるわ、絶対俺も売れて、ここ住む!」
金子「はい!」
蛍原「って思ってたら、後輩のナイナイの矢部がもう住んでてん」
(スタジオどよめく)
蛍原「『え~!』言うて」
宮迫「めっちゃ哀しい話やわ、ははははっ」
(スタジオ笑)
蛍原「後輩やで、後輩」

金子さんがエピソードを語ると、周りがそれを発展させていって盛り上がる場面が多くありました。特に土田さんの食いつきっぷりが印象に残りましたね。

ところで、「これが今年の『アメトーーク』で一番なの?」と疑問に思われる方も多いでしょう。全くもってその通りです。この企画を一番に選んだのは、私の趣味がウォーキングという非常に個人的な理由に過ぎません。近くに江戸川の河川敷があり、ウォーキングするのにとても適していて、録音した深夜ラジオを聞きながら歩くことがすっかり習慣になってしまいました。ちなみに私のスタイルは、体力づくりタイプの土田さんより散歩タイプの若林さんに近いです。

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「アメトーーク」は「この企画だったらこの芸人が呼ばれてもいいんじゃない?」とキャスティングを妄想してしまいがちです。余計なお世話なんですが、でもそれがこの番組の魅力のひとつだとも思います。ウォーキング芸人のときには、バイきんぐ小峠さんがひな壇に座っている姿を思い浮かべていました。

恩田陸の小説『夜のピクニック』を読んで感動したバイきんぐ小峠

2012年12月3日放送の「第278回 バイきんぐのラジカントロプス2.0」。

パーソナリティはバイきんぐ(小峠英二・西村瑞樹)。
聞き手は歌う放送作家・植竹公和。

バイきんぐは、小峠英二(ことうげえいじ)と西村瑞樹(にしむらみずき)が結成したソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)所属のお笑いコンビです。「キングオブコント」で圧倒的な優勝を果たした2ヶ月後に、この放送がありました。

植竹「これ西村君が書いてますけども、え~、小峠君がイベント好きという」
西村「あ~、あの~、アレです、『ホコウサイ』っていうのをコイツやってて」
植竹「『ホコウサイ』ってこれ、どういう字書くんですか?」
西村「歩く、行く、祭りです」
植竹「祭り? ふふふっ」
小峠「あるんですよ、『歩行祭』って祭りが」
植竹「あるんですって、自分でやってんだろ?」
小峠「いや、本当にあるんですよ」
西村「後輩を10人ぐらい集めて、夜中に出発して、4、50キロぐらい歩くんでしょ?」
小峠「はい」
西村「歩く旅をするみたいな」
植竹「へ~、どっからどこまで?」
小峠「まあ、湘南から東京タワーっていうのが、2回ありました」
植竹「軽く言わないでよ、その距離」
小峠「50キロです、16時間半かかりましたよ」
植竹「はははっ、それアスリートだって」
西村「正気の沙汰じゃないですよ」

そんな過酷なことをやる意味とは?

小峠「これは歩行祭つって、『夜のピクニック』っていうね、恩田陸の
植竹「小説ありますね、恩田陸さんの」
小峠「はい、恩田陸さんが書いた、本屋大賞を取った素晴らしい小説があるんです」
植竹「うん、知ってます」
小峠「その『夜のピクニック』の中で、この歩行祭っていうイベントが出てくるんですけど、どういうものかと言うと、実際にあった話らしくて」
植竹「うん」
小峠「ある高校で、修学旅行の代わりに、え~、高校1年生から高校3年生の全校生徒で、本の中では何キロやったかな? なんか80キロを、とりあえず全員でひたすら歩くっていう、1日かけて、したら、やっぱり当然メチャクチャしんどいわけですよ」
植竹「ええ」
小峠「今まで想像したこともないしんどさを味わうことになって、で、今までその~、経験したことのないしんどさなので、つい本音が出たりだとか、歩いてるときにね、今までクラスでいがみ合ってたヤツが打ち解けたりとか」
植竹「はいはい」
小峠「やっぱりちょっと、そういう感情の変化が起こるんですよね、それを見てて、『面白いな~、この歩行祭やってみたいな~』と思ったら、後輩もたまたまその『夜のピクニック』を読んでるヤツがいて、『あ~、じゃあ僕もやりたいです』みたいなので、じゃあやってみようか! っていうことで、始めたやつですね」
植竹「けっこう高尚な起源ですね、それ」
小峠「そうです、そうです」
植竹「へ~、恩田陸の『夜のピクニック』読んで」

小峠さんはこれまで4回ほど歩行祭をやったそうなのですが、想像以上のしんどさだったと言います。

歩行祭のあとのセンターマイクは遠い

小峠「めっちゃしんどいですよ! もう足がバッキバキで動かないんですよ、本当に」
植竹「ほぉ~」
小峠「で、歩行祭のあとは足が動かないじゃないですか、そのあと、歩行祭終了後にやっぱ芸人10人ぐらいいたら、そのままライブのヤツとかいるわけです」
植竹「ふふふっ」
小峠「そしたらもう大変ですよ、もう足動かないから、漫才師なんか舞台袖で待機してるじゃないですか」
植竹「うん」
小峠「で、センターマイク、舞台上に立つじゃないですか、もうそこに歩くまでがめっちゃ遅かったりするんです」
植竹「あはははっ!」
小峠「しんどくて」
植竹「なるほど」
小峠「後輩が名言残しましたよ、『歩行祭のあとのセンターマイクは遠い』
(スタジオ笑)

オードリーの漫才で、春日さんがゆっくり歩いて登場する姿が浮かびました。

夜のピクニック (新潮文庫)

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小峠さん主催の歩行祭のことをいろいろ調べていたら、参加していた後輩芸人のなかにアルコ&ピースの平子さんがいました。

バイきんぐ小峠主催の歩行祭にアルコ&ピース平子が参加していた

アルコ&ピースが太田プロに移籍する前は、バイきんぐと同じ事務所ソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)に在籍していたのです。そのSMA在籍時にやっていた平子さんのブログがまだ残っていて、そこに歩行祭のレポートがありました。そのエントリーからちょっと引用させていただきます。

2007年9月29日更新の「アルコ&ピース:低キロバトル歩行祭 (歩行祭前編)」。

バイきんぐの小峠さんの企画で『第1回・SMA歩行祭』が行われた。これは同事務所の中で、恩田陸著『夜のピクニック』に感銘を受けた芸人達で鎌倉~東京タワー間の50kmを夜通しかけて歩こうという企画である。


メンバーは小峠(バイきんぐ)、長谷川(マッサジル)、ジャック豆山(キラッキラーズ)、小田(桜前線)、新田(タンバリン)、市村(がっつきたいか)、メンチ(中央塗装)、ゆずき(ハッピーエンド)、夙川アトム、ラブ守永、そして僕を含めた総勢11人。

出発前。集まったメンバーの共通点を「爆笑オンエアバトル」の成績に求めて「低キロバトル歩行祭」と名付ける平子さん。

2007年9月29日更新の「アルコ&ピース:キリストの姿と重なった (歩行祭中篇)」。

横浜市に差し掛かかるくらいになるとマッサジル長谷川さんの眼が落ち窪み始め、桜前線の小田さんからはだみ声が消え、がっつき市村の直毛が萎え、ハッピーエンドゆずきの歯茎は血色を失い、ラブ守永の姿が黒いカマキリに見え、アトムは故郷神戸に想いを馳せ始めた。この鬱蒼とした雰囲気に包まれた様子を誰が芸人の集団だと思えるだろう。 唯一本を読んでいないのにもかかわらず強制参加させられた中央塗装メンチだけが、疲労の感慨に酔うことすら出来ずにただ歩を進めている。

歩行祭の中盤。披露困憊のメンバーたちを励ます小峠さん。

2007年9月30日更新の「アルコ&ピース:地獄足 (歩行祭後編)」。

スタートから15時間が過ぎた。“足が棒になる” “自分の足じゃないようだ” どんな諺や比喩も当てはまらない。 “地獄足”この言葉がしっくりはまる。 自分がアスファルトと同化する様な幻覚に惑わされ始めた頃、そびえ立つビルの間から真紅のゴールが姿を現した。東京タワーである。


「ウオオオオオオ」小峠さんの雄叫びに路上の警官がビクつく。途中で足を傷めた小田さんが鬼の表情でペースを上げる。新田さんの頭が禿げる。豆山さんの顔がヘコむ。長谷川さんの私服はダサい。市村は直毛。ラブ森永はカマキリ。ゆずきは歯茎。アトムは地味。メンチは馬鹿。 使い切ったハミガキを更に絞り出すが如く、各々が最後の力を振り絞った。


そして。歩行開始から16時間30分。僕等は東京タワーに着いた。そう、ゴールではなく、着いたのだ。当初想像していたゴールの風景などそこには無い。泣く者もいない。互いに抱き合う者もない。ましてや歓喜の声など上げようがない。ただ歩き、ただ着いたのである。

ついにゴール。雄叫びをあげる小峠さんは確かに怖いです。

恩田陸の小説『夜のピクニック』に出てくる歩行祭を実際にやってみる。端から見れば間抜けな行為かもしれません。しかしその間抜けさを笑いに変えられるのが芸人です。芸人が間抜けさを笑いに変える瞬間を目撃すると、私はなぜか勇気づけられます。ビートたけしの『間抜けの構造』をちょうど読んだばかりなので、そんな風に思いました。

間抜けの構造 (新潮新書)

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