笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

アンタッチャブル山崎「一般の人のお笑い感に当てて行きたい」

「昔はジャックナイフだった」。

これは「尖(とが)っていた」って意味なんですが、お笑い芸人のエピソードトークでよく耳にするフレーズです。今では想像もつきませんが、ザキヤマことアンタッチャブル山崎さんも昔はジャックナイフだったんです。

2010年の年末に開催された「ウッチャンナンチャントークライブ」。ゲストで呼ばれた山崎さんは、ウッチャンに「何でも聞いて下さい」と言いました。すると、こんな質問が。「ジャックナイフの時代は何がきっかけで、いつ終わったのか?」と。

お笑い第3世代に憧れて、無理してジャックナイフを演じていた

2010年12月28日開催「ウッチャンナンチャントークライブ2010~立ち話~」(恵比寿ザ・ガーデンルーム)

出演者は内村光良
ゲストはアンタッチャブル山崎弘也。

年末に3日間にわたって開催されたトークライブの2日目。ちなみに初日(27日)は南原清隆とキャイ~ン天野、最終日(29日)はウンナンの2人でした。

内村「そうだ、嫁さんも言ってたけどさ、よくほらテレビでさ、ジャックナイフの時代があったって」
山崎「あ~、そうですね、はいはい」
内村「で、嫁さんが不思議なのは、どうしてジャックナイフの時代から今に至ったのか?どこら辺で、このジャックナイフの時代が終わったのかを、すごい真剣に聞いてきたの」
山崎「どのぐらい……多分、始めて3、4年はジャックナイフなんですよ、いわゆるちょっと斜に構える」
内村「もうあんまりしゃべらないけど、言うときは100笑い取るぜ!みたいな感じだよね」
山崎「そうなんですよ、でも、そもそもね、高校行くときとか、もう野球部のときからコレ(ザキヤマ)だったんですよ

プロ野球選手を夢見て、高校に入学。ところが周りは不良だらけ。先輩が同級生をボコボコにしている場面を目撃してしまい、

山崎「ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!こんなの、野球上手くなる前に、殴られないようにしないと、っていう、なんでそっから」
内村「そこで培ったんだ」
山崎「そうなんです、それで、ですよ」
内村「あ~」
山崎「なんかほら、あるじゃないですか、悪い人っていうのはちょっと、面白いヤツはちょっと殴らない」
内村「はいはい、可愛がられる」
山崎「ちょっと重宝してくれるみたいな、なんで、3年間とりあえず殴られないように」

不良グループから面白いヤツと認められることで、拳を避けてきた高校3年間。それが芸人になった途端ジャックナイフになってしまったのは、ウンナン含むお笑い第3世代の影響だと言います。

山崎「高校卒業して、でやっぱ、ウッチャンナンチャンだ、B21スペシャルだ、ダウンタウンを見てる中、やっぱシャープじゃないですか、なんかその当時って、(両手を広げて陽気に)ワーイ!とかじゃなくて」
内村「うん」
山崎「なんかこう(後ろに下がり抑えめな声で)ウィッス……みたいなんで、笑いをやるのが、ちょっとオシャレみたいな」
内村「あ~」
山崎「なんで、むしろコッチの、高校で培ってきた俺を殺しながら」
内村「殺したんだね」

高校時代の自分を押し殺してジャックナイフを演じていた山崎さん。それを解放してくれたのは、くりぃむしちゅー有田さんでした。

くりぃむしちゅー有田と出した結論「ジャックナイフだと仕事がない」

内村「どこで解放したの(ジャックナイフを捨てたの)?もう解放しようって」
山崎「それはまあ、有田さんとかが……また結局、有田さんと話してると、このままじゃマズいんじゃないか?みたいな」
内村「ああ~」
山崎「尖がってても全然仕事がない、っていう」
内村「ふふっ」
山崎「(明るく)『尖がってると仕事がないね』って」
(会場笑)
山崎「尖がってていいのは、とんがりコーンぐらいだけだろ、みたいな」
(会場笑)
山崎「で、そういうなんか……そういうことじゃないんじゃないの?みたいな、多分まあ、内村さんとか、そういう『(気分は)上々』とかで仕事している上で、感じてきたことが、現場の報告が入るわけですね、僕に」
内村「うん」
山崎「その、住んでるとこに待ってるときに、有田さんが仕事終わって来て、大体、『今日こういうこと思ったんだけど……』みたいな、そういう話を聞いて」

仲が良すぎる山崎さんと有田さん。

山崎「『やっぱこのままじゃいけない』、『確かにそうっすよね~』みたいな、そんときになんかブワーッと来たわけですよ」
内村「うん」
山崎「『何をやってたんだ!?今まで』みたいな、無理して」
内村「何スカしてたんだ?と」
山崎「そうそうそう、それから、じゃあもう行っちゃえ!みたいな」
内村「あの高校時代に戻ろうと」
山崎「『それでもうダメだったら、しようがないっすね~』みたいな」

こうして徐々に、素の自分で勝負するようになっていった山崎さん。

加えて過酷な営業、柴田さんという最高のツッコミが相方であること、下積み時代から伊集院光さんの世話になったこと。そういった経験が、山崎さんを最強の芸人へと進化させていったのです。

過酷な営業を経験してきて「スベってチャラ、ウケてラッキー」の境地に

2013年10月21日放送「たまむすび」(TBSラジオ)

パーソナリティは赤江珠緒。
月曜日のパートナーはカンニング竹山。
ゲストはアンタッチャブル山崎弘也。

ザキヤマという愛称でバラエティ番組で大活躍中の山崎さんに、「スベる怖さはないのか?」と尋ねる赤江さん。

赤江「ひな壇ってね、皆さん一斉に、あの~才能ある皆さんがバーっと出ないといけないわけじゃないですか」
山崎「まあそうですね、うん」
赤江「で、こうスベったりウケたり、いろいろあるじゃないですか、そのときの瞬発力で」
山崎「はいはい」
赤江「心が折れる、とかいう瞬間ないですか?」
山崎「いや、もうないですね~」
赤江「もうないんですか?」
山崎「う~ん、いやだからなんて言うんですか、考え方としては、『スベってチャラ、ウケてラッキー』っていう考え方なんですよ」
赤江「あ、なるほど」
竹山「赤江さん、多分ね、経験だと思うんですよ」
赤江「ほぉ」
竹山「初めてひな壇座りだしたときはやっぱ怖いですよ、今も怖いんだけど、やりすぎちゃってるかなんかで、スベろうが関係ねえっていう」
赤江「は~」
山崎「そうなんですよ、竹山さんと初めて出会ったのが、よみうりランドっていう所で」
竹山「あはっ、そうだ」
山崎「スベったらバンジージャンプを飛ばされるっていう、地獄のような」
竹山「営業があったのよ」
山崎「営業ですよ、番組とかじゃなくて、一番スベっちゃった芸人がバンジージャンプしなきゃいけないっていう」
赤江「もうお客さんに見せるっていうだけの」
山崎「そう、お客さんに見せるだけなんですけど」
竹山「バンジージャンプ飛ぶのなんか、客なんか見てないよね」
山崎「一番大変なのが、お客さんがいないっていう」
(赤江笑)
山崎「だから見るべきお客さんがいないっていう、舞台の芸人しか見てないっていうような時代に比べればね、スベってバンジーがない、っていうだけでラッキー」
赤江「あ~、なるほど」
山崎「だからハートの強い世代だと思うんですよ」
竹山「いや、そうだよ」
山崎「だからお客さんがいる、誰かが見てくれてるだけでありがたいっていう」

そして、伊集院光さんとの出会いが、さらにハートを強くします。

伊集院光の無茶ぶりに耐えて最強の芸人に

赤江「伊集院さんとも仲が良いって伺いますよ」
山崎「伊集院さんなんて、仲が良いなんておこがましいですよ」
竹山「弟子みたいなもんでしょ」
山崎「もう本当になんにも仕事がない頃から、伊集院さんと……なんかその伊集院さんから、正直いろんなことされましたよ」
赤江「うん」
山崎「朝、いきなり来てロサンゼルス連れてかれるとか」
(スタジオ笑)
竹山「パジャマで行ったんですよ」
赤江「ええ!?」
山崎「そう、ここに今、プロデューサーがうなずいてる、このプロデューサーもグルですからね」
赤江「ははははっ」

伊集院さんに対しては、お世話になった感謝の気持ち半分、「何なんだ!あの人は」という気持ち半分だそうです。^^;

竹山「山崎がすごいのは、やっぱそういう無茶ぶりみたいのを、プライベートでいろいろされるわけですよ」
赤江「えっ、それプライベート?」
竹山「プライベートよ」
赤江「番組でもなく?」
竹山「じゃなくですよ、結構そういうのをずっとされると逃げ出す芸人とか、文句言う芸人が多いんだけど、それで文句言ったり逃げ出したら終わりなのよ」
赤江「あ~」
竹山「全部受け止めなきゃいけないんだけど、それをいろんな風に、有田さんから、伊集院さんからも、ず~っとやられてるのを全部耐えてクリアしたのがこの男なの!
赤江「すごいですね~」
竹山「だから最強なのよ、だからダメな若手怒るのよ」
山崎「だからできると思っちゃってるんでしょうね、自分で、やっぱその自分もできたんだから、みんなできると思ってイジちゃって、その無茶ぶりみたいのしてたら、意外とできない人が多いっていう」
赤江「いや、そうでしょう」
山崎「ははははっ」
竹山「ザキヤマ基準はきついんだよ」

「ロンドンハーツ」などで見せる執拗なイジりは、こういった背景があったんですね。

山崎「そうですね、確かに、そういうのがあるかもしれないですね、伊集院さん、有田さん」
竹山「でも本当は、このザキヤマのやり方を耐えられる芸人が若手にいたら、そいつは売れるよ
赤江「ほぉ~」
山崎「でも、竹山さんとか、耐えられてますからね」
竹山「後輩じゃないし売れてるよ!」
(スタジオ笑)
竹山「今が旬だよ!」
山崎「ははははっ!」

最後に直球な質問。山崎さんにとって笑いとは?

一般の人のお笑い感を知りたい、そこに当てて行きたい

山崎「これはもう難しいテーマですよね、どうなんですか?逆に竹山さんとかは」
(スタジオ笑)
赤江「パスですか?」
山崎「いやいや、逆にどうなんですか?」
竹山「え!?」
山崎「逆に赤江さんに聞きます?」
赤江「いやいや、それはちょっと、ふふふっ」
竹山「赤江さんは関係ない、お笑い芸人じゃないんだから」
山崎「聞いてみたくないですか?」
赤江「普通に楽しむものですから」
竹山「楽しむもんですよね」
赤江「そうです、そうです」
山崎「そうなんですか?ねえ、作家さんいらっしゃいますから」
(スタジオ笑)
赤江「作家さんに聞いてもしようがない」

ボケまくって質問をかわす山崎さん。

山崎「芸人だけがお笑いってモノを持ってるわけじゃないんです」
竹山「世の中全部お笑いがあるってことね、でも芸人のお笑い論を聞きたいわけだから」
山崎「いや、僕はむしろ、なんて言うんでしょう?芸人であるなら、芸人のお笑いとは?よりも、一般の人のお笑いを俺らが知りたいですよ、だからそこに当てて行きたいという
(おそらくいかにもボケますよって顔なのでスタジオ笑)
赤江「なんかまた、おかしな方向に」
竹山「今ね、偉そうなこと言ってるけど、なんにも考えてない」
山崎「あはははっ、良さげな雰囲気ありませんでした?今」
竹山「いや、良さげだったよ、良さげだけどお前の顔見て分かった、あ~、なんにも考えてない顔だ」
山崎「だから一般の、その全国民の方のお笑いとは?っていうモノに近い芸人が、仕事を得られるってことでしょ、芸人のお笑いとは?なんて関係ない
赤江「ふふふ、なんか……」
山崎「ははははっ」
赤江「なんかすごい力技」
竹山「これいい?赤江さん覚えといて、今のしゃべり方がコイツが見つけた!っていうしゃべり方」
(スタジオ笑)
赤江「本当ですね、力強いですね」
竹山「でも、ちょっとはあるかもしれないよ、一般の人のお笑い感って、どういうの持ってるのかな?テレビってさ」
赤江「うん」

良さげなことを言うボケをする山崎さんに、ツッコミを入れていく竹山さんと赤江さん。

そんな構図でしたが、私は、山崎さんの発言にはいくらか本音が含まれているとして受け取りました。なぜなら、高校時代に殴られないために、不良グループのお笑いに当てて行く作業を重ねてきたから。今は「不良グループのお笑い感」から「一般の人のお笑い感」に拡張された状態で、対象が持つお笑い感をすばやく察知して当てて行くことが、最強の芸人「ザキヤマ」の根っこだと思いました。

ザキヤマくんがくる?!

ザキヤマくんがくる?!