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笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

「あまちゃん」パロディで見た内村光良のスタジオコントにかける情熱

「LIFE!~人生に捧げるコント~」(2013年8月20日放送)で披露された「あまちゃん」のパロディコント。もちろんテレビの前に座ってリアルタイムで視聴しました。ただただ最高でした。

「LIFE!~人生に捧げるコント~」で「あまちゃん」パロディコント

LIFE!~人生に捧げるコント~」はNHKで放送している内村光良のコント番組です。そして「あまちゃん」は能年玲奈が主演を務めるNHKの連続テレビ小説。このドラマの脚本を担当している宮藤官九郎は、かつて「笑う犬」の構成作家でした。だから今回のパロディは両方ともNHKの番組ということだけでなく、内村光良と宮藤官九郎の縁もあって実現したわけです。
でも理由はそれだけではない。内村光良がスタジオコントにかける情熱をずっと失わなかったからだ。そう私は言いたいです。

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「笑う犬の生活-YARANEVA!!-」に込めた思い

1990年、フジテレビで「ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!」開始。
土曜夜8時に放送していたウンナンの冠番組です。スタジオコント中心で、マモー・ミモーなどの人気キャラクターを数多く生み出し、浅野温子・武田鉄矢主演のドラマ「101回目のプロポーズ」のパロディも話題になりました。しかし1993年に不幸な出来事があって打ち切りに。

この時期のテレビ界を見渡してみると、1992年に日本テレビで始まった「電波少年」のアポなしロケ企画が大当たりしていました。バラエティ番組は、スタジオコントからドキュメンタリーの時代になっていたのです。1994年に視聴率三冠王の座がフジテレビから日本テレビに移ったことが、その変化を象徴しているでしょう。

ところがウンナンにとってこれが追い風になります。日本テレビでやっていたドキュメントバラエティ「ウリナリ」の人気に火がついたのです。番組から誕生したユニットであるポケビ・ブラビは、NHK紅白歌合戦の出場を果たします。ちなみに「電波少年」を作った土屋敏男さんが、この番組の演出を担当していました。そんなドキュメントバラエティ全盛の世の中でも、ウッチャンはスタジオコントのこだわりを捨てていませんでした。

皆さんは覚えているでしょうか? 「ウリナリ」にコントライブのコーナーがあったことを。

2010年2月発売の『クイック・ジャパン vol.88』(太田出版)。

ウッチャンナンチャン20,000字インタビューから。

――『ウリナリ!!』ではドキュメンタリーだけでなく、途中からキャラクターコントのライブも始まりましたが。
内村 あれは私の意地です。五分でもいいからどうしてもやらせてくれって。
南原 内村の精神衛生上、どうしても必要な企画だった(笑)。

社交ダンスのような挑戦企画でも可能な限りキャラクターを演じていたウッチャン。それは「照れ」だけでなく「意地」もあったのかもしれません。

しかし、それでも満たされないスタジオコントへの思い。
飲みの席で一緒になったフジテレビの吉田正樹さんに、「深夜でいいからコントをやらせてほしい」と頼んだウッチャン。吉田正樹さんはその熱い思いに応えるのですが、番組タイトルを決める段階でこんなやりとりがあったそうです。

2010年7月発売の『人生で大切なことは全部フジテレビで学んだ ~「笑う犬」プロデューサーの履歴書~』(キネマ旬報社)。

P178から。

最終的に『笑う犬』に決めた時、ウッチャンに「これどう?」と尋ねたら、こんな答えが返ってきました。
「吉田さん、タイトルに”やらねば”って入れてください」
(中略)
新番組の正式タイトルは、『笑う犬の生活-YARANEVA!!-』に決まりました。

吉田正樹さんは「ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!」のプロデューサーでした。
1998年に始まった「笑う犬の生活-YARANEVA!!-」。ここでもミル姉さんや小須田部長など多くの人気キャラクターが誕生。ゴールデン昇格も果たしました。時代の流れに逆らう形で始まった「笑う犬」は十分結果を残して、2003年にその役目を終えました。とはいえ「笑う犬」の後期は明らかに疲弊していて、毎週レギュラーでスタジオコントを続けていくことが今の時代いかに困難かを示していたのも事実です。お金も時間もかかって効率の悪いスタジオコントは、もはや積極的にやる理由がなくなっていました。

ところがです。それに挑戦するテレビ局が現れました。NHKです。
2004年、「サラリーマンNEO」開始。
作家として参加していた内村宏幸さんが、番組立ち上げの経緯をラジオで語っています。これがとても興味深い内容だったので紹介させてください。

人生で大切なことは全部フジテレビで学んだ ~『笑う犬』プロデューサーの履歴書~

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フジテレビ「笑う犬」魂を継ぐNHK「サラリーマンNEO」

2010年1月16日放送の「第125回 内村宏幸のラジカントロプス2.0」。聞き手は放送作家・植竹公和。

会話に登場する人物の「内村」は、ウッチャンのいとこで放送作家の内村宏幸さんのことです。通称「あんちゃん」。植竹さんが「サラリーマンNEO」立ち上げの経緯について聞いていきます。

植竹「NHKとしてはさ、オシャレ感というか、つまり『お江戸でござる』とか」
内村「はいはい」
植竹「ああいうのって、いわゆるその、演芸コントの流れですよね」
内村「はい、そうですね」
植竹「ところがこの『サラリーマンNEO』っては全く違う体質のモノ」
内村「はい」
植竹「これ一体、立ち上げの経緯ってどういうことだったんですか?」
内村「あの~、一番最初2004年だったと思うんですけど、まあNHKの、今ディレクターをやってらっしゃる吉田(照幸)さんというNHKの方がいらっしゃって、その方が『NHKらしくない番組を、コメディをやりたい』と言うので、そもそも企画を立ち上げて」

この吉田照幸さんが「サラリーマンNEO」の生みの親です。

内村「立ち上げ時の(NHKの)プロデューサーの方の、大学の後輩がですね、フジテレビの『笑う犬』をやっていた小松君」
植竹「ああ、小松純也さんですね」
内村「はい、という繋がりがあって、小松(純也)君がNHKのプロデューサーから『コントを書ける作家を紹介してくれ』って言われて、僕のところに話が
植竹「あ~、あんちゃん、その『笑う犬』をね」
内村「やってましたんで」

小松純也さんの紹介で、NHKのコント番組に参加することになった内村宏幸さん。しかし大きな問題が……。

NHKのスタッフにスタジオコント経験者が誰もいなかった

植竹「なんでもその、NHKの担当の方がですね、お笑いをやってきたことがなかった?」
内村「そうなんですよ、だからそういう演芸番組はありましたけど、ちゃんとした……ちゃんとしたというか、正統コント番組っていうんですか」
植竹「うん」
内村「いわゆる民放でもやってるようなのは、誰もやったことがない」
植竹「その吉田(照幸)さんとか、プロデューサーの方も?」
内村「はい、誰も」

スタジオコント経験者は内村宏幸さんのみ。

内村「あの~、だから僕しかいなかったんですよ、コント番組をやったことあるのが」
植竹「つまり、経験値を持ってるのが」
内村「そうなんですよ、本当にスタッフさんも、カメラさんも、照明さんも、美術さんも、コント番組がどういうものか分からなくて」
植竹「うん」
内村「そこからですよね、コント番組とはどういうものかっていうを」
植竹「レクチャーして」
内村「みんなの意思統一というか、例えは変ですけど、未開の地に野球を教えに行くみたいな」
植竹「あはははっ!」
内村「ふふっ、『これがグローブですよ、打ったら一塁に走りますよ』みたいな感じですよね」
植竹「ほぉ~」
内村「本当に探り探り」

あんちゃんによって「笑う犬」魂が「サラリーマンNEO」に注入されていきます。

植竹「また真面目ですからね」
内村「本当そうなんですよ、だから本当に最初のころは話し合って、民放だとよくスタッフの笑い声が入るじゃないですか」
植竹「はいはい」
内村「それを笑うのか? 笑わないのか? みたいな会議も」
植竹「ははははっ!」
内村「『これはどうしましょうか?』と」
植竹「真面目だ!」
内村「ふふっ、NHKであり得ないじゃないですか、そういう番組、今まで」
植竹「うん、ないない」
内村「スタッフの笑い声が入ってるの」

まるでコントのような会議です。

植竹「僕が感心してるのは、ご経験がないっておっしゃってるけど、おそらくね、センスが元々あるんだな」
内村「そうですね、あと、ものすごく研究されてて」
植竹「勉強してる」
内村「あの、元々好きだった、『笑う犬』もよく見てたし、ものすごく本とか」
植竹「ええ」
内村「映画を見るのももちろん好きな方で、ものすごく研究してらっしゃいましたね」

経験はなくても情熱はあったNHKのスタッフ。

大河ドラマ撮影スタッフ参加やシーズン制導入といったNHKならではの強み

内村「あの~、驚くのは、NHKで初めてだったんですけど、毎回来るスタッフさんが変わるんですよ」
植竹「えっ?」
内村「収録のたびに」
植竹「ウソでしょ!?」
内村「シフトがあって」
植竹「そうなの?」
内村「そうなんです、だから固定のスタッフってのがあんまり……」
植竹「え~!」
内村「これがまずビックリしたんですけど、なので、そのときに空いてるのか分かんないですけど、もちろん希望してやってもらう方もいますけど、ほぼあんまり固定できないっていうか」
植竹「それは大変だな~」
内村「チーフカメラマンぐらいは多分固定してると思うんですけど、サブのカメラマンとかは変わってたりするんですよ」
植竹「だけど、ずっと見てるけどそんな……ちゃんと一貫性はあるよね」
内村「そうですね」
植竹「ブレがあんまり感じないのは」
内村「でもね、よ~く見ると、最初の年とシーズン4、去年のやったシーズン4を見ると、明らかに照明とか違ったり」
植竹「へぇ~」
内村「で、NHKのすごいとこだと思うんですけど、カメラマンが大河(ドラマ)を撮ってる人とか
植竹「ウソでしょ!?」
内村「そういうとこから来るんですよ、あと照明さんもドラマをやってた人とか、そういうNHKでは大御所と言われる人とかが、コント番組に来て」
植竹「だからか! あの一種の味が出てるわけだ、らしさが」

そこから醸し出される大仰さがコントの笑いに繋がっていると解説する植竹さん。

植竹「あれですって? その、シーズン制っていう編成」
内村「はい、これは多分、日本で初めてだと思うんですけど」
植竹「うん」
内村「でもまあ海外ドラマでは当たり前になってるんですよね、『24 -TWENTY FOUR -』とか、『プリズン・ブレイク』もそうですけど」
植竹「そうか、そうか」
内村「シーズンなんとか、って必ずあるじゃないですか」
植竹「うんうん」
内村「で、コント番組って、ずっと毎週続けているとどうしても疲弊が早いんですよね
植竹「そうだね」
内村「ネタ切れというか同じことをやってるんで、それをまずやっぱ、吉田(照幸)さんの考えで避けたいと、長くやれる番組にしたいっていうんで……これも多分、NHKだからできると思うんですけど、半年やって半年休んでっていう
植竹「ぜいたくだなぁ」
内村「ぜいたくです」
植竹「その間、書きためると」
内村「そうです、そうしないと見てるほうも飽きてきますしね」
植竹「なるほど~」
内村「作るほうも大変ですし、これもNHKでしかできないなと」

真面目で研究熱心なNHKのスタッフは、スタジオコントの作り方を内村宏幸さんから吸収。さらに大河ドラマの撮影スタッフが番組に関わったり、シーズン制を導入したりと、NHKならではの強みも加わって「サラリーマンNEO」は人気番組に成長しました。

発想をカタチにする技術 新しさを生みだす“ありきたり

発想をカタチにする技術 新しさを生みだす“ありきたり"の壊し方

「サラリーマンNEO」の生みの親・吉田照幸は「あまちゃん」の演出を担当

「サラリーマンNEO」の成功があったから、「松本人志のコントMHK」や「七人のコント侍」などのスタジオコント番組が生まれ、そして「LIFE!~人生に捧げるコント~」に繋がったんだと思います。かつてはスタジオコント不毛の地だったNHKが、今では「スタジオコントといったらNHK」と言っても過言じゃないぐらいの充実ぶりです。
ここまでの流れを整理して、「ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!」→(やらねば=YARANEVA)→「笑う犬の生活-YARANEVA!!-」→(生活=LIFE)→「LIFE!~人生に捧げるコント~」と線で結んで、連続性を見出すのは妄想が過ぎるでしょうか。

また「サラリーマンNEO」の生みの親である吉田照幸さんは、現在「あまちゃん」の演出をされています。そういった縁も、今回の「あまちゃん」パロディ実現を後押ししたことでしょう。もしも「あまちゃん」でNHKらしくない場面が出てきたら、それは吉田さんの演出かもしれませんね。

最後に、先ほどの『クイック・ジャパン』のインタビューをもう一度。
ウッチャンが「笑う犬」を始めると聞いたときの気持ちを、ナンチャンは次のように語っています。

ウッチャンがスタジオコントの情熱を失わずにいられたのはナンチャンがいたから

2010年2月発売の『クイック・ジャパン vol.88』(太田出版)。

ウッチャンナンチャン20,000字インタビューから。ウッチャンが「笑う犬」を立ち上げると聞いて、

南原 『ウンナンのホントコ』(TBS、九八~〇二年)が始まった頃なんですよ。じゃあ僕がもうちょっと『ホントコ』に力入れるわ、だから内村は『犬』頑張ってって感じでしたね。
――内村さんだけがコントをやってる状況を寂しく感じませんでした?
南原 彼は『ウリナリ!!』時代、ずっとスタジオコントやりたいのをガマンしてましたから、できてよかったんじゃない?と思ってましたね。僕は僕で、『ホントコ』を軌道に乗せなきゃいけないという気持ちがあったんで。

コンビ愛を感じずにはいられません。
ウッチャンがスタジオコントの情熱を失わずにいられたのは、ナンチャンがいたからなんだ。グッときます。
「俺は地元に残ってウニを取るから、なにも心配するな内村、お前は上京してアイドル目指せ!」みたいな……

クイック・ジャパン88

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  • 作者: ウッチャンナンチャン,出川哲朗,勝俣州和,高須光聖,鈴木おさむ,マツコ・デラックス,ドラえもん,爆笑問題,仲里依紗,長尾謙一郎,西島大介
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