笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

すごい技術を持ってても時代が振り向いてくれないと意味が無い

タイトルは、AKB48のプロデューサーである秋元康さんの言葉です。

放送作家の鈴木おさむさんとの共著『天職』の中で、実力があるのに世の中に出ていけないお笑い芸人について聞かれたときに、こう言っていました。そして、秋元さんは、成功するには才能よりも運が勝り、

運が98%、あとは1%の汗と1%の才能

だ、と言います。

私がこの本を読んで、最近「時代が振り向いたお笑い芸人は誰だろう?」と想像して浮かんできたのは、アルコ&ピースでした。

「THE MANZAI 2012」で時代が振り向いたアルコ&ピース

2013年3月1日放送「よんぱち 48hours」(TOKYO FM)

パーソナリティは鈴木おさむ。
アシスタントは柴田幸子。
ゲストはアルコ&ピース(平子祐希・酒井健太)。

ブレイクのきっかけとなった「THE MANZAI 2012」。しかし、ここで結果が残せなかったら間違いなく芸人を辞めていた、と語る平子さん。

平子「あの、もう今回の『THE MANZAI』で、決勝で結果を残せなかったら、100%僕辞めてました」
酒井「ははははっ、そうだったんだ~」
鈴木「あっそ~、良かったね~」
平子「それで、ドッキリでカメラが入ってきて、『ファイナル(決勝)残りましたよ』っていうので、僕初めて人前で泣いちゃったんですよね」
鈴木「あれはリアルだったんですね」
平子「はい、あれガチガチのリアルです」

今の活躍を見ている状態で、この話を聞き返すとゾッとします。

で、結果を残せたのは、有吉さんの影響もあるという話に。

有吉弘行からヘビ柄の財布を譲ってもらう

鈴木「太田プロじゃないですか」
酒井「はい」
鈴木「劇団ひとり、有吉、柳原可奈子、ツッチー、いっぱいいますけども」
酒井「はい」
鈴木「え~、有吉君からヘビ柄の財布をもらったの?」
平子「僕ら、なんか有吉さんにすごいよくしてもらってて」
酒井「そうなんですよね」
平子「で~、僕あの、年末にですね、4万円入りの財布が楽屋泥棒にあってしまったんです」
柴田「え~」
酒井「給料日の翌日とか、翌々日ぐらいに」
平子「で、もう生活費を全部嫁に渡して、それでなんか、いろいろしてかなきゃいけないって流れで」
鈴木「ひどい、うん」
平子「その4万円は、1歳半を迎えた息子を、初めてのディズニーランドに連れて行く費用だったんですよ」
柴田「うわ~」
酒井「あははははっ!」
鈴木「悲しい~、悲しすぎる!」

楽屋泥棒ってまだいるんですね。

平子「有吉さんにその話をしたところ、ゲラゲラ大笑いされて」
鈴木「うん」
平子「そしたら、その2日後ですかね、仕事で一緒になったときに、『コレで連れてってやれ』って、あの~、チケット代全部補填してくれて」
鈴木「ほぉ!」
平子「そんときに僕が受け取りやすいように、『この、くされ貧乏芸人が!』っていう」
酒井「優しさですね」
鈴木「お~」
平子「で、また後日、まあお金ないんで財布も買えないですし、『お前、財布買ったのか?』と、『いや、まだ買えてません』と」
鈴木「うん」
平子「『じゃあ、俺が2年前まで使っていた財布やるわ』と、あの~、『当時ちょっと俺が忙しくなり始めた時期だし、ヘビ柄だし、ちょっと縁起いいんじゃねえか』って言って、財布いただいたんですよ、結構良い物だったんですけど」
鈴木「うんうん」
平子「それをもらった次の週ですね、『THE MANZAI』でファイナルに残らせてもらったのが」
柴田「わぁ~」
鈴木「へぇ~!すごいね~」
平子「オカルト的な話あんまり信じないですけど、ああいうやっぱパワー持ってる人ってね、そういう押し出しがあるのかな?ってちょっと思いましたね」
鈴木「あの、芸人の財布もらうあるある、ありますよね」
酒井「ありますね、代々受け継がれて」
鈴木「そう、いろんな芸人さんが、売れてる先輩の財布を引き継いでね、誰々の財布もらってるってね」
柴田「(カラテカ)入江さんの本(『後輩力』)にも書かれてましたね」
鈴木「そうそう、入江の本にもね」

こうして無事、親子でディズニーランドに行けた平子さん。そこで撮った写真を有吉さんに送ったそうです。

曲を挟んで後半パートに突入すると、アルコ&ピースをゲストに呼んだのは理由がある、と鈴木おさむさんは言います。

「THE MANZAI」の審査員をやって秋元康の偉大さを知る

鈴木「そうだ、アルコ&ピースに話そうと思ってたことがあって」
酒井「なんですか?」
鈴木「自分をちょっとね、まあ反省してるわけじゃないんだけど、『THE MANZAI』のときに、こんなこと言ったらアレだけど」
酒井「はい」
鈴木「最初のAブロックが、え~、勝ち抜いたのがハマカーンだよね、で、あんときにオジンオズボーンね、大爆笑だったじゃん」
平子「はいはい」
鈴木「ハマカーンもすごかったよね、だけど、俺は単純に笑いの量も含めて、オジンオズボーンに(投票)したの、で、俺と国民ワラテンだけだったの」
酒井「はい」
鈴木「でも結構、実は審査員も悩んでたの、すっごい悩んで、悩んだ結果、オジンオズボーンは俺とその(国民ワラテンの)2票しか入ってなくて、本当微妙な差」
酒井「はい」

そして、ファイナルラウンドの審査。ハマカーン、千鳥、アルコ&ピースの3組から選ぶとき、

鈴木「漫才的には、まあ確かにハマカーンだったと思う」
平子「そうですね」
鈴木「だけどやっぱり、あそこであの(巻物を取りに行こうとしたら叱られる系の)ネタをもう1回やるということのセンス、ってことに対して、すっごい俺はアルコ&ピースに入れたかったの」
平子「あらっ」
酒井「嬉しいな~」
鈴木「で、入れたかったんだけど、ここからがまあアレで、要は最初にオジンオズボーンに入れたときに、俺と国民ワラテンしかなかったから、ふふっ」
平子「はいはいはい」
柴田「あ~」
鈴木「ちょっと日和った自分が出てきて」
平子「ははははっ」
鈴木「でも、やっぱり自分のセンスも出す場じゃない、審査員としてね」
平子「はいはい」
鈴木「俺なんか、放送作家で一番若くて呼ばれてるんだけど、アルコ&ピースに入れたかったけど、1人だったらどうしよう?って」
(スタジオ笑)
酒井「葛藤が」
鈴木「葛藤があって」
酒井「ははははっ!」
鈴木「それで俺はやっぱり、その~漫才というクオリティ、『THE MANZAI』だからな~と自分を納得させて、(ハマカーンに)入れたんですよ」
平子「はい」
鈴木「そしたら!秋元さんが、アルコ&ピースにドーンと入れたんですよ
酒井「はい」
鈴木「したら、やっぱり俺がず~っと秋元康さんを抜けない理由がここにあるな、と思って」
(スタジオ笑)
鈴木「もうやっぱ秋元さんはブレない、すごい」

冒頭で紹介した本『天職』でも、鈴木おさむさんはこの話をしていて、秋元康さんがアルコ&ピースに投票した理由を聞いています。

天職に就いている人の共通点

秋元康・鈴木おさむ『天職』(朝日新書)

P68から。

鈴木「決勝のネタのクオリティーもわかった上で、発明したことに秋元さんはポンと票を入れられるんですよ。僕はそういう意味では、ちょっと日和ったかもしれない。オジンオズボーンから引きずっちゃって(笑)。」
秋元「自分の好きなものを選ぶとみんなと違っちゃうんだよね。

本の中で、秋元さんはこうも言っています。

運をつかむには自分が「おもしろそうだな」と思えるかどうかが一番重要だ、と。