笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

劇団東京

今年4月から始まったラジオ番組「アルコ&ピースのオールナイトニッポン0(ZERO)」。

私は、毎週欠かさず聞いています。と言っても、放送時間が平日の午前3時~5時なので、録音したのを後日聞くっていうスタイルなのですが。昔で言うオールナイトニッポン2部と同じですね。ちなみに、アルコ&ピースは、平子祐希(ひらこゆうき)と酒井健太(さかいけんた)が結成した太田プロ所属のお笑いコンビです。

このラジオはポッドキャストも配信しています。本放送とは別に収録していて、学生時代の切ないエピソードをテーマに語り合ったりしています。

アルコ&ピース平子、小学6年生のとき危うくクラスのボス的存在になりかける

2013年7月18日放送「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」ポッドキャスト(ニッポン放送)

パーソナリティはアルコ&ピース(平子祐希・酒井健太)。

最初に、ポッドキャストの趣旨と今回のテーマをおさらい。

平子「ということでね、ポッドキャスト、なんとなくの流れでね、学生時代のお話なんかね」
酒井「そうですね」
平子「イケてないグループに入ってる面子が我々のリスナーには多いということで、まあ我々自身もそうだったということで、そんな話をしておりますが」
酒井「うん」
平子「え~、今日の、募集しましたメールテーマがこちら、『あなたのボス、どんな人でした?』」
酒井「めっちゃ楽しみだな、これ」
平子「ね、まあいろいろ番長的な人もいれば、全体を取りまとめてるようなね、カリスマ性のある人なんかもいたと思いますが」

リスナーから送られてきたメールを紹介しながら、学生時代のエピソードを披露していくアルコ&ピース。この放送を取り上げたのは、平子さんが小学校6年生のときに起きたある事件が、私に強い印象を残したからです。

平子「小6のときにさ、いつも通り放課後、なんの意味もなく、そのボス的なヤツが俺を殴ってきたのよ」
酒井「おお」
平子「で、キレるともまた違うんだろうけど、手が勝手に動いちゃって、防御しようとしたのか分かんないけど、パンチが顔面に入っちゃったの、ボスの」
酒井「ほぉ」
平子「で、『わっ、やっちまった!』ってなるじゃん、こっちは、だけど俺、腕力は強いからすげ~効いたの、クラクラ~ってなってたの」
酒井「うん」
平子「あっち(ボス)も多分、攻撃はするけど、攻撃される側としては慣れてなくて」
酒井「うんうん」
平子「思いがけない攻撃だから、多分カウンターみたいに入っちゃったみたいで」

小学生の平子さんは次の攻撃を恐れて、とっさにボス的存在の同級生にヘッドロックを決めます。腕力だけは強いもんだからボスは抜け出せません。このままねじ伏せて下克上か?と思いきや、

平子「だけど、俺がヘッドロック決めながら思ったのは、『俺、なんでボスにこんなことやってんだろう……』」
酒井「くふふふっ」
平子「俺みたいな立場のヤツがボスにこんな攻撃しちゃダメだし、もしこれで万が一勝つようなことがあったら、明日からこのバランスが崩れて、その先どうなるか分かんない……その恐怖が先に立って」
酒井「あ~」
平子「でも手離したら攻撃される、それも怖いから、俺ぼろぼろ泣き始めて」
酒井「あはははっ!」
平子「周りクラスのみんな見てんのよ、ヘッドロック決めてるほうがぼろぼろ泣き始めて、『先生に言うからな!先生に言うからな!』」
(スタジオ笑)
平子「俺の腕力の勝利じゃなく、チクることに対する敗北にしてくれ、っていう提案をしたの俺は」
酒井「あ~、すごいな~」

それを察したのか、ボスは「分かった分かった!もうやんねえからチクんねえでくれよ!」と。その言葉を聞いて、平子さんはヘッドロックを解除。

平子「次の日から、またお互い同じ、前日までと同じ立場で」
酒井「あ~」
平子「こっちは殴られる側、向こうはボス的な立場としての……役割を続けたっていうね」
酒井「悲しきモンスターみたいだな、すごいね」
平子「なんか(クラスのバランスを)崩しちゃいけないって思った、で、向こうもそれを悟った」

ボス的存在になるだけの素質を自分は持っていない。子供の頃からそれを知っていた平子さん。でも、その自覚がなかったら、

酒井「だって、絶対違ってるもんね、平子さんとかさ、そのまんま(ヘッドロックでボスを)つぶして、そのカーストのトップに立ってたら
平子「うん」
酒井「全然違うことやってる……」
平子「全然違うと思う、地元で就職してたと思う、多分
酒井「ははははっ!」
平子「その流れそのままに」
酒井「ホントだよね、ふふふっ」
平子「地元を守る立場になってたと思うよ」
酒井「はぁ~、そうだよね~、面白いね」

平子さんは福島県いわき市出身。私は東京生まれ東京育ち。

ですが、「学校のボス的存在になっていたらそのまま地元に就職していた」という流れが、すんなりイメージできたんです。それは、ちょっと前に放送した「東京ポッド許可局」の上京論を聞いていたから。

クラスの中心人物は地元でスターだから上京する必要がない

2013年6月28日放送「東京ポッド許可局」(TBSラジオ)

パーソナリティはマキタスポーツ、プチ鹿島、サンキュータツオ。
テーマは「上京論」。

東京生まれ東京育ちのサンキュータツオさんが、上京経験者に質問します。

サンキュータツオ(以下タツオ)「僕ね、東京生まれ東京育ちなわけですよ、30年以上いて、本当につい最近まで、地方から東京に出てきてる人たちの、重さというか」
マキタスポーツ(以下マキタ)「うん」
タツオ「心意気というか、決意みたいなモノっていうのを、あまりこう感じてこなかったんですよね」
プチ鹿島「マジで?分かんないもんか、やっぱり」
タツオ「いや、大学入学みたいなのにかこつけて出てきて、そのまま東京にいるみたいなパターンの人が多かったので」
プチ鹿島「はいはい」
タツオ「ただ意外と、18(歳)で高校卒業して東京出てくる、とかそういう人たちもいるじゃないですか、ね、お二人も、マキタさん山梨で、鹿島さん長野でしょ」
プチ鹿島「はい」
タツオ「意外とこう、地方から東京出てきた人たちもこの世の中には多いと思いますし、また地元に帰った人ってのもいると思うし」
プチ鹿島「そうだね」
タツオ「あと、僕いままで考えたことなかったんですけど、東京に出ようか出まいか迷って、地元に残ってる人ってのもいるわけじゃないですか」
プチ鹿島「うん」
タツオ「これ、どうなんすかね?地方の中で、東京出る人ってどういう人種なんですか?」

マキタさんが疑問に答えます。

マキタ「漠然としたイメージを言っていい?東京って、土地じゃないような気がするんですよ」
プチ鹿島「うん」
タツオ「土地じゃない?」
マキタ「土地よりも道、みたいな」
プチ鹿島「道?」
マキタ「通り道、みたいなイメージっていうんですか、たまさかそこにステイ(滞在)しているってだけの話であって、なんか東京で生まれ育った人たちも、あなたみたいにいるかもしれないけど、土地とか、そういうネイティブなもんとかじゃない」
タツオ「あっ、最終的には老後は地元に戻る的な?」
マキタ「戻るかもしれないし、別にここ(東京)は何かを演じている、たまさか集合している、なんかもっと本当に上位概念というか」
タツオ「劇団東京ってこと?」
マキタ「うん、みたいな感じであって、別に住むとこでもないし、次元がやっぱちょっと違う場所のような気がする」

「劇団東京」という表現がしっくりくる会話があとで出てきます。

タツオ「東京出てくる人って、地方ではマイノリティ(少数派)なんですか?マジョリティ(多数派)なんですか?どっちなんですか?」
マキタ「いや、マイノリティだと思うけどな、あの~、地元の感じで言うと、俺の生まれ育った環境で言うと、東京に出てきた人は、ほとんどが山梨帰ってる」
タツオ「マジで?」
マキタ「うん」
プチ鹿島「あと意外と、最初からメジャー、いわゆるクラスの中で上位の人はもう東京出るまでもなく、そこ(地元)でもうスターですから、そのまま残ってるパターンありますよね
タツオ「(驚いた様子で)そうなんだ~!」
マキタ「そうそうそう」
プチ鹿島「むしろ、桐島(映画『桐島、部活やめるってよ』)でいう映画部みたいな、いつかこのやろう……みたいなのが、東京行って清算してデビューする、みたいな考え方は、少なくとも僕らの時代からある、もっと前も当然あったと思うけど」

私も東京生まれ東京育ちなので、タツオさんと同じような驚きがありました。

で、先ほどのアルコ&ピース平子さんの話です。もし小6のときにボス的存在になっていたら、そのまま地元に残って就職していただろう。その意味を、プチ鹿島さんが見事に解説してくれました。さらに、

プチ鹿島「地元では冴えない、クラスの中心人物はもうスターいますけど、それとは別で、自分は東京とか行って頑張って、いつか凱旋できたらいいな~みたいな、中くらいのトコにいるからこそ抱く夢ってありましたよ、だから本当トップのヤツは行かなかったですよね」
タツオ「マジで!?」
プチ鹿島「だって、そこにもうコミュニティがあるんだから、自分を中心とした」

もちろん、東京に行くしかないジャンルもある。

プチ鹿島「ま、もちろんね、その音楽とかお笑いにしろ、そこに行くしかないモノって、そりゃ東京にあるから、それとはまた切り離して、でもやっぱり東京行って、『変身するんだ』みたいな変身願望は、持たざる者だったからこそ、あったのは確かですよ」
タツオ「えっ、やっぱ東京出てくる人ってみんな変身してるんですか?ある程度」
プチ鹿島「願望」
マキタ「だって、方言があるからね」
タツオ「そうか、使ってる言葉がもう違うか、お芝居だ」
マキタ「いわゆる標準語っていう、架空の標準語ってモノをとりあえず使うわけじゃない」
タツオ「劇団東京だ、もう本当に」
マキタ「うん、だから俺はものすごく確実に演じたよ」