笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

スピードワゴン小沢がキングコング西野に送ったアドバイス

「M-1グランプリ」が懐かしくなって録画を見返すことがあります。
特に予選大会の裏側を追った直前番組を。もがき苦しみながらM-1ドリームを目指す漫才師の姿は、今見ても感動を覚えます。

2007年の「M-1グランプリ」は、敗者復活から勝ち上がったサンドウィッチマンが優勝するという劇的な幕切れでした。この大会の特徴として、すでにテレビで活躍している漫才師が多く参戦したことも挙げられます。直前番組ではそこに注目して、あるコンビに密着していました。
ちなみに2007年大会の決勝進出者はネタ順に、笑い飯、POISON GIRL BAND、ザブングル、千鳥、トータルテンボス、キングコング、ハリセンボン、ダイアン。そして、敗者復活からサンドウィッチマンでした。

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「M-1グランプリ」に出ないままテレビの仕事をしている後ろめたさ

2007年12月23日放送の「M-1グランプリ2007直前SP 頂上へ!漫才戦士4239組の激闘」。

予選1回戦の会場に、かつて2年連続決勝に進出したスピードワゴンの姿がありました。さらに、ゴールデンタイムに冠番組を持つオリエンタルラジオもいます。なぜ「M-1グランプリ」に帰ってきたのか尋ねると、

スピードワゴン小沢「もともとネタをやりたくてこの世界入ってきたのに、最近ネタをやることがなかったから、おやおや?と、だからネタをやりたくて」
オリエンタルラジオ中田「本業がなんなのかっていうのが多分あると思うので、(本業である漫才を)忘れないようにしたいなって思って、出ましたね」

同じような想いを持つ漫才師がもう一組いました。それはキングコングです。3年ぶりに帰ってきた理由を彼らにも聞きます。

梶原「去年のM-1がデカかったかなぁ?」
西野「ですかね」
梶原「悔しくて、テレビ見てて」
西野「去年のM-1のあいだに、CMで僕らが出てたんですよ」
梶原「そうそうそう」
西野「アレがね、すんごい嫌やったんです、何してるんだ? と思って、先輩方が頑張ってるのに我々みたいなんが……っていうね」
梶原「うん」
西野「若干のやっぱり後ろめたさもあるんですよね、M-1に出ないままテレビの仕事をしちゃってるのもちょっと、それもあるんですよね」

この時期の「M-1グランプリ」が、テレビで活躍中の漫才師にとって無視できない存在であったことがよく分かります。

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キングコングがこの年の大会で決勝進出したこともあって、番組は彼らに密着します。居酒屋的な個室でくつろぐ2人。

梶原「見てられへんかったもんな、やっぱりオンエアとか」
西野「見てられへんのですよ、やっぱ自分が勝負してへんから」
梶原「でまた、我々が1年目とかで頑張ってるときに、舞台で一緒になった人たちがね、M-1をどんどん獲っていくんですよ、チュートリアルさんしかり、ブラマヨさんしかり、フットボールアワーさんしかり……悔しくてね、なんか」
西野「ちょっとツッパってるところあったかもしれませんね、M-1以外でこう、行ってやろうみたいな」
梶原「あったなぁ、でも西野は多分ちょっと出たかったと思いますよ、俺が若干逃げてたんちゃうかな、と」

「M-1グランプリ」は芸人のドキュメンタリー番組でもあった。こういう熱い話に今でも興奮してしまう私は、そう思うわけです。

「M-1グランプリ」は行きたい気持ちが強い順に受かる

場面は、予選3回戦が行われる「ルミネtheよしもと」。準決勝進出を賭けた真剣勝負の場です。実力者が揃う控え室の脇で、スピードワゴン小沢さんとキングコング西野さんが何やら会話をしています。ちなみに小沢さんが先輩になります。

西野「初めてです、こんなに……」
小沢「(M-1の決勝に)行きたいと切に思う?」
西野「はい、はい」
小沢「俺、聞いたことあるよ」
西野「なんすか?」
小沢「『行きたい』って気持ちが強い順に受かるんだって
西野「マジっすか? 結構それやったら……結構強いほうだと思いますけど」
小沢「自分ではそう思うでしょ?」
西野「はい」
小沢「行ってる人はもっと強いんだよ
西野「(顔を手で覆いその言葉を噛みしめるように)もっとなんですね……」

お笑いの世界は、誰もが納得するようなハッキリとした順位をつけることができません。
理不尽に思える結果を素直に受け入れられずに、もがき苦しむこともきっとあるでしょう。「M-1グランプリ」のような賞レースだと特に。「どうして俺たちが上がれないんだ、あのコンビより俺たちのほうがウケていたのに……」と。

本人にとって受け入れがたい「M-1グランプリ」予選敗退という現実を突きつけられたとき、それを「行きたい気持ちが強い順に受かる」と無理やり自分を納得させて、前を向くしかない。そうしなければ押しつぶされてしまう。スピードワゴン小沢さんの言葉から、努力が必ず報われるとは限らない世界に生きる厳しさを見た気がしました。