笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

映画のヒーローがロッキーからスパイダーマンになった理由

ちょうど第81回米アカデミー賞の発表・受賞式のニュースが話題になっていますね。
そんなホットな映画のことについて「なるほどな~」と思わされた話を今回は紹介させて下さい。
お馴染みのダイノジの「ヨシモト∞」から。

モハメド・アリというカリスマの登場

2008年5月8日配信の「ヨシモト∞」。ダイノジの60分「大谷のいい話ベスト10」。

ロッキーの話について聞きたい、とおおちさんが大谷さんにリクエスト。

大谷「人から教えてもらった話なんですけど、ロッキーていう映画そもそも皆さん知っているんですかね?」
おおち「ご存知ですか?スタローンの」
大谷「ボクシングのやつでね、実際にあったボクシングを題材とした物語なんですね」
おおち「はい」
大谷「まさにさっき言ったランボーのシルベスター・スタローンが、世の中に出たきっかけのあれなんですけど、あれって要するに、モハメド・アリっていうすごい黒人のボクサーがいたんですね」
おおち「うん、強い」
大谷「蝶のように舞い蜂のように刺すっていう有名な、要はモハメド・アリが出てきたことによって黒人のパワーがものすごく出てきて、アメリカはそれまで黒人は差別されてきたんです」
おおち「うん」
大谷「それがモハメド・アリと共に、それとヒップホップ、ラップとかああいう風なことで、黒人の文化、今もうアメリカって言ったら黒人の方が全然売り上げ多いですよね」
おおち「うん」
大谷「だけどその当時は、ものすごいグワーっと来ていて、どっちかというと白人はこうなってる(手を下に下げる仕草)」
おおち「うんうん」
大谷「そこに、まあいわゆる、あの〜モハメド・アリのかませ犬、ボクシングっていうのは弱い選手をあえてかまして、そしてノックアウトさせることによって、調整させるみたいなね、ボクシングではよくあることなんですけど」
おおち「はい、はい」
大谷「それが実際にあったときに、老ボクサー、あるもう終わってる三十何歳のボクサーが指名されるんですよ、それがロッキーのモデルなんですけど、そいつはボロボロの体で、そのモハメド・アリのどんな攻撃にも耐えて、最終ラウンドまで立つんですよ、で、負けちゃうんですよ、結局」
おおち「うん」

ロッキーは俺の物語だ

大谷「それを見て、当時イタリアからの移民で、しかもシルベスター・スタローンは実は顔の左半分動かないんですね、だからセリフのときすごいゆっくりしゃべるんです」
おおち「はいはい」
大谷「実はそういうのを持ちながら、いつか俺は夢を掴みたいと思ってた男が、あの〜それを見た瞬間に3日で台本を書き上げるんです、で、タイプライターを打っているのはそのときの奥さんです、もう苦労をずっと共にした4畳半のほんとアパートで・・・、4畳半って畳はないか」
(会場笑)
おおち「まあまあまあ、そのぐらいの広さね」
大谷「それで出来上がったのがロッキーなんですね」
大谷「で、まあこの脚本をたまたまオーディションのときに、シルベスター・スタローンは『こういうの書いてるんですけど、どうですか?』って、もうB級映画に対して出していたら、この脚本は面白いと」
おおち「うん」
大谷「当時大スターだったロバート・レッドフォードっていう白人のスターで、これ映画化しようと、2億円出すからどうだと」
おおち「うん」
大谷「そしたらシルベスター・スタローンは断ったんです、この物語は俺の物語だ、俺の人生の物語だから、これは俺が主演じゃなきゃいやだと、で、ごねて、じゃあお前で撮るでいいからその代わり制作費はこれでしか出さないぞったら、2千万ぐらいしかもう出して貰えなかったんです」
おおち「うん」
大谷「それで始まったのがロッキーです、要するに、その当時のアメリカの、本当のアメリカンドリームって言われるやつの元祖みたいな、一番の夢が詰まってる」
おおち「うん」
大谷「そこで、もう映画監督はポルノを撮っているようなB級監督です、ジョン・G・アビルドセンっていう監督なんですけど、それでまあ、当時無名のスターばっかりが出ているロッキーっていうのは、見たことの無い人に説明しますと・・・」

ここで、大谷さんによる映画ロッキーのストーリー解説が簡単に入ります。
主人公のロッキー・バルボアは、イタリアからの移民で弱い賭け事ボクシングをやっているような人間。それがアポロという強いボクサーから指名を受けてかませ犬としてリングに立つ。また、ペットショップに勤める人としゃべれないエイドリアンという恋人の存在も。ロッキーは今まで駄目なやつだったけど、そこから立ち上がって、最終ラウンドまでリングに立っていた。という感じの説明でした。

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本当の結末は違うものだった

大谷「で、ロッキーの話で言うと実はそんときに、まあ出来上がりましたとなったんだけど、本当の結末は違うんですね、結末は最後まで立ってて、勝敗の結果はアポロが勝ったとなっているんだけど、ロッキーはエイドリアンの名前だけ呼ぶわけですよ、恋人の」
おおち「うん」
大谷「エイドリアーン!エイドリアーン!って、勝敗なんてどうだっていい、俺は最後まで立ってて、俺は誇りのある生き方をしたって言って恋人の名前を叫ぶ、ささやかなペットショップで働く貧乏な娘の名前を呼ぶんです、で、エイドリアンがリングに上がってきてふたりは抱き合って終わり、っていうんですけど、もともとのラストシーンは違うんですよね」
おおち「うんうん」
大谷「あの〜もともとのラストシーンは、ロッキーが最終ラウンドをボイコットするっていうストーリー、ボイコットして・・・、あのポスターでたまに見たことあるかもしれませんけど、ロッキーとエイドリアンが手を繋いでいる写真のバックショットのポスターが結構貼られているんですけど、あれが最終シーンなんです」
おおち「本当の」
大谷「要するに、権力とかそんなのに利用されていたけど、俺はそれを放棄してやった、っていう話で終わるのが本当だったのに、それに異を唱えた人がいる、それがロッキー、つまりシルベスター・スタローンのずっと下積みを支えてきた奥さんなんです」
おおち「うん」
大谷「『これおかしいと思わない?なんでロッキーは試合を放棄するの?これってあなたが試合放棄したのと同じじゃない?』って言うんです、で、あの伝説のシーンにもう一回書き直すんです」

まさにアメリカンドリーム

大谷「最終ラウンドの試合で、実はロッキーは最終ラウンドから撮ってるんです」
おおち「うん」
大谷「お客さんはあれ全部ホームレスなんですね、スープとフライドチキンであれして、で、最初からラウンドを撮っていくと、徐々に腫れ上がっていくのとかメイクで足していかないといけないんです」
おおち「はい」
大谷「そうするとお客さんはどんどん飽きていくから、最終ラウンドからやって、どんどんはがしていく方法にして撮ったんです、ものすごいお金がかかってないんです」
おおち「うん」
大谷「ところがこの映画が、それでまあそういうラストシーンとなって公開されると・・・、アメリカ人が失ってたもの、アメリカンドリームとはまさにこのことではないかと、客が押し寄せて、そのポルノ映画しか撮ったことのない監督の作品にですよ、もう空前の大ヒットですよ、いまだにだってあの音楽とかも・・・」
おおち「うん!」
大谷「流れるわけです」
おおち「有名だよね」
大谷「で、ロッキーはそこで大成功です、アカデミー賞獲っちゃう、莫大的なヒットです」

そして、このあとスタローンは苦労を共にした奥さんを捨ててしまい、シリーズを重ねるごとにロッキーのほうが強い存在となって権力を帯びていく悲劇を語りつつ、ファイナルではそれは間違っていて、やっぱり家族が一番だという結末で終わったという話でした。
大谷さんは「これでもあまり面白くないですね」と謙遜していましたが、私はとても面白かったです。

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そんなアメリカンドリームが存在した映画界「ハリウッド」が今(サブプライムローンによる金融危機前)どうなっているのか?これまたお馴染みの「博士も知らないニッポンのウラ」の中で語られていました。

マーベル・コミックの台頭

ミランカ「博士も知らないニッポンのウラ」33回。司会は水道橋博士と宮崎哲弥。ゲストに町山智浩。

町山「ハリウッド映画で今最大のプロダクションっていうのは、マーベルなんですよ、マーベル・コミックがこの5年間で・・・」
博士「確かに、マーベル・コミックの映画化って最近多いですよね〜」
町山「そうでしょ、だってあれって6年間かなんかに、自分だけで調達した資金が600億円なんですよ」
博士「うーん」
町山「マーベル・コミックの映画って、ユニバーサルとか、パラマウントとか、いろんなところから配給されていますけど、あれはパラマウントとか、ユニバーサルは一銭も金払ってないんです」
博士「うん」
町山「全部自分達だけで、メリルリンチを通してマーベル・コミックが集めた金なんです」
宮崎「マーベルの映画で一番成功したのは何?」
町山「今のところ一番成功したのは、スパイダーマン、あとアイアンマン」
博士「アイアンマンとかもそれなりにですもんね」
町山「で、今度キャプテン・アメリカやるんですけど、600億円っていう額はすごくて、大体100億円っていうのは超超超大作ですけど、それが6本も作れちゃうんです、それも他からお金借りないで、ポケットマネーで」
博士「ええ」
町山「それがもうハリウッドで最大の資金の、なんつーかまあ、映画会社だったんですよ、マーベル・コミックがハリウッド最大の映画会社ってすごい異常な状況ですよ」

ロッキーよりスパイダーマンを選ぶ理由

町山「それはどうしてかっていうと、『スパイダーマンの映画にしますよ』って言ったらみんなお金出すでしょ、でも『これは私が書いたシナリオです、じっくり読んでください、非常にいい映画ですから』って投資家がお金出すかと、投資家はシナリオ読めない」
博士「うん・・・」
町山「だからキャラクター物以外は、お金が集まらないという現状なんです、だから映画全部、漫画映画になっちゃったんです」
博士「うん、うん、まあ日本も似たとこありますよね、あとリメイクになっていくと」
町山「そう、だから投資しやすいから、漫画が原作か、テレビが原作か、リメイクだと、投資する人がそれを見ることが出来るけれども、オリジナルのシナリオだと誰もシナリオ読めないから、金出す人が、だから出ない、だからみんなリメイクとか、漫画とか、テレビの」
宮崎「じゃあほら、ザ・プレイヤーでさあ、一生懸命脚本家が売り込みに行くじゃん?ああいうことって今はない?」
町山「今起こってないです、あれは要するに投資をするって決める人は映画会社だったでしょ、ザ・プレイヤーとかは、今投資する、この映画を作るって決めるのは株屋だから」
宮崎「あ〜、そうか」
町山「投資会社、メリルリンチとかが決定するから」
宮崎「じゃあ、(サブプライムローンによる金融危機で)そういうやつらが居なくなるってことは良い事じゃないですか?」
町山「まあ〜、(なんとも言えない表情で)良い事ですね、だから、そういう投資によって映画が作られることは無くなるんで、まあ、良くなるけど、4年ぐらいはカツカツ」
宮崎「カツカツ」

ハリウッドからお金は無くなるけど、その分みんな工夫して、「ゴッドファーザー」のような良質の映画がまた生まれるだろうという希望を持って話していました。

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これは、お笑いの分野でも繋がる部分があるのかな?と。
バラエティ番組でお笑い芸人を起用するとなったとき、例えば「M-1王者」という肩書きがあれば、お金を出すスポンサーは、別にネタを見なくてもゴーサインを出すでしょう。逆に、番組スタッフが、この若手芸人はまだ原石だけど番組で使って育てればきっと輝く、と力説しても首を縦に振らなかったりして・・・
であるならば、みんなが納得する分かりやすい称号をお笑い芸人に持たせることが必要で、「M-1グランプリ」、「R-1ぐらんぷり」、そして、「キングオブコント」といったコンテスト系お笑い番組が増えていくのは、必然なのかもしれませんね。