笑いの飛距離

元・お笑い芸人のちょっとヒヒ話

出川哲朗が明かす「天下を取る芸人」に必要な3つの条件

前回『鈴木おさむ×加地倫三「テレビについて考える」』を書きました。

「めちゃイケ」などを手掛ける放送作家の鈴木おさむさん、テレビ朝日の敏腕プロデューサー加地倫三さん、この2人の熱い対談で前回紹介しきれなかった部分で、こんなやりとりもあったのでした。

今後、お笑い界にスターは誕生するのか?

2011年10月22日放送「鈴木おさむ考えるラジオ」(TBSラジオ)

パーソナリティは鈴木おさむ(放送作家)。
アシスタントは出水麻衣(TBSアナウンサー)。
ゲストは加地倫三(テレビ朝日プロデューサー)。

話題は、お笑い界の未来のスターについて。

鈴木「あの~、加地さん、スターって今いないじゃないですか?なかなか、新しく出てきてる人で」
加地「うん」
鈴木「これからスターって出ないんですかね?」
加地「(悩みながら)う~ん」
鈴木「それ僕ね、真剣にたまに考えちゃうんですね~、やっぱり、さんまさんとか、たけしさんとか」
出水「はい」
鈴木「とんねるずさんとか、ダウンタウンさんとかいますけど、スターと呼ばれる人が、やっぱりなんか~、小粒になったとかよく理解しているし」
加地「うん」
鈴木「逆にそれを補うことのテクニックが、テレビに出来ちゃったりするのがよくないのかな~って思っちゃったりするんですけど」
加地「ステップアップの……今どうしてもこう、手順を踏まなきゃいけないじゃないですか」
鈴木「うん」
加地「ひな壇に座ってとか、そうするとやっぱりひな壇に座ってるの1回見ちゃうと、もうスターじゃなくなっちゃう
鈴木「そうなんですね~」
加地「だから出川哲朗さんが、以前隠し撮りしたときに、『ロンドンハーツ』でブラマヨはすごい面白いけど、要はトップになれないっていう、その~、スターにはなれないっていう風に言ったのは、多分そういうことだと思うんですけどね」
鈴木「はい」

視聴者も仕組みを知ってしまい、ひな壇側の芸人、MC(司会)側の芸人、とはっきり分けて見るようになりました。

ひな壇に一度座ってしまうとスターになりづらい

加地「だからオリラジが最初、バン!って行ったときに」
出水「はい」
加地「もしかしたら……可能性はあって」
出水「ええ」
加地「でも今ひな壇に座っちゃってるから、あのまま座らないで1回いなくなって、ずっと頑張ってやってたら……もしかしたらスターになったかも」
鈴木「う~ん、確かにあの時ちょっと騒ぎましたもんね、『出たかも!』っていう、だからナインティナイン、で、多分ロンドンブーツあたりが、もしかしたら最後」
加地「最後でしょう」
鈴木「でしょうね」
出水「今じゃそれは、芸人さん自身も気付いている……」
鈴木「ありますよ、僕らが見ていながら、腕があったり面白い人っていっぱいいますけど、やっぱなんかナインティナインとか、ロンブーとかが持っている華、その感じ……アレなんでしょうね?鍛えてどうにもなるもんじゃないのかもしれないけど」
加地「まあ、持って生まれたのもある……とかまあ、なんにも色が付く前に、スター性を身に付けている人たちなのかもしれない」

華、すなわちオーラってことですよね。

鈴木「本当に、僕らも望むんですけどね、そういう強烈なパワーの人を……無理なんですかね?」
加地「難しいですね……テクニックがあって、面白い人がいっぱいいる」
鈴木「いっぱいいるんですよ~」
加地「やっぱ若手で、急に出てきて勝ち目はないじゃないですか」
鈴木「はい」

芸人側の現状だけでなく、それを支える側にも言及する加地さん。

加地「あと、番組のスタッフがやっぱりその~、この人と心中するんだっていう、(片岡)飛鳥さんがナインティナインに思ったような
鈴木「なるほどなるほど、根性」
加地「根性と、愛がないと、あと事務所の協力とか全部ないと、なかなか……難しいかもしれないですよね」

加地さんが触れていた「ロンドンハーツ」での出川さん発言。こちらもちょっと紹介させて下さい。

出川哲朗「今の若手芸人で天下を取れる人はいない」

2011年7月12日放送「ロンドンハーツ」(テレビ朝日)

司会はロンドンブーツ1号2号(田村淳・田村亮)。
ゲストは出川哲朗。

「勝手にノミネート!マジメ芸人GP」。この企画で、出川哲朗と番組スタッフが居酒屋で飲んでいるところを隠し撮り。そのときの会話の中で、

スタッフ「出川さん的になんかこう、イキのいいなと思う若手とかいるんですか?」
出川「今はやっぱピースでしょう」
(スタジオから「お~」)
出川「ただ若手もやっぱ出づらいと思いますよ」
スタッフ「上が抜けていかずだもんね」
出川「そうなんですよ、結果若手よりもブラマヨだ、ザキヤマとかのほうが面白いから」
(スタジオのザキヤマ嬉しそう)
出川「結局、今の若手の子たちで、天下を取る人はいないですよ」
(スタジオのロンブー淳「へぇ~」)
出川「天下を取る人がいたら、ああいうひな壇(に芸人)がいっぱいいる中で、ブラマヨがいたって、ザキヤマがいたって、それよりも上行ってるんですよ

出川さんが若手芸人との比較で挙げたブラックマヨネーズ。この「ロンドンハーツ」放送の2ヶ月前、彼らのレギュラー番組にゲスト出演した際、出川さんはこの話に繋がるような質問をぶつけていました。

ブラックマヨネーズは天下を狙っているのか?

2011年5月1日放送「ブラマヨとゆかいな仲間たち」(テレビ朝日)

司会はブラックマヨネーズ(小杉竜一・吉田敬)。
ゲストは出川哲朗。

お互いに質問をぶつけながら展開していくトーク番組。出川哲朗からブラックマヨネーズへの質問は、ずばり「天下を狙っているのか?」。

出川「いやでも、ぶっちゃけね、この(2011年)3月までのブラックマヨネーズっていうのは、俺らとおなんじ側だったんですよ、広い範囲で言ったらね、ひな壇芸人の中の1人だった、でも正直もう、ここもう最近で、ひな壇の天下をある意味取ったわけじゃない、ブラマヨは
(お客さん共感)
小杉「いや……一生懸命、一緒にやらせてもらったっていうのはありますよ、出川さんとかと」
出川「でもね、実際だからほら、俺らやって飲みに行くとそういう話になるじゃん、その番組にブラマヨがいたり、ザキヤマがいると、結局その2組が全部持ってちゃう」
(お客さん納得)
出川「みんなはだからもう、ブラマヨはひな壇芸人の中のトップで行くんだろうな~って、多分みんな思ってたと思うのよ、それがこの3月から、オヤオヤオヤ?」
(お客さん笑)
出川「TBSで番組始めます、はい!日テレで番組始めます、そして、テレ朝で番組始めます、オヤオヤオヤ?(冠番組を連呼するように)ブラックマヨネーズの、ブラックマヨネーズの、ブラックマヨネーズの……アレアレアレアレ?」
小杉「そんないやらしい言い方やめてください!」
(お客さん笑)
吉田「いいじゃないですか!俺ら、レギュラー番組増えたっていいじゃないですか!」
小杉「ははははっ」

ひな壇から降りて、自分たちのメイン番組へシフトしたブラマヨ。この変化に対して、鋭く切り込む出川さん。

出川「これからの要はね、ブラマヨの方向性」
吉田「はい」
出川「(静かに問いかけ始めて、だんだん強く、最後はじけるように)もう、ひな壇芸人はやめて、自分たちのメイン番組だけを頑張って、今度はひな壇芸人の天下じゃなく……この芸人の世界の天下を取りに行ってんじゃないのか、どうなんですか?というのが聞きたい!」
(お客さん爆笑)
吉田「ははははっ!」
小杉「ビッシ~決まりましたね」
吉田「とても質問をぶつける人の態度じゃないですよ」
(お客さん笑)
小杉「前のめりでしたね~」

熱い話が大好きすぎる出川さん。

天下を取っていく芸人たちをそばで見てきた出川哲朗

吉田「でも僕ら、天下を取るという発想になったことホンマないっす」
(うなずく小杉)
出川「ん~」
吉田「はい、僕らホンマ、もらった仕事をちゃんとやってたら、それでエエかなって」
出川「じゃ、ぶっちゃけ話していいですか?」
(ブラマヨの顔色を伺う出川)
出川「僕はもう、真横でウッチャンナンチャン、ダウンタウンさん、ナインティナイン、その連中がもうみんなどんどん天下を取っていくのを、横で見てきましたよ
小杉「はっ、そうですね」
吉田「そうですね」
出川「そう、間近に、そしてブラックマヨネーズが今!」
吉田「はい」
出川「こんだけ2人ともガチで面白くて、天下を狙いに行ってます」
吉田「……まあ狙いに行ってるというか、一生懸命やってます」
出川「いや、狙いに行ってます」
小杉「何回言っても言い切るな、ホンマ」
(お客さん笑)

結論へ。

出川「正直、(スタッフのほうに目線を移動して)これ言っちゃっていいのかな?天下取れるか、取れないか」
吉田「おっ」
出川「ブラックマヨネーズは!……(タメながら2人の顔を交互に何度も見やる)」
吉田「……」
小杉「……」
出川「……天下を取れません!」
小杉「……ちょっと待てよ、オイ!」
(お客さん爆笑)

ブラマヨの2人にボコボコにされる出川さん。もちろんそう見える風で。

出川「違うんだよ!これはね、あの~、ブラックマヨネーズ、申し訳ないけども」
小杉「前半の話何やったんすか!!」
(お客さん笑)
出川「違うの、違うの、違うの!」
吉田「こんなに上げて、落としますか!」
出川「違うの!これはね、あの~、残念ながら天下を取るっていうのはやっぱね、ただ純粋な面白さだけじゃ、天下を取れないんです!

この一言で、スタジオの空気が一変。出川さん、天下を取る芸人に必要な条件を挙げていきます。

天下を取る芸人の条件 その1「女性ファンのワーキャー!がハンパない」

出川「やっぱしね、天下を取る人はね、女の子のワーキャー!のファンがもうハンパじゃない!」
吉田「ハンパじゃない、うん」
出川「ダウンタウンさんも、ウンナンも、ナイナイも、ハンパじゃなかった」
吉田「あ~」
出川「で、今もう街を歩けば、2人はワーキャー!になる、絶対に」
吉田「僕らですか?」
出川「そう」
吉田「いやならないです」
出川「(ダンディに右手を振りながら)もういらない、そんな嘘」
(お客さん爆笑)
小杉「あはははっ!カッコええ~!」
出川「そんなね、吉田ホントね、テレビ的なコメントいらないですから」
小杉「ははははっ」

何度見ても笑っちゃうダンディ出川。

出川「2人なんてもう、今正直ね、めっちゃめちゃモテてんのよ!」
(お客さん同意)
出川「それはもう間違いないのよ、でも!やっぱ天下取る人って、そのモテさじゃないのよね」
吉田「ほ~」
小杉「なるほど」
出川「そのモテさ以上のもっと、もう渦巻くぐらいのワーキャー!」
吉田「あ~」
小杉「だってダウンタウンさんが大阪時代の時は、みんなが学校を早く帰って劇場行ってしまうから、社会問題になってましたもん」
(お客さん驚く)
出川「そうそうそう」

天下を取る芸人の条件 その2「フェイスが良い」

出川「そしてなによりも、天下を取る人たちはまず、フェイスが良い」
(ブラマヨ爆笑)
吉田「そうですね」
小杉「そりゃそうですよ!やっぱり」
出川「あの、かわいそうなことなんだけども、天下を取るフェイスじゃない」
吉田「(全てを受け入れるように)はい」
小杉「あはははっ!」
出川「残念ながら」
小杉「腹立つわ~、ホンマ!」

この指摘について素直に受け入れる吉田さん。

天下を取る芸人の条件 その3「オーラがある」

出川「そして、あの~、オーラだね」
吉田「はいはい」
出川「うん、あのお笑い大好きな人は多分、もうブラマヨ嫌いな人いないと思うのよ……あのお笑いファンは」
(ブラマヨ聞き入る)
出川「でもトータルで考えたら、(小杉を見て)ハゲてるハゲてる(吉田を見て)ブツブツブツブツ×2、って残念ながら思っちゃう人も……」
吉田「はい、そうですね」
出川「いる……のよね、そこは」

この「オーラ」というキーワードは本当によく出てきます。鈴木おさむさんが言った「華」という言葉も「オーラ」と同じ意味でしょうし。

吉田「だから出川さんは要するに、だいぶ時間をかけて、長い時間かけて、俺らは天下取れへんってことを今仰りたいんですか?」
(お客さん爆笑)
小杉「エエ加減にせえよ!ホントに!」
出川「いやいや、ふふふっ」
吉田「あれで、俺らが『狙ってます!』って言ってたら、どんな気持ちで……!」
(お客さん爆笑、出川手を叩いて爆笑)
吉田「あぶないわ~」
小杉「なあ!」
(出川笑い止まらず)
小杉「最初そんなつもりなかったのに、質問されたからなんか、そんなこともあんのかな~思ってワクワクしだしたら、最後どういうことやねん!」
吉田「俺ら何回も言ってましたよね」
吉田・小杉「『狙ってません!』って」
(お客さん笑)
吉田「(出川)『狙ってる!狙ってる!』、でまあまあ、『狙ってるとしましょう』って聞いたら、(出川)『取れないよ!』」
小杉「エエ加減にせえよ!!」
出川「(笑いをこらえながら)気持ちは取ってもらいたいよ!」
小杉「小悪魔すぎるやろ!オイ!」

持ち上げておいて一気に落とす出川さんの小悪魔っぷり、ホント「高低差ありすぎて耳キーンなるわ!」です。

「天下を取る芸人が出てくるのか?」について考えてみるんですが、これだけお笑いを取り巻く環境が激変している状況だと……ネガティブな未来をどうしても描いてしまいます。

お笑い芸人の絶対数はものすごく増加しました。ならば、そこからスターが誕生する確率は上昇するはず。しかし、そうなってない。もしかしたら今の時代、新しいスターってあまり求められていないのかな?とまで思っちゃったりも。天下を取る取らない以外にも、「この芸人さんは昔だったらもっと早く売れてたかな?」とか、「今だったらあの芸人さんは出てこれないかもしれない……」とか、売れる人と売れない人の違いについて今と昔のお笑い界を比較しながら考え出ることもしばしば。

こういうことをぐーっと考え始めると、迷路から抜け出せずオロオロするばかりなんですが、最近ある芸人がズバッと言い切ってくれたのです。

いつの時代だろうが面白い人は必ず売れる

2011年10月21日放送「バナナムーンGOLD」ポッドキャスト(TBSラジオ)

パーソナリティはバナナマン(設楽統・日村勇紀)。
ゲストは土田晃之。

当時の思い出話など、深い話の連続だった本放送。番組終了後、盛り上がった熱そのままに、ポッドキャストに突入。そこで、

土田「なんだろ、ひな壇芸人って、俺らがまだ若手のときに、とりあえずあそこに居ててMC(司会)を、と思ってたけど」
日村「うん」
土田「MCの人たちってホントに、ずっと居るよね」
日村「いるね」
土田「だから、上が空かねえから、ひな壇もどんどん詰まってきてるから、ホント今の若手かわいそうだよね」
日村「確かにそうだね~」
設楽「でもそんなこと言ったら俺らだってそうなんじゃない?俺、そういう話するときにさ、やっぱ、どの時代が大変とか言うけど」
日村「うん」
設楽「あの、昔の歴史からさ、昔はこんな電化製品ないから大変だったとかと一緒でさ、でもその頃はそのレベルだったり、その生活してるから、便利になってきてることに感動して」
土田「うんうん」
設楽「そんなに苦じゃなかったと思う」
日村「うん」
設楽「今こんな便利になってるけど、多分もっとこの先で、未来の人は『昔これでやっての……』みたいな感覚があると思うから」
日村「うん」
土田「ああ~」
設楽「その世代、その世代で確かに、(お笑い)やってる人数は違うとは思うんだけど、出れる人は出てるし、出れない人は出れないんじゃないかな?ってのもある
土田「あ~、そうね」

ナイナイ岡村さんもラジオで、「面白い人は時間かかっても必ず出てくる」と何度も仰っていました。さまぁ~ずがゲストに来た時にも、このフレーズを使った気がします。

先ほどのブラックマヨネーズ。自分たちのメイン番組を持ったことで、お笑い界の先頭集団に合流したと言っていいと思います。バナナマンもこの先頭集団に遅かれ早かれ、必ず加わるはず。

数年後のお笑い界は、ブラックマヨネーズとバナナマンが先頭集団にいて、しかも前の方を走っていて、ペースを作ってみんなを引っ張っていく、脱落しそうな人間には手を差し伸べる、そういった存在になっているんじゃないでしょうか。ってか、そうなっていて欲しいという願望です。

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クイック・ジャパン97

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  • 作者: ロンドンブーツ1号2号,ピエール瀧,中村珍,大泉洋,春名風花,女王蜂,鈴木おさむ,板尾創路,ももいろクローバー,玉井詩織,向井理,山下達郎,樋口毅宏
  • 出版社/メーカー: 太田出版
  • 発売日: 2011/08/11
  • メディア: 単行本
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